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雨の日

このところ雨の日が続いているせいで、

オレたちはファルコン号で外出できていない。

だから温泉三昧の日々を過ごしている。

それはそれで平穏で幸福な毎日なんだけれども。

オレたちには研究とか物づくりとか、本来、やりたいことは山ほどある。

雨の日こそ、研究室にこもって研究三昧、

あるいは工房にこもって工作三昧するべきだろう。

頭ではそう考えてる。

だけどさ。

そう上手く頭を切り替えられない。

雨が降るとなぜか、頑張るぞ!というモチベーションが下がる。

だらだらとリラックスしたくなる。

これが心の複雑なところなんだよ。

オレはベッドの上で、雨音を聞きながらまどろんでいる。

雨音がきもちー。

…。

この世界にも雨は降る。

神界に雨の神(メイド幼女)がいるくらいだぞ。

美少年の草の神のパートナーで、現在ご懐妊中だぞ。

この世界にも雨は降るんだよ。

シトシト、シトシト。

雨音っていいよな。

脳がリラックスする。

オレはガンテツがしてくれた神々の話を思い出した。

ガンテツいわく。

風の神が開発した風魔法にコントロールウェザーがあるのだと言う。

風の神と水の神、配下の魔法使いたちが協力して

コントロールウェザーを進化させ細分化させたのだと言う。

それで、雨の神、霧の神、雲の神、空の神、雪の神が生まれたと言う。

天候を操る魔法コントロールウェザー。

おそらくは上級魔法。

えげつない魔法だよ。

とある異世界小説ではコントロールウェザーは第6位階魔法だっけ?

…。

今オレがいる世界は、以前より少し広がった。拡張された。

オレとゲイルが異世界転生してダンジョン攻略を頑張っていた頃、

オレたちの世界は箱庭の中だった。

箱庭の中では雨が降ることは少なかった。

おそらくは神々が天候をコントロールしていたのだろう。

オレたちが今住んでいる鬼族の里のカムナビ温泉は、

箱庭だった場所より外側にあり、すなわち辺境に位置する。

この場所は熱帯気候に似ていて雨季(梅雨)がある。

世界ってさ。

意識によって広がるんだな。

オレたちが箱庭の中にいた時、

オレとゲイルは、ダンジョン攻略のことしか頭になかった。

おそらくは思考誘導されていた。

世界=ダンジョン+街。

そんな感じだった。

ミラはどうだったんだろう。

エルフの里から出てきてダンジョン攻略だよな。

ガンテツはオレの監視役としてパーティに参加と聞いている。

ステラはガンテツの監視役としてパーティに参加したのだろう。

その後、ルカとリリーナとエルザとマーチが仲間になって、

異世界転移者であるマーチ、異世界転生者であるゲイルとオレが

「星が無い」「天動説」「箱庭の中」という話をしたことで

オレの意識が変わった。

この世界を、いや。

オレの世界を拡張したいという気持ちが芽生えた。

仲間と共にダンジョンを攻略し終えた後、

神界にてオレは、箱庭の結界をぶち破って世界を拡張すると宣言した。

うん…。やっぱり、そうだな。

オレは「オレの世界」を拡張したいと考えたんだ。

そして仲間の力を全面的に借りて箱庭の結界をぶち破った。

オレにとっては仲間たちの存在がありがたい。

オレは微力だ。

いつも仲間に助けてもらっている。

…。

だけど、オレはオレを万能だと感じることもある。

箱庭の結界をぶち破った時のことだ。

世界という概念が箱庭から惑星全体へと拡張した。

天動説から地動説へと意識が書き換わった。

グラリと世界が揺れ動き、世界全体が広がった。

オレが異世界転生してやってきた、この世界。

この世界そのものが広がった。

それはオレの主観だけかもしれないんだけどさ。

オレの命はゲームチックなライフではなくなり、命の価値が重くなった。

オレはそう感じた。

・・・

オレはまどろみの中、元の世界で大学生だった頃の講義を思い出した。

あれもシトシトと雨が降る日だった。

教授は黒板にこう書いた。

「生物学的視点で考えた時、命の重さに関して性別で差があるか?」

教授は次々に学生を指差していく。

首をひねる学生たち。

ある男子学生が答えた。

「命の重さは平等です。人はみな平等です。」

教授はフッと鼻で笑って答える。

今は道徳の時間ではない。生物学的視点で考えてくれ。他には?

ある女子生徒が挙手した。

「男性に生まれるか女性に生まれるか。その確率は等しい。つまり平等です。」

教授は黒板に書いた。

「男女の生まれる確率は等しい。」

そして再び学生に問う。

「この状況が生物にとって効率的かどうかを考えてくれ。」

ざわざわと学生たちがどよめいた。

隣同士で意見交換し始める学生たち。

ある男子学生が手を上げて答えた。

「子供を産むことが出来るのは女性だけですから女性が多い方が効率的です。」

おおっと学生たちが声を上げた。

なるほど、とオレも納得した。

教授は黒板に「比率:メス>オス」と書いた。

「では4~5人でグループになって比率を考えてくれ。2:1か10:1か50:1か300:1か。」

教授はそういって黒板に、2:1、10:1、50:1、300:1と書いた。

…。

その後、教授の講義は続いた。

鶏を平飼いする場合、人間はメスとオスの比率を20:1程度で管理する。

養鶏場で卵を生産している場合は100%がメス。オスはゼロだ。

養鶏場という閉じられた世界ではオスは不要なのだ。

養鶏場とは別に「種鶏場」という施設があり、

そこで生まれた場合のみオスは生き残ることができる。

他の生物についても、

蜂はメスとオスは10:1。

鮒ならメスとオスは100:1。

教授は黒板に殴り書きした。

教授の字はミミズのようで判別しにくい。

ちなみにミミズは雌雄同体。

1匹で卵子と精子の両方を持つ。

2匹が↑↓のようにすれ違いながら交尾を行う。これも教授が黒板に書いた。

字がミミズのようだというのは教授自身も認識しているのだとオレは気づいた。

教授は口頭で説明を加えた。

自然界においてもメスに生まれるかオスに生まれるかの確率は1:1とは限らない。

ただし、生まれる確率=命の重さというのは極論だ。

「命の重さ=価値」

教授がゆっくりと黒板に書いた。

「人間は鶏の性別に、というか卵に価値を見出した。

では質問。メスとオスを産み分けられるか?」

その後も教授の講義は続いた。

講義の要点は以下の通りだった。

・養鶏の場合、現在はメスとオスを産み分けることは一般的でない。

・畜産業においては精子をXY分離してから人工授精する研究が進んでいる。

精子にはX染色体を含むX精子と、Y染色体を含むY精子がある。

X染色体を含む精子=メスが生まれる精子。

Y染色体を含む精子=オスが生まれる精子。

X精子とY精子の分離には様々な手法が考えられるが、

おそらく最終的には重さの違い=遠心分離を活用する方法になる。

X染色体とY染色体には違いがあるのだから、

その違っている部分を特定して、そこに何かを結合させればいい。

このようなテクニックが生物工学である。

また精子には鞭毛と呼ばれる泳ぐための機構が存在し、

そのエネルギー効率は極めて高い。鞭毛モーターと呼ぶ。

ナノマシンを実現するならばエンジンは鞭毛モーターとなる。

教授の話はとめどが無かった。

不妊の原因として男性側に問題がある「雄性不妊」のケースが…云々。

雄性不妊の実例として綿実油のゴシポールの事例が中国江蘇省で…云々。

おそらくは鞭毛モーターの異常動作…云々。

ウイルス感染や合成樹脂による食品汚染で雄性不妊になる可能性が…云々。

幹細胞から受精卵に巻き戻せば…云々。

双子、四つ子に増やしたいなら初期胚を取り出して、おそまつ的に云々。

これらは無意識的に「普通のこと」として刷り込まれつつあって、

アニメ作品としては女性キャラしか出てこない作品が多数存在し…云々。

全員同じ顔をしていて髪型とか服装とか性格でキャラに差をつける作品が…云々。

…。

教授はアカデミックな話からマッドサイエンティフィックな話を経て、

アニメチック、ゲームチックな話へと見事に繋げたのだった。

・・・

オレが大学時代の記憶を鮮明に思い出した時、

オレの海馬から電気パルスが発生し神経回路に繋がった。

Gravidity and Parity(妊娠と出産歴)。

Gravity(重力)とGravidity(身重:みおも=妊娠)の親和性。

…。

オレは大学院で分子生物学を専攻したが、結局はIT業界に就職した。

一口にIT業界と言っても、顧客とする業種別に専門知識が異なるため、

IT業界の組織は縦割りとなっていた。

オレは製薬企業および病院を担当するヘルスケア担当部署に長くいた。

これは分子生物学の修士課程卒業だから、まあまあ妥当だろう。

それはそれとして。

まずはParityパリティ

IT業界では、正しく演算できたかどうかを検算する目的でパリティチェックする。

パリティ(Parity)は、そもそもは奇数か偶数かの検算だ。

偶数と奇数を足せば奇数となり、

奇数と奇数を足せば偶数となり、

偶数と偶数を足せば偶数になる。

それをコンピュータは検算の一つとして用いる。

検算が必要だったのだから昔のコンピュータは計算ミスすることが前提だったのだ。

その後、パリティは検算全般の意味に転じ、FalseかTrueかというフラグ的な意味にもなった。

そしてParityパリティは製薬企業や病院においては、

「出産歴があるかないか」という意味で用いられている。

ただしParityを単独で用いるケースは少なく、

「Gravidity and Parity」という2つの単語をセットとして

「妊娠と出産歴」と解釈する。

「重力とパリティ」と翻訳してしまうと解釈を大きく誤る。

こういうウンチクがIT業界が必要とする業種特化の専門知識になる。

ちなみにGravidityとGravityは微妙にスペルが違うのだが、

多くの自動翻訳アルゴリズムではGravidityとGravityを同一と解釈してしまう。

オレが働いていた頃の人工知能は、ヘルスケア専門辞書を与えて、

ようやく正しく自動翻訳できる確率が80%というレベルだった。

オレは当時、語源を考察したことがある。

Gravidity(身重=妊娠)。

日本語に身重みおもという言葉があるおかげで助かった。

妊婦さんが、よっこらしょ、となるのは世界共通ということだろう。

出産歴(Parity)。

Gravidity and Parityとなれば、ParityはGravidity経験者というフラグ。

医師の視点で考えれば、妊婦と授乳婦は骨密度の低下に注意が必要だ。

Pregnant(妊娠)。

gnはGenerate(生む)意味が同じ。

-antはアシスタント(Assistant)に含まれるように、~する人という意味がある。

Pre-は(前)という意味だから「生む人の前」。すなわち妊娠となる。

すべてウンチク。

「Gravidity and Parity」の表記を誤解しないためだ。

・・・

Gravidity(身重:みおも)と重力(Gravity)の記憶が蘇ったことで、

オレは更に、大学時代に受けた別の講義のことを鮮明に思い出した。

分子生物学は物理学と生物学を両親とした学問であり、

話が物理学に近くなることもある。

教授は黒板に書いた。

「沖縄のボクサーと北海道のボクサー。どちらが重いか?」

オレの友人の男子学生が挙手した。

彼は高校生時代にボクシング部の選手だったと酒の席で聞いた。

ボクサーの話になったなら黙ってはいられないのだろう。

かなり細マッチョ。

ゲイルと会った時に親近感を覚えたのは、

オレの脳みそにあった、この友人の記憶と重なったからかもしれない。

オレの友人は自信満々に答えた。

「天秤ハカリで計量しているなら同じ。

銭湯にあるようなバネバカリだと緯度に起因して誤差が出る。

同じフェザー級というつもりでも、バネバカリを使っていたなら、

東京で測定し直せば北海道の選手より沖縄の選手の方が重い。

だからボクサーが計量する時は天秤ハカリを使う。」

立て板に水のような説明だった。

オレは「井戸」に起因してというのが理解できなかったが。

「100点。みんな拍手。」

教授はそう笑顔で褒め、学生たちに拍手を促した。

教授は黒板に地球の絵を描いた。

地球の内側に太めの矢印を追加し「重力」と書いた。

地球が自転していることを示す回転する矢印を書き加え、

地球の外側に向けて細い矢印、そして「遠心力」と書いた。

教授は口頭で説明を加える。

地球の自転により遠心力が発生する。

この遠心力は北極や南極ではゼロ。

北海道は緯度が高いため、回転半径が小さく遠心力が小さい。

沖縄は緯度が低いため、回転半径が大きく遠心力が大きい。

遠心力の違いによってバネバカリには測定誤差が生まれる。

だから市販される体重計には誤差を補正するための機能がある。

このように測定器は誤差が生まれることが多い。

あらゆるハカリは定期的に較正キャリブレーションする必要がある。

・・・

この世界には土魔法グラビティコントロールがある。

だがそれは名目だけであり、

惑星が持つ「重力=引力」をコントロールしているわけではない。

そんな大それたことをすれば、この惑星全体で大混乱だ。

だからグラビティコントロールは名前に嘘がある。

コントロールウェザーが上級魔法。

グラビティコントロールが中級魔法なのだ。

中級魔法なんだからそれ相応なレベルでしかないのは間違いない。

オレは今ようやく謎を解明できた気がする。

グラビティゼロは、対象が持つ「遠心力」を強めることで

「惑星からの引力」を打ち消しているのではないか?

そしてオレには盲点があった。

うっかりしていた。

グラビティゼロの魔法があるならば、

第一宇宙速度を実現せずとも重力の束縛から離れることが出来る。

死んでも良いならば宇宙空間に飛び立つことは可能だ。

問題は低気圧。

真空。

真空に耐えさえすれば、なんとかなる。

ロケットエンジンが実現できずとも構わない。

スピードが遅ければ宇宙の旅は遅々として進まないかもしれないが、

それは宇宙に出てから、また考えてもいいだろう。

…。

当面の目標はファルコン号を高度1万メートルで飛行できるようにしたい。

高度1万メートルの気圧は0.2気圧。

元の世界のチョモランマの頂上8848メートルよりも気圧が低い。

アブラマシマシニンニクチョモランマ。

…ゴホン。

オレは死んでしまうだろう。

ルカが三重極大化したホーリープロテクションを使えば

0.2気圧でも耐えられるかもしれないが、

オレはルカに負担を強いたくはない。

ファルコン号内部の気圧としては0.8気圧程度を維持したい。

そうすればルカのホーリープロテクションに頼らずとも、

ファルコン号は安定した航行が可能となるだろう。

オレのモチベーションが飛躍的に高まった。

そしてオレはベッドから起き上がった。

やるぜ!

雨は今もシトシトと優しく降っている。

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