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第57話 vsガラトラ+北方の餓狼

「あ、君たち!」


 警官の制止の声。しかし、衛たちはその制止の声を聞かずに通行止めの黄色いガードを飛び越え、走り抜けた。


「戻りなさい!」


 背後から警官の声がする。


「ごめんなさい!」


 衛は振り返らずに謝る。どうせ理由を説明したところで信じてもらえる話でもない。

 だからこその強行突破。

 それしかない。

 まだ混乱は収まっていないようで、通行止めの内側でも警官たちが活動していて、人々の避難を手助けしている。

 セシリアがつぶやく。


「で、ガラトラはどこなんだ?」

「逃げてきている人の流れの、逆じゃないのか?」

「なるほど」

「おい、君たち! そっちは危ないぞ! 警官の指示に従って避難しなさい!」


 警官の声が飛んでくる。

 衛とセシリアは顔を見合わせて笑った。


「こっちであっているっぽいな」


 戻れは、二人にとっての前に進め。

 その方向にこそ、ガラトラがいる。

 警官の制止を振り切り、人の流れを逆にたどっていくと、聞こえてくる破壊音や悲鳴がだんだんと大きくなっている。

 衛もセシリアも無言で走った。

 走りながら二人とも同じく思った。


(この先にやつがいる――)


 そしてついにガラトラの姿を視界にとらえた。

 金属鎧に身を包んだガラトラが抜き身の剣を持って立っている。

 ガラトラの周りには切り捨てられた一般人や警官の死体が転がっていた。

 ガラトラの眼前には壁に追い詰められた若い男が立っていた。若い男は怯えきった瞳でガラトラを見て、がたがたと震えている。


「ガラトラァッ!」


 まだ距離はあるが、衛は叫んだ。

 その声に反応したガラトラが衛たちを見る。

 瞬間、その顔が喜色に歪む。

 咆哮のような声をガラトラが発した。


「ついに来たかッ! 待ちわびたぞ!」


 ガラトラの前にいた若い男が、ガラトラの注意がそれた瞬間に逃げ出した。

 だが、ガラトラは構わない。

 もうガラトラの目には衛とセシリアしか映っていなかった。

 惨殺してきた人々も破壊してきた建物も車も。すべては衛たちを呼び出すためのにえでしかない。

 ガラトラが剣を振り回す。

 発生した衝撃波が空気を切り裂いて衛たちに襲いかかる。

 ぎぃん! ぎぃん!

 衛の身体に当たるたびに耳障りな音がするが、それだけ。セシリアもマントの下から祝福の剣を抜き出し、衝撃波をはたき落とす。

 以前と同じく――

 こんなものは衛たちにはきかない。


「まあ、これじゃあ話にならんのはわかってるよなあ」


 ガラトラに焦った様子はない。余裕の笑みすら浮かべて衛たちへと近づいていく。

 三人が肉薄した。


「はははははは、楽しいなあ!」


 狂喜の笑いを浮かべたガラトラの剣とセシリアの剣が交錯する。

 その脇をすり抜けて、衛はガラトラへと肉薄する。


(鎧がやっかいだ――)


 衛の攻撃手段は打撃。金属鎧が邪魔だ。


(ならば、顔面を殴るだけ!)


 衛が踏み込んでガラトラに殴りかかるが――

「出し惜しみは無しだ!」


 ガラトラの左腕が衛のほうを向く。

 それが何を意味するのか。衛はすぐに理解した。

 爆音とともに膨張するガラトラの左腕。衛はとっさに両腕を交差してその衝撃を受け止める。

 身体の芯を揺らすような衝撃が衛を貫いた。


「うお!?」


 衛の身体は受け止めた姿勢のまま、ずずっと後ろへと下がる。アスファルトのうえを高速で滑った靴が嫌な音を立てた。


(……やっぱり、前ほどの力はまだないか……)


 以前の、ガラトラを圧倒した力。

 それがまた眠りについていることに衛は気づいていた。

 もちろん――

「どうしたァッ!? 前よりも脆いんじゃないか!?」


 ガラトラもそれに気づく。


「まだ暖まってないだけさ!」


 まだ余力がある。

 衛はそう思うことにした。

 戦況は悪くなかった。ガラトラの左腕を受け止めるには充分な防御力ならあるのだ。衛の防御は機能している。

 盾が機能していれば――

 矛が動きやすくなる。


「つあっ!」


 気合いの声とともに一閃。セシリアの剣がガラトラの鎧を切り裂いた。鋼鉄に斜めの亀裂が走る。


「ちぃ!」


 舌をうちながら距離を離そうとするガラトラ。

 その後退にあわせてセシリアがさらに踏み込み、ガラトラの右手の剣を弾き飛ばす。

 だがガラトラもセシリアの腹を蹴り飛ばしてひるませる。

 そのわずかな間。

 衛は前進し――

 ガラトラが背中の巨大な剣に手を伸ばした。


「やはりこいつを使わないとダメだなあ!」

(なんでもこい! 俺が受け止めてやる!)


 衛はガラトラの眼前に身を躍らせる。

 ガラトラが引き抜いた剣を見た瞬間――

 セシリアが叫ぶ。


「下がれ! 衛!」


 反射的に衛は身をそらせた。

 圧倒的で巨大な質量がずん、と大気を切り裂いた。ガラトラが振り下ろしたのは二メートルもの大剣。その巨大な刃はアスファルトの地面まで届き――その切っ先はアスファルトを二つに裂いて、下へと沈み込んでいる。


「……な、なにが……?」


 衛は自分の右胸を押さえてあえいだ。手のひらはあふれでる血で赤く染まっている。

 自分の血――衛が久しく見たことのないものだ。

 出血はしていたが、それほど深刻な傷ではなかった。セシリアの注意がなければ今ごろ真っ二つになっていただろうが。

 傷はむしろ身体よりも心。

 あの巨大な刃は、衛の鉄壁ともいえる防御力を突破した――

 それが間もおるの心に衝撃を与えた。


「くっくっくっく……残念、かわしたか」


 ガラトラがセシリアを見た。


「知っていたのか、セシリア?」

「北方の餓狼――かつてアーベルーダが持っていた神器級の武器だ」

「その通り。こいつに斬れないものはない!」

「――最後の戦いで砕け散っていたはずだが?」

「勇者との戦いで砕けたが――復活したのさ」


 ガラトラが肥大化したアーベルーダの左腕で北方の餓狼を持つ。


「これで懐かしい感じだ。そうだろう、セシリア?」

「まったくお前は――主の左腕を奪い、主の剣を使う。お前自身のものはないのか?」

「黙れッ! もうこれは俺の腕、俺の剣! 俺のものだ!」


 激高したガラトラが北方の餓狼を振るった。

 筋肉で膨張した左腕は巨大な大剣を竹刀のように振り回す。まるで刃の結界。おまけにその一撃一撃がすべて致命の威力。


「――ッ!」


 衛はたまらず後ろへと下がる。

 代わりに前に出たのはセシリアだ。

 セシリアの祝福の剣が北方の餓狼とぶつかり火花を散らす。


「ほぅ? 北方の餓狼とぶつかって無事とはな!?」

「この祝福の剣もまた神器級――舐めてもらっては困るな!」


 ガラトラの剛力をセシリアの技が受け流した。双方、達人級の技量がぶつかりあい無限に近い金属音を打ち鳴らす。

 膠着状態。


(くそ……俺はどうしたらいいんだ!)


 衛は自分が歯がゆかった。

 今の自分では前に出ることができない。衛が射程範囲に入ればガラトラは嬉々として衛を狙い、セシリアは衛を守ることで手が一杯になってしまう。

 だが、時間に余裕がないのは明らかだった。

 一撃もらえばセシリアは死ぬ。いかにセシリアといえども刃の嵐を受け流し続けるのは無理がある。


「くっそ……!」


 焦りに突き動かされた衛が動こうとした瞬間――

「衛、来るな!」


 セシリアの制止が飛ぶ。


「だ、だけどセシリアさん! このままだと……!」

「焦りで動くな! 死に近づくだけだ! 冷静に状況を観察しろ! 必要なのは勝つための行動だ!」

「ははははははは! ご高説だな! だが、それでどうする! 観察してどうなる! お前がなます斬りになる未来しかないぞ!」

「ふん……観察しているさ」


 セシリアの声が鋭さを帯びる。


「ガラトラ、貴様の北方の餓狼……その場しのぎの修復だろ?」

「……なんの話だ?」

「ごまかすな。わたしが今まで幾千の武器と戦ってきたと思う? その武器、明らかに普通の状態とは違うぞ」

「意味がわからんなあ!」

「そうか。つまりは――こういうことだ!」


 セシリアが狙いすました一撃を、北方の餓狼の幅広い刃に叩き込んだ。

 その一撃は正確に、北方の餓狼の破片を連結する鋭刃Lv.10のつなぎの部分を打ち抜いた。

 びきぃ!

 金属に亀裂の走る音がした。


「な、なんだとぉ!?」


 ガラトラの声が動転する。

 セシリアはただガラトラの武器を受け流し続けていたわけではなかった。少しずつ餓狼のつなぎ目にダメージを与え続けていたのだ。

 そしてさっき――

 とどめの一撃を打ち放った。

 だが、セシリアにも計算違いはあった。

 確実に打ち砕くはずだった北方の餓狼は、ひびが入っただけでそこまでだった。


「な……なに?」

「くくくく……さすがは大機工の修復だな。粘りが違う!」

「大機工!? まさか、シャルティエがきているのか!?」



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