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第49話 君はそういう感じがいいよ、ガラトラくん

「ただの性能検査さ」


 シャルティエが指を鳴らすと――

 シャルティエの影から、黒い円上の影が五つ飛び出した。


「!?」


 予想外のことにガラトラは目を見開く。

 飛び出した五つの影からむくむくと黒いかたまりが伸び上がってきた。一二〇センチくらいの小柄で、人型の何か。コールタールのように真っ黒だが、目の部分だけ赤く輝いている。小さな手には黒い剣や斧のような武器をめいめい持っていた。

 シャルティエが笑った。


「くくく……面白いだろ? 影の人形シャドウドールと僕は名付けている。魔力から作った自動的に戦う人形だよ」

「ふぅん。強いのか?」

「さあ、どうだろう? それを試させてくれないかな? 君で」

「上等だ」


 ガラトラの返事を合図にシャルティエが腕を振るう。

 同時――

 人形が一斉にガラトラへと襲いかかった。

 五体からの同時攻撃であっても――鎧も武器も持たない無手であっても――ガラトラはひるまない。

 振り下ろされた剣をあっさりかわし、


「死ねッ!」


 ガラトラのこぶしが人形の頭を打ち抜く。まるで風船が割れるかのように、人形の頭が消し飛んだ。力を失った人形はコンクリートにはいくばるよりも早く空気へと蒸発した。

 残り四体も襲いかかってくるが――

 ガラトラの敵ではなかった。


「おらあッ!」


 ガラトラの回し蹴りがまとめて人形たちを蹴散らす。

 その一撃で吹っ飛び消えたのは――三体。

 最後の一体が飛び上がり、背後からガラトラの脳天へと斧を振り下ろした。

 小さな人形の身体が前転するかのような、勢いのある一撃。

 ぎっ、と鈍い音がして――

 人形の握っていた斧が砕け散った。

 上級魔族であるガラトラには、高位の魔法の武器でなければダメージを与えられないのだ。


「何かしたか?」


 笑顔まじりにガラトラが振り返り、最後の一体の首をつかむ。


「終わりだッ!」


 ガラトラは勢いをつけて人形の頭をコンクリートの床に叩きつけた。頭部を失った人形の身体が蒸発して消える。

 シャルティエが拍手をした。


「いやはや。さすがはアーベルーダの優秀な部下ガラトラくんだね。五体がかりでも一瞬で倒すとは」

「ふざけているのか」


 ガラトラは不機嫌な目つきでシャルティエを見る。


「なんだこれは? 肩慣らしにもならないぞ」

「いいのさ、それで。別に君のような魔族を殺すための兵器じゃなくて――そこら辺の人間を殺すためのものなんだからね。一匹の象で蟻は殺し尽くせない。同じ蟻を使うべきだと思うんだけど、どうだろうか?」


 ガラトラは思い出した。

 シャルティエの最終目標は勇者の打倒ではない。それは目標のひとつでしかなく――彼が目指すゴールはこの地からの人類の掃滅だ。確かにガラトラとシャルティエは一騎当千だが――たった二人では時間がかかって仕方がない。


「なるほどな……ザコどもにはこれで充分だろうな」

「そうだね、よく動いていた。急造でも充分だよ」


 シャルティエが楽しげに笑う。


「だけどガラトラくん。少し訂正しよう。こいつの力は君が思っているほど弱くもないよ」

「どこがだ? こいつらが一〇〇体いても俺は困らないが?」

「本当にそうかな?」


 シャルティエがいたずらっぽく笑う。

 再びシャルティエが指を鳴らす。

 すると今度は一〇個の影がシャルティエの足下から飛び出した。


「おいおい、ゼロの数が足りてないぜ」

「いや……これでいいのさ」


 シャルティエが口元をゆがめる。


「君に死なれても困るからね」

「どういう――」


 意味だ、という言葉をガラトラは呑み込んだ。

 さっきはそれぞれの影から人形が飛び出してきたが、今度は違った。一〇個の影が重なり――生まれた大きな影から巨大な何かが這い出てきた。

 それは大きな右腕だった。

 長さはガラトラの身長をはるかにしのぐ。

 右腕はこぶしを握りしめ――

 渾身のストレートをガラトラ目掛けて打ち放った。


(これは――危険だ!)


 ガラトラの本能が警告をがんがんと鳴らした。ガラトラは両腕を交差させる。

 膨大な圧力がガラトラの身体を呑み込んだ。


「ぬ、ぐおッ!?」


 ガラトラは両足を踏ん張るが、押し寄せる奔流をさえぎるにはまったく足りなかった。

 ガラトラの身体が吹っ飛び――マンション屋上の手すりに激突、激しい音ともに手すりは大きく歪んだ。

 ガラトラは自分の腕を見た。あまりの衝撃。いまだに感覚はなく、びりびりと痺れている。


(な、なんだあれは――)


 呆然とガラトラは巨大な腕を見る。


「――ガラトラくん。あまり大機工ザ・マシーナリの肩書きを舐めないほうがいいよ」


 シャルティエが指を鳴らすと――右腕が影へと沈んだ。

 ガラトラはふらつきながらもシャルティエへと近づく。


「いや、そうでもないさ……あんたのすごさはよくわかっている」


 お世辞ではなかった。

 アーベルーダと始めて戦い――圧倒的な力でねじ伏せられたときのような力量差。それと全く同じものをガラトラはシャルティエからも感じていた。

 これが十鬼将。

 上級魔族のガラトラの力をもってしても遠く及ばない次元――


「おやおや。ガラトラくんが従順になるなんてねえ……何にでも噛みつく狂犬っぷりが君のいいところなのに。そうだ。そんな君に新しい牙をあげよう」


 シャルティエが空間を手で撫でる。まるでジッパーを開くように空間が開き――そこから取り出したものをガラトラにひょいと投げる。

 軽く投げたが――

 それはあまりにも大きかった。

 ガラトラがそれを受け取る。

 ずしりとした重さがガラトラの手に伝わった。

 長さ二メートルはある巨大な大剣だった。


「それをあげるから元気を出したまえよ、ガラトラくん。僕からの回復祝いだ」

「これは――」


 ガラトラの手に握られているもの。

 それはガラトラがよく知るものだ。

 北方の餓狼――彼の元主君であるアーベルーダが愛用していた神器級の武器。勇者イオリとの戦いで打ち砕かれたが、シャルティエがガラトラの『鋭刃Lv.10』の残骸を使って復活させたものだ。


「さっき修繕が完了したんだよ。前にも言ったけど、耐久性はほとんどない。あくまでも本番用だ。それを忘れないようにね」


 シャルティエの言葉はすでにガラトラの耳には届いていなかった。

 神器級の武器――

 武器の強さとはすなわち即席的に武人の強さを格上げする。

 すべての武人が欲する最高位のアイテム。それが神器級だ。

 自分の手にその至宝が入った瞬間、ガラトラの頭の中はこの武器をどう運用するかで一杯だった。

 その様子を見て、シャルティエが薄く笑う。


「いいじゃないか。そうだ。それでこそだ。君はそういう感じがいいよ、ガラトラくん」


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