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第44話 みんなでお散歩、からの

 朝食を終えてから三人は家を出た。

 セシリアがこう言ったからだ。


「周辺の地理に詳しくなっておきたい。そのついでに君たちの学校に案内してほしい」


 衛としては警官がうようよいる状態で外に出たくはなかったが、セシリアが主張を曲げなかった。

 曰く、軍事の基本は交戦地域の地理情報を集めることから始まる――らしい。

 そもそもセシリアは学校を休むよう言ってきた。


「わたしが家にいて、君たちがそれぞれの学校に行っている。ここで攻撃を食らえばひとたまりもない。しばらくは学校に休み、この家で防衛体制を整えるべきだ」


 これには衛といおりが反対した。

 一日二日ならともかく長期ともなると勉強に遅れが出てしまう。そもそも理由もなくそんなに休めるものでもない。


「わかった。君たちには君たちの生活がある。わたしはそれを尊重しよう。ならば、君たちを守る責任のあるわたしの意見も尊重してほしい」


 そう言って出してきた条件が『今日のお出かけ』だった。

 なにかあったとき、君たちのもとに駆けつけるための情報くらいは欲しい。それがセシリアの意見だった。

 外出は避けたかったが、セシリアの主張は正しかった。よって、三人で出かけることになった。


「だけど、セシリアさんの服がないぞ? マントは論外だし、ジャージ姿もな……」


 サングラスでジャージ姿とか、服装のセンスが弾けすぎている。


「ふっふっふっふ」


 いおりはリビングの片隅に置いてあった紙袋へと歩み寄った。


「じゃじゃーん、こんなこともあろうかと買っておきました!」


 いおりが紙袋から取り出してさしたものは――服だった。


「ヘアカラーを買いにいくついでに買っておきました。セシリアさんの服!」

「どおりでなんか時間がかかってるな、と思っていたら……」

「ほらほらほら! これとかこれとかこれとか、ううん、全部全部チョーかわいくない!? ね、ね、セッシー?」


 テンションあがりまくりのいおりに対して、差し出された服の束を前にしたセシリアは表情は硬かった。

 というか、困ったような表情を浮かべていた。


「おいおい、いおり、セシリアさん困ってるぞ?」

「え、ええ?」


 いおりの表情が露骨に曇る。


「あ……セッシー、迷惑だった……? 服の趣味もわからないのに先走っちゃったかな……」


 セシリアはふっと笑い、表情を解く。まぶしいものを見るような目でいおりを見た。


「いや、そんなことはない。とても嬉しいぞ」


 セシリアがいおりの頭を撫でた。


「ただ、わたしは剣の稽古ばかりでな……こういうことには疎くて、少し驚いたのだ。できれば、いろいろ教えてくれないかな?」


 いおりの表情が、大好きな飼い主に会った犬のようにぱあっと明るくなった。


「うんうんうん! 教えるよ! 一緒にやろう!」


 そんなやりとりを衛は温かい気持ちで見つめていた。


(よかったな……いおりと仲良くやってくれて)


 そんな心地よさに浸る衛に対して、いおりは蹴りを見舞った。イスに座る衛のすねを蹴り飛ばす。


「いたぁっ!?」

「こら! 女子が着替えるんだぞ! 気持ち悪い目でじーっと見てない! はい、出ていく出ていく!」

「わかったよ……俺も部屋で着替えてくるか」


 そうして準備が整い、三人は家を出た。

 衛の服装は茶色のチノパンに白のカットソーを着て、上に緑色のシャツを羽織っている。特に当たり障りのない無難な選択だった。


「やっぱり、かわいい系でしょ!」


 と言ういおりは青と白のストライプ柄の服を着て、膝丈のスカートをはいている。


「ふむ、敵襲に備えて動きやすさを第一にしたい」


 というセシリアがチョイスしたのは無地のTシャツにスキニーのジーンズ。そして、スニーカーを履いている。


「セシリアさんは活動的なのがいいと思ってそういう服装も買っておいたんだよね。かわいい系はまた今度試そうね」


 いおりは「これはこれでいいわー」と言っている。

 だが、衛は別の感想を持っていた。


(ちょっと……どうだろう)


 服装的には問題がないのだが――シンプルなTシャツだけに、セシリアの豊かな胸を隠せるはずもなくその存在感を示していた。

 おまけに、身につけているボディーバックもよろしくなかった。紐が胸の谷間を押さえつけているので、ただでさえ主張の激しい二つの丘がさらに際立っている。

 ボディーバックはセシリア曰く「魔法のアイテム」らしく、見た目よりも多くのものが入るらしい。なので、そこにセシリアの剣を入れている。

 巨乳と飾り気のないTシャツとボディーバックが組み合わさって大変な状態になっている。

 衛はもう少し落ち着いた服装にしたほうがいいのでは? と提案したかったが言うのはためらわれた。


「うわー、男の子だー、マモ、男の子だー、そういう目でセッシーを見てるんだー、へー、引くわー」


 といおりに言われるのが確実だからだ。


(まあ、いいか……)


 そう思って衛は黙ることにした。

 家の周りには多くの警官がいた。

 主犯と目されるガラトラが逮捕されていないのだから当然だ。剣を持った危険人物が隠れている可能性がある以上、厳戒態勢は当然のことだった。

 警官の目が――怖い。

 やはりセシリアは人目を引く。通り過ぎる人間は誰であってもだいたい彼女に視線をやっていた。

 ただ、幸運にも警官たちが詰問してくることはなかった。


「マモ、意外とバレないね?」

「まあ、な……たぶん、マントを羽織った金髪碧眼で探しているのと、まさか日本人と一緒にいるとは思わないからじゃないかな」

「意外と楽勝じゃん?」


 衛は楽天的ないおりがうらやましかった。苦労性の衛はついつい嫌なことばかり考えてしまう。

 そうして、まもなく衛の通う高校にたどり着こうとしたときのことだった。


「よっ、衛じゃねーか」


 かけられた声にびくりと衛は反応した。

 振り返ると、そこには髪をやや長めに伸ばした野性味のある風貌の男がいた。男は自転車にまたがって人好きのする表情を衛に向けている。


「ば、蛮……」


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