第41話 セシリアを隠せ!
「あの女騎士団長、前からマークされていたけど、今回の事件で重要参考人扱いになった。だから警察として全力で探しているらしい」
「えッ!?」
思わず衛は大きな声を上げる。まさかセシリアが――
「ど、どうして!?」
「犯人はもちろんコンビニを襲った大男だ。だけど、剣を使う男と自称騎士団長の女。何か関係がありそうだろ? あと、コンビニが襲われた後、近所の小さな公園で謎の発光現象があってな――」
衛はそれが何なのかわかった。
セシリアが祝福の剣の力を解放したときの光だ。
「もともと争う音が聞こえていて酔っ払いのケンカかと思って無視していたそうだが、けっこう強い光がしたらしい。それで周辺の住人が驚いて外を見たら、慌てて逃げていく三人連れがいたんだってさ。そのひとりが金髪だったんだ。この辺で金髪の外国人なんてそういないからな……」
「……ところで、他の二人は?」
「二人? さあな。金髪だったって証言は多いけど、他の二人の話はまだ出てきてないらしい」
衛は心の中で安堵の息を吐く。
「どうしたんだ? 急に声を張り上げたりして」
「いや……別に」
そう衛は無表情に答えたが――内心では焦りまくっていた。必死に言い訳を探す。
「……女騎士団長に何の関係があるのか気になっただけだよ」
「他の二人はどうして気にした?」
「え、いや、何か情報があるかなって……ただの好奇心だよ」
「そうか。まあ、そうだな」
蛮は小首をかしげながら話を続けた。
「かなり謎が多い事件だからな。警察としても何か糸口を見つけ出したい、そういうことさ」
じゃ、俺はこっちだから――
そう言って蛮は衛に背を向けて去っていった。
その背を見ながら、衛は決心を固めた。
(まだ話せる段階じゃない)
セシリアが捜索対象という事実は見過ごせない問題だった。話をした瞬間、セシリアは間違いなく警察に連れていかれるだろう。
それは見過ごせるものではない。まだガラトラは倒しきっていないし、ガラトラの仲間が攻めてくる可能性がある。
セシリアは対魔族の切り札であり――
彼女しか知らない情報もまだまだ多い。
セシリアは衛たちの生命線だ。決して失ってはならない。
だから、衛はセシリアを絶対に守ることにした。
(ていうか、セシリアさん、まさか外に出てないだろうな……)
衛は不安を覚えた。さっきのコンビニも公園も衛の家から遠くはない。つまり、この辺には捜査中の警官がうようよいるということだ。
そこに金髪碧眼で長身という目立つ容貌のセシリアが姿を見せれば――すぐに包囲網が築かれてしまうだろう。
目を覚ましたセシリアが衛たちの不在を心配して外に行く可能性は少なくはないだろう。
(メモは残したから大丈夫だよな……?)
そう衛は思い直したが、不安は消えない。そもそもセシリアがメモに気づかない可能性もあるのだ。
胸の中にわだかまるざわざわとした感触――
衛は家へと走り出した。
家はすぐそこだった。ドアを押し開けて中へと入る。
「セシリアさん! セシリアさん!」
衛は声をかけるが――無言。
衛はもう一度叫んだ。
「セシリアさーん! いないのかー!」
「マモ、うっさい!」
返ってきたのはいおりの声だった。リビングのほうからだ。
衛は少しばかり意表を突かれた。いおりは陸上部の練習があるので帰ってくるのは遅いのだ。
衛がリビングに行くと――いおりがいた。
「ただいま……はやかったな、いおり」
「ほら昨日の事件の犯人が捕まってないから。今日は学校が昼前に終わったのよ」
「ああ……そういうことか」
そのとき衛は気がついた。いおりの頭が上がったり下がったりしていることに。
「……いおり、お前何やってるんだ?」
「やってるのはあたしじゃなくてセッシー」
いおりが下を指さす。
そこには座ったいおりを背中にのせて、腕立て伏せしている金髪の頭があった。
腕立て伏せがぴたりと止まった。セシリアが顔を衛に向けた。
「おや、おかえり、衛」
「た、ただいま……」
いおりがセシリアの背中から降りる。
「ちょっとすごいんだよ、マモ! セッシーあの腕立て一〇〇回以上やってんの。まじ信じらんない!」
「ちょうどいいトレーニングになった。ありがとういおり」
セシリアが立ち上がる。
「そういえば、さっきわたしの名前を呼んでいた気がしたが、何か用か?」
「……いや、たいした用事じゃないんだけど、セシリアさんが外に出てるんじゃないかなって思って」
「今日は外に出ていない。君たちの姿が見えなかったので探しにいこうとは思ったのだが、ドアを開けたところでいおりと会ってね。結局、どこにもいかなかった」
「そうそう、玄関についた瞬間いきなりドアが開いてばったり。びっくりしたよね」
うんうんといおりがうなずいている。
衛は安堵の息を漏らす。
「そうか……よかった。でもセシリアさん、メモは残しておいたけど気づかなかった?」
答えたのはいおりだった。
「セッシー日本語は読めないっぽい」
「え!?」
衛は虚を突かれた気分だった。これだけ完璧に日本語を話しているのでその考えは全くなかったが――ない話ではない。
セシリアがテーブルのメモを手に取る。
「何度みても全くわからないな。さっきいおりに読んでもらったら理解できたのだが」
「つまり話せはするけど読み書きはできないのか……」
それは覚えておこうと衛は頭に刻み込んだ。
「ところでマモ、セッシーが外に出たら何か問題あるの?」
「ああ……実はさっき聞いた話なんだけど、セシリアさんを警官が探しているらしい」
「警官が!?」
いおりが素っ頓狂な声を上げる。
「何で!? セッシーが何をしたって言うの?」
「ふむ。前に警官を投げ飛ばしたな」
「そんなことしちゃダメだよ、セッシー!?」
「ま、まあ……それも捜査対象ではあったらしいけど……今回はそれとは別、ガラトラとの関係を疑われているらしい」
「もしもセッシーが外に出ていたら捕まってたってこと?」
「たぶんな」
「なるほど……だが、ちょうどいいかもしれない」
セシリアが壁に立てかけていた祝福の剣を手に取った。
「警察というのは君たちの世界の騎士のようなものだろ? 自ら出頭して彼らにすべてを話し捜査に協力するのも悪くはない」
それは衛も考えた。だが――
「ダメだよ! セッシー!」
いおりが強硬に反対する。
「セッシーの話なんて信じてもらえないから!」
「そうかな? だが事実を伝えるのだから信じてもらうしかないが」
「その事実がむちゃくちゃなんだって。昨日の出来事とかマジありえないから。頭おかしい人だと思われちゃうよ」
「マジありえない、か」
セシリアが神妙な顔でいおりの言葉を繰り返す。
「確かに……この世界で見るものは私の常識をはるかに超えている。逆もまたしかりだ。つまり、私の世界の常識が理解してもらえるとは限らない」
「そうそう。逮捕だけされてあたしたちと離ればなれになっちゃうかもしれないよ」
「それは困る。君たちを守るという使命を果たせない」
「でしょ? だったらとりあえずは警察を避けるしかないよ」
「そういうものか」
納得した様子でセシリアは剣を戻し、ソファに座った。
衛には市民の義務として警察に言うべきか迷う部分もあるのだが――いおりがそう主張するならば、気持ちは完全に固まった。
「俺もいおりと同じ意見だ。セシリアさんには悪いけど、ずっと家にいてもらえないだろうか」
だが、セシリアは首を振る。
「その条件はのめない。君たちは出かけるのだろう? そのときに外に出られないのでは君たちを守れないぞ」
「だけど、セシリアさん目立つからな……」
豪奢な金髪に、真っ青な瞳。背丈だって女性にしては高い。さらに背筋までいいので嫌というほど目を引く。
セシリアが外に出た瞬間、警察にロックオンされるだろう。
「あ、閃いた」
いおりが指をぴんと立てて楽しげに笑った。
「髪染めちゃえばいいじゃん!」




