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第34話 勇者の生まれ変わりは誰?

「君が身を守るとき、強い力を発するようだな」

「つまり俺の身体から聖気とやらが出ている?」

「そういうことだ」

「じゃあ、まさか俺が――その勇者の生まれ変わりってやつか?」

「そうなるな」


(おいこれ、どういうテンションになればいいんだ)


 わりと衛は途方に暮れた。


 ――実は君は異世界を救った勇者の生まれ変わりなんだ!


 急にそんな事実を明かされても衛としては困ってしまう。やったーと喜ぶ気持ちにもなれなかった。


 衛は単に、静かに普通に生活したいだけなのだ。

 別に冒険にも救国にも興味がない。


 いおりを護る力になるのならそれも悪くはないが――そのために今日のように命を狙われるのなら本末転倒だ。


 なんてことがいろいろと衛の頭を駆け巡ったが――

 衛にはゆっくりと感情をかみしめる余裕はなかった。


「マモ! あんたのせいか!」


 その声と同時。

 床に膝をつけてテーブルに捕まっている衛の横顔めがけて、いおりの蹴りが飛んできた。


 びっくりした衛はもろに食らって床に倒れる。


「いって、いて! なにするんだ!?」

「嘘つけ! 痛くないくせに!」

「いや、まあ……確かにそうなんだけど」

「じゃあ、これからお値段定額蹴りホーダイね!」

「やだよ! てか定額って金くれるの?」

「ううん、無料」

「それは定額っていわねー!」

「低額?」

「うまく言った気になってるだけ!」

「いいじゃん、蹴りホーダイくらい! 今日のこれ、あんたのせいじゃないってこと!」

「どういうことだ?」

「あのおっさんに『お前が勇者の生まれ変わりか!』とか言われたんだけど。でも本当はあたしじゃなくてあんたなんでしょ。むっちゃ人違いされてるじゃん。もー大迷惑よ」

「待て。ガラトラがそんなことを言ったのか?」

「そだけど?」


 割って入ったセシリアにいおりがうなづく。

 セシリアが無言で剣を引き抜いた。


「君も試してみるか?」

「いやいやいやー! あたし普通だから。マモみたいな特殊体質じゃないから! ふつーに転んで怪我するし。そーゆーの大丈夫!」

「そうか、残念だな」


 そう言って、セシリアは剣を鞘におさめた。


「でも実際、実はいおりが勇者の生まれ変わりっていう可能性はあるのか?」

「どうだろうな。しかし、さっき君から聖気が発生したのは疑いようのない事実だ。やはり君が勇者さまの生まれ変わりだと考えたほうが辻褄はあう」

「そうか……で――」


 衛は横でずっと自分をげしげしと蹴ってくる妹に目をやった。


「いい加減、許してくれないか、いおり?」

「許さない」

「今日のことは巻き込んで悪かったよ。だから怒らないでくれ」

「違う」


 ぴたりといおりは蹴りをやめて、くるりと衛に背を向けた。


「今日のことで怒ってるんじゃない。そういう変な体質になってるの――教えてくれなかったことに怒ってるの」


 衛は息を呑んだ。

 衛はいおりに不安を与えないために何も言わなかったが、それは衛が一方的に決めたことでいおりの気持ちは何も考えていなかった。

 いおりにとってそれは――悲しいことだったのだ。


「ごめん、いおり」

「ん。許す」


 そう言うといおりはソファに座った。衛もセシリアもテーブルのイスに座り直す。


「で、セシリアさんの目的は何なんだ? 俺たち――勇者の生まれ変わりを見つけ出すことなのか?」

「それは目的の半分だな」

「残り半分は?」


 セシリアは少し考えたが、首を振っただけだった。


「いずれの話だ。気にしないでくれ。そうだな……とりあえずの目標は君たちの身の安全を確保することだ」

「俺たちの、身の安全?」

「ガラトラはまだ倒せていない。本人も言っていたが、また命を狙いにやってくるだろう。少なくとも警戒が必要だ」

「そうだな……ガラトラってやつ以外にも俺たちを狙っている奴らはいるのかな?」

「おそらく……いる」


 それは衛にとって気分のいいものではなかった。


「そうか……どうしてそう思う?」

「わたしたちの世界とこちらの世界をつなぐのは膨大な魔力が必要だ。最高峰の魔法使いが入念に準備してわたしひとりをやっと通すのが精一杯なほどにな。その点で、肉弾戦闘派のガラトラが単独でこちらに来たとは考えにくい。おそらくは十鬼将の誰かが裏で糸を引いていると思うのだが」

「十鬼将?」

「魔王直属の一〇のしもべ。魔王亡き今では最高峰に位置する超級魔族たちのことだ――勇者さまに倒されて実際は六鬼将だがな。彼らの魔力であればゲートをこじ開けることもできるかもしれない」

「そいつらはガラトラより強いのか?」

「もちろんだ。ガラトラも上級魔族でかなり強いが――比較にならない。できれば裏で糸を引いているだけで表に出てこないことを祈りたいものだ……」

「あいつらも俺の発した聖気を感知できるのか?」

「わたしは魔法の専門ではないからよくわからないが……おそらくはそうだろう」

「じゃあ、さっき聖気を発動させたのはまずいのか?」

「いや、気にしなくていい」


 セシリアがボディーバックから札の束を取り出した。


「これは魔法的な力を遮断する札だ。さっき玄関とこの部屋の入り口に貼っておいた」

「その札が貼ってあると、聖気の探知がごまかせるのか?」

「その通り。後で家のいろいろな場所に貼っておけばより確実だ。札の効果は家の外に出ても一日くらいは持つから、家の外でうっかり力を発動しても大丈夫だ」

「それはありがたいな」


 衛は札を受け取り、うなずく。


「ま、それよりさ」


 いおりが大あくびしながら言った。


「もうだいぶ夜も遅くなってきたし、そろそろ寝ない? いろいろ人生の新情報が増えすぎてあたし頭が痛くなってきたんだけど。細かい話は明日にしようよ」

「そうだな……それでいいかい、セシリアさん?」

「それほど悠長にしている暇はないが……君たちの気持ちもわからないではない。わかった。何かあればすぐ呼んでくれ。駆けつける」

「駆けつけるって、セシリアさんはどこで休むんだ?」

「そうだな……この近くの公園はどこだ?」

「「ダメだ!」」


 衛といおりの声がハモった。


「うちに泊まればいい。な、いおり?」

「うん。いくらセッシーが強くても、女の子の野宿はダメだよ」

「そうか……わかった。ではお言葉に甘えて庭にテントを張らせてもらおうか」

「いやいや! 結局それ野宿だから!」

「え、ダメなのか?」

「野宿しなくていいって。家に空き部屋があるから、そこを使ってくれていい。ベッドとかちゃんと整ってるから」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 ガラトラはシャルティエのアジトに戻っていた。

 明かりの消えたリビングにたどり着いたと同時、ガラトラは両膝を折ってうずくまった。その手から刀身を半ば失った鋭刃Lv.10がこぼれ落ちて床に転がった。


「さすがに……ダメージが深すぎる……」


 ガラトラの口から荒い息がこぼれた。


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