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第33話 いおり、自分の兄が普通ではないと初めて知る

「てことは……俺かいおりが勇者の生まれ変わり?」

「そういうことだ」


 セシリアがうなずく――が、すぐに首をかしげた。


「納得できない顔をしているな?」

「当たり前だろ! この状態で『わーい、嬉しー!』なんて言えるやつがいたら会ってみたいわ!」

「わーい、嬉しー!」

「いおり、お前は俺の邪魔をしたいだけだろ!?」

「嬉しくないのはよくわかる」

「わかってくれるのかよ! ていうか! だいたい異世界に転生したなんてどうやってわかったんだ。異世界なんてわかるものなのか?」

「調べたのは知り合いの変態魔法使いだからな……あいつの頭の中身がどうなっているのかわたしにはよくわからない」


 セシリアは、しかし、と続けた。


「しかし……あいつが天才なのは間違いない。あいつの話だと魔王の転生術は勇者さまによって邪魔されて座標がずれたらしい」

「座標がずれた、だと?」

「そう。本来ならば、我々の世界に転生しているはずが、別の世界にずれてしまったのだよ。あいつはそこに気づいて――網を張った」

「どういうことだ?」

「勇者さまの力の源――聖気。その聖気の大規模な発動を観測したのが二年前。あいつはこの世界に勇者さまが、君たちがいることを知った――そう言っていたよ」

「聖気……? そんなものが俺の身体から?」


 衛は自分の両手を眺めてみた。

 もちろん、何かそこからマイナスイオン的な何かが立ち上っているはずもない。


「こういうものがある」


 セシリアが立ち上がると、風呂に入る前に身体から外していたボディバックを手にした。その中からこぶし大の透明な石を取り出してテーブルに置く。


「この石は勇者さまの力――聖気に反応して光を放つ。だいたいの位置や距離ならわかるのだ。わたしはこの光を頼りに君たちのもとにたどり着いた」

「つまり、俺たちからその聖気とやらが出ている?」

「そういうことだな」

「いやいや、ちょっと待て。今は何の光も発してないぞ」

「おそらく戦闘中――いや、身に危険が迫ったときでないと出ないのではないかな」


 セシリアはまたテーブルを離れると、今度は壁に立てかけてあった剣を手にして――すらりと引き抜いた。


 蛍光灯の輝きを受けて刀身がきらりと輝く。


「試そうか。斬らせてくれ」

「いやいやいやいやいや!」


 衛は絶叫した。


 そんな理由でばっさりやられるなど言語道断。イエスと言えるほうが頭がおかしい。


「死んだらどうするんだ!?」

「いや、君は死なないさ」


 セシリアが衛の鼻先に剣を突きつける。


「君だってまるっきり自信がないわけではないだろ」


 そう言われて――

 衛は言葉を詰まらせた。


「そう、それあたしも不思議だったんだけど。ねえ、マモ。さっきおっさんに何度も斬りつけられたけど傷ひとつないよね? どういうことなの?」


 説明する必要があるのは、セシリアだけではなかった。

 衛もまた秘密を隠している。


「ガラトラの剣は特級のマジックアイテムでな。なまくらなどではない。重装甲の兵士ですらバターを切り裂くように両断する銘剣だ。それと戦って無傷でいるのは普通ではないよ」


 衛は言い訳を考えたが――諦めた。

 自分の体質について話したくはなかったが、もうそういう状況ではないと知った。


「わかった。確かに俺は特殊体質だ。何というか……異常に固いんだよ。包丁で指を切ってもトラックにはねられても全然びくともしない。傷を負わないんだ」

「うそ……マジで? トラックも? なんか人間じゃない感じ?」

「いや、その表現はやめてくれ……少しばかり傷つく」

「人間やめてる感じ?」

「それほとんど同じ意味だからな!?」

「昔から、そういう体質なのかね?」


 セシリアが問う。


「いや、そうでもない。たぶん事故の日からだ」

「事故?」

「俺といおりは両親がいなくて……二人が死んだ事故の日だ」


 いおりの息を呑む声が、静かになったリビングに響いた。


「……思い出させてしまったかな」

「いいさ、別に。もともと忘れてなんていなかったし」

「そうか……。ひょっとすると、わたしの知り合いが大規模な聖気を観測したのがその日なのかもな」

「いや、二年前って言ってなかったっけ? 事故があったのは四年前だからあわないぞ」

「……あいつの話では、時間のずれは関係ない。異世界の時間経過は距離の差として現れる……なんて言っていたな。意味がわかるか?」

「そいつの頭はよすぎて悪いな」

「同感だ。とても同感だ。まあ、時間的なずれはきっちりと一緒ではない、ということらしい」

「なるほどね。……まあ、そういうわけで確かに俺は特殊体質だ。それが勇者の力だなんてのは知らなかったがな……俺も気になっているんだ。こいつの正体がなんなのか。せっかくだ。試してくれよ」

「わかった」

「だけど、剣で斬りつけるって……見込み違いだったら死んだりするのか?」

「……」

「目をそらすな! 目を!」

「冗談だ。ガラトラの剣は特級だったんだ。それを弾いた実績があるんだろ? なら心配しなくていい」

「そ、そうだよな? セシリアさんの剣はガラトラの剣よりは弱いんだもんな?」

「いや? これは神器級でガラトラの剣より上だが?」

「実績が無駄ー!」

「大丈夫。ようは――死ぬという恐怖を与えればいいのだろ?」


 セシリアの目が、すっと細くなる。

 それは獲物を捕らえた鷹の目だ。


「動くなよ」


 セシリアが振りかぶり――空気を斬る音と同時、銀色の軌跡が弧を描く。次の瞬間、衛の顔面一ミリの距離で剣がぴたりと止まった。


「どぅおわあ!?」


 驚きの声を上げながら、動転した衛がイスから転げ落ちる。


「あ、マモ! 石が光ってるよ!?」

「え、マジか!?」


 急いで衛は身を起こした。


 いおりが言ったとおり、石は強い光を放っていた。それはだんだんと弱くなり、数秒後には元の石に戻っていた。


「ふむ、やはり」


 剣を鞘に納めながらセシリアが言った。


「君が身を守るとき、強い力を発するようだな」



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