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第11話 勇者イオリのその後1

「イオリさまの行方がわかった――そう聞いているが、どういうことだ?」

「ふふーん。すごい? ほらほら、褒めなさいよ褒めなさいよ!」

「いや、だから近い! 離れろ! ――話を進めるぞ。それは本当なのか? いや、しかしイオリさまは死んだはずでは?」


 セシリアははっきりと覚えている。


 死力を尽くした勇者イオリの聖剣の一撃――

 それを受けて魔王は崩れ落ちた。


 魔王は石造りの床に這いつくばりながら、憎悪の瞳で勇者とセシリアたちをにらみつける。


「……汝らはよくやった。我の野望もここまでだ。まさか人の身が我を打ち砕くとは……なかなか思い通りにはいかないものだ」


 魔王の口元がゆがみ、笑いが漏れた。


「だがそれは、今日この日この瞬間においてのみ――!」

「気をつけて! 右手で魔法陣を描いている!」


 カリギュラの警告の通り、魔王が青白い指先から魔力を発して魔方陣を描いていた。


「気づいたか……だが――遅い!」


 魔王が手のひらを魔方陣に押しつける。

 同時、魔王を中心に光の渦が出現した。

 そして驚くべきことに、じわじわと魔王の体が揺らめき、透き通っていく。


 その間も、魔王の口からは間断なく魔法が紡がれている。


 セシリア、否、すべてのパーティメンバーが理解した。


 ――このままにしていてはいけない!


 そう頭で考えて、行動しようとした。

 しかし――セシリアたちよりも速く動いたものがいた。


 彼は頭で考えるよりも速く、直感と反射だけで魔王に飛びかかった。


「そうはさせんぞ、魔王!」


 光の渦の中、勇者と魔王の最後の戦いが始まった。

 加勢しようと近づくセシリアたちを勇者イオリが一喝した。


「来るな! これは――よくない!」


 おそらくは勇者自身もそれがなんなのかはわかっていなかっただろう。だが、彼は直感でそれが危険なものだと気づいていた。


 勇者イオリはいつもそうだった。

 とにかく勘が鋭い。

 未来が見えているかのような鋭さだった。そのおかげでパーティーは何度も全滅の危機を乗り越えたのだ。


 彼の直感を信頼するからこそ――

 パーティーは動けなかった。


 動けないまま勇者の戦いを見守った。

 光の渦の中、死闘を繰り広げる二人。


 やがて、ひときわ大きな光が輝いて――


 勇者と魔王の姿は完全に消えていた。


「そうだ、死んだ。死んだんだ。勇者さまは魔王と差し違えた。生きているはずがないんだ……」


 セシリアは強く言い切った。

 ありえない可能性にすがりついてしまいそうな自分の弱い心を断ち切るかのように。


「そうだね。あの魔法で勇者ちゃんが死んだのは事実だよ」


 セシリアの言葉をあっさりカリギュラが認める。


「な――お前どういうことだ! わたしをからかっているのか!?」

「まっさかー! カリギュラちゃんがセシリアちゃんをからかうなんて、あるはずないよ!」

「いや……からかわれた記憶しかないんだが?」

「……うん、ごめん……だけど、今回は違うよ。そもそも、あの魔法で姿を消したのは魔王と勇者ちゃん、二人だよね?」

「そうだが?」

「いーい? あの魔法はそもそも『魔王が自分のために使ったもの』なんだよ? 勇者ちゃんはともかく魔王が死ぬっておかしくない?」


 セシリアはカリギュラの指摘を聞いてはっとした。


(そうだ、確かにあの魔法は魔王から仕掛けたもの。もともとは魔王だけが効果を受けていた。勇者さまはそこに割って入っただけ……)


 つまり、勇者が効果を受けたのは魔王の想定外。イレギュラー。


「セシリアちゃんも気づいた? そう。魔王が魔王のために使った魔法で魔王が死ぬのはおかしいの。だから、それに巻き込まれた勇者ちゃんが死ぬはずもない」

「確かにそうだが……さっきお前は死んだと言ったではないか」

「問題は魔王がかけた魔法が何なのかってことよ」


 カリギュラは指を一本立てて続ける。


「ぱんぱかぱーん。で、カリギュラちゃん、わかっちゃいました。知りたい? 知りたい?」

「いい加減たたくぞ」

「や、やだなー、まじめにやるよー。……あれは転生魔法。死に瀕したものが、その能力と記憶を継承して来世へと旅立つ魔法よ」

「――!」


 心臓がえぐられるような衝撃を、セシリアは受けた。

 古い生を捨て去って、新しい生へと乗り換える奇跡。


 転生――!


「なーんてうっそー。そんなのあるわけないじゃーん」


 セシリアはカリギュラを殴った。


「痛っ! 角折れるよ!?」

「言っていい冗談と悪い冗談があるだろ!」

「ご、ごめーん、今のなし。冗談っての嘘。本当だから」

「いや、信じないぞ。そもそも当時お前転生なんて一言も言ってなかっただろ!」

「だ、だって知らなかったんだもーん、あんな魔法。さすが魔王だよー、このカリギュラちゃんが知らないなんて。だから悔しくてむちゃくちゃ調べたんだよー」

「……本当なのか?」

「そうだよ。ホント。ホントのホント」

「わかった。信じよう――それが本当ならば、勇者さまは王国のどこかに生まれ変わっているということか?」


 そこまで言った瞬間、セシリアの脳裏にぷくぷくした三歳児の姿が浮かんだ。

 とても無力な小さな幼児。

 放置していてはいつ魔族に殺されるかわからない――


「はっ! そうだ、いいいい今すぐにお迎えしなければばばば! 三歳! まだ三歳ではないか! 魔族に狙われたらたたたたた大変だ! カリギュラ、場所はどこだ!? 第一騎士団! 第一騎士団全員で出撃! しゅつげーき!」

「相変わらず勇者ちゃんのことになると頭がおかしくなるわねー、セシリアちゃんは。でも今すぐ助けるのは無理かな。だって――ここには転生なんてしてないんだから」


 セシリアはカリギュラを殴った。


「お前ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

「痛っ! 角つかんで振り回すの、やめて! 折れる! まじ折れちゃう! 違う、違うよーセシリアちゃん。言い方が悪かったけど、転生はしてるの。だけどそれは、この世界じゃない」

「この、世界じゃ、ない?」


 セシリアにはぴんときていない。


 この世界以外に、世界があるというのだろうか?



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