忘れるなかれ我等の存在を
──生物とは己の下しか見ることの出来ない愚物の慣れ果てだ。──カザック・リーヴェルゲン回禄
『空は青い、地は緑に生い茂っている』
ふと何か思い耽ると必ず彼は故郷の光景が浮び上がる。自由を与えられそれに応える様に野を駆け回り思い思い笑顔を咲きほこった向日葵の様にこぼす。そんな夢のような日々を思い出す。
それはまるで今いる現実から目を背ける為に逃げる為に用意された唯一の非現実なのかもしれない。
『レーヴェン『385』! 応答せよ!』
機械的な声がコクピット内に響く、レーヴェン『385』と呼ばれ我に返る。
焼け野原の地に怒号が鳴り響く。ここが戦場だということを嫌でも思い出させる。
「こちらレーヴェン『385』応答完了、何の用だ『679』」
『さっきから無線が繋がならなかったのよ、また変なこと考えていたわね』
「⋯⋯すまん」
『ったく最後の戦闘なんだからしっかりしようぜ『385』』
「けっ、お前に言われたかねーよ『563』いっつも『572』のこと考えてたくせに」
機会越しに『572』と呼ばれた少年が口を噤んだ。『385』は向こうで顔が真っ赤になっているのが手に取るように分かったのでニヤニヤと笑っていた。
『余談は終わったか?』
3人の背筋に緊張が走る。冷徹且つ冷酷な声が聞こえた。
「終わったぜ『001』」
『001』そう呼ばれた少女は少し膨れた。
『⋯⋯最後くらいその名は使うのは止めよう』
「国へのせめてもの反感」そういう意思があったのか、傍また「死ぬ時くらいその機械的な名は捨てよう」と言う意味なのか。どっちにしろ名などさ程重要では無い、然し3人は「あの隊長が言うのだから仕方無しに」と言う名目でそれを容認した。少しバツが悪そうに笑った気がした。
リーフェが言う。
『いいのか? このまま死んで? 「スフェン」 「カイシャ」 「アルフェイド」』
『ああ、当たり前だ、それが役目なんだからな』
とスフェンは言う。
『勿論』
カイシャは凄惨に笑う。
「当たり前だ、さあ逝こうぜ合言葉は覚えてるな? リーフェ、スフェン、カイシャ」
無線越しに3人が笑う。
『偉大なる白人国家の為に!』
最後の言葉は散りゆく花のように力無く、そして脆く、それでも尚、尊厳は変わらぬ輝きを持っていた。