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番外編『予想外の』

リェイル視点でのお話

ちょっとボリューミー?


 俺が冒険者になって二年ぐらいたった頃だったと思う。街で買い物をして宿に帰る途中で路地裏の方から泣き声が聞こえたんだ。

 

 他の街より孤児が少ないこの街でも孤児はゼロじゃねぇ。だから孤児の一人が腹を空かせて泣いてるんじゃねぇかと思った。

 

 俺も孤児だったから、そういうのにも見慣れていた。だがその日は上手く依頼がこなせ予定よりも多く報酬が手に入って美味いものでも食おうと…買った甘い果物を持っていた。

 

 「……あー、くそっ」

 

 だからだ、だから嫌だったんだ。孤児だった昔があってその昔が俺にとってはあまりに辛い思い出ばっかで、美味い飯を食ったり、高級なもん食ったりする時、ふと路地裏を見ちまう。

 

 腹を好かせるガキがいそうで、死にかけてるガキがいそうで。嫌な予感ばっかり頭に浮かんじまって、結局路地裏のガキ共に俺のもんやっちまう。

 でも今日買ったアゴンの実はなかなか食べられないもので、しかも俺の好物だ。だから路地裏には入る気はなかった、無かったんだが。

 

 「なんで今日に限ってこんな大声で泣いてるんだよ…畜生」

 

 結局路地裏の方へ足を踏み入れちまう俺は馬鹿でしかねぇ。

 

 近づけばどんどんと大きくなる泣き声。あまりに大きい泣き声に嫌な汗がたらりと背中に流れる。

 

 孤児ってのは普通の子供よりも軽く見られやすいってのに、そんなに大声で泣きわめいたら……

 

 「いやぁぁっ」

 

 「あー…何だってんだよぉ!」

 

 厄日かよ!

 明らか女児の声に嫌な予感しかわかなくて手元に持っていた荷物…といってもなくなってもいいものだけ捨てて走り出す。

 

 間に合えよこの野郎…!

 

 たどり着いた十字路の所で髪を引っ張っている男と号泣してる…やっぱり女児がいた。

 

 「気持ち悪い見た目だよ…ぶくぶくに太りやがって、そのせいで親にも捨てられたんじゃねぇのか」

 泣くガキに聞かせるような内容ではない発言に掴まれていた女児の髪をナイフで切り男を思いっきり蹴り飛ばす。

 

 「ガキ罵って満足してんな、変態野郎」

 「てめぇ!」

 「お前、こないだから渚屋に泊まってる流れもんだな? 確か女将と代金で揉めてたはずだ、あそこの女将は子供好きで有名でな………告げ口されたくなけりゃ消えろ」

 

 顔を顰めて文句をたれながら去っていく男を見送る。逃げたのを確認してから泣いていたガキに振り返り、唖然としている顔に申し訳なくなる。

 

 汚れてて分かりにくいがよく見りゃ、髪は綺麗に手入れされてるし、着ているワンピースだってちょっとやそっとじゃお目にかかれないような上質なものだ。

 

 どこぞのお嬢さまが脱走でもしたか?

 

 「髪、切っちまって悪かったな」

 「……だれ?」

 

 誰、と聞かれてもなぁ。明らか厄介ごとのこのガキに名前教えて親に変な伝え方でもされたら俺の首が飛びそうなんだが。もちろん物理的に。

 

 「俺の名前なんてどうでもいいだろ」

 「しりたい」

 「……俺は嬢ちゃんの名前聞いてないだろ、聞いてないんだから嬢ちゃんも聞くなって」

 「…いりす……いりすっていうの」

 

 いや、別に名乗ってくれなんて言ってねぇんだけど。真ん丸な顔についた小さめの目がじっと俺を見上げてくるもんで…深く溜息を吐いてから名乗った。

 

 「……リェイルだ」

 「りぇいる…おじちゃま」

 「そんな歳じゃねぇしちゃまなんてつけんな、そうだな、お兄ちゃんとよべ」

 

 そういえば目をまん丸にした餓鬼はすぐに嬉しそうに笑った。

 

 「りぇいるお兄ちゃん!」

 「おー」

 服の端をぎゅっと握って顔を赤らめ笑っているガキ…イリスを見て変なもんになつかれたもんだと惚けてしまう。

 

 「にしても、なんでお前こんな所にいんだ? 親は?」

 「おとうしゃまとおかあしゃまおしごと」

 「仕事ねぇ? 嬢ちゃん、いい所の娘だろ? 世話役は? 乳母とかいんだろ」

 「まいてきまちた」

 

 幼児にまかれる世話役ってどうなんだ?と頭を抱えてれば頭が痛いのかと勘違いしたイリスに頭を撫でられた。

 

 「家帰れ」

 「…いえにいたくないでしゅ」

 

 そう俯きながら言う割にイリスの腹はぐーやらぎゅるるやらぐるるやらなにやら空腹のようで合唱を始めた。

 

 「…まぁ仕方ねぇか、これでも食え」

 

 仕方なく。ほんとうに仕方なく。

 アゴンの実を渡せば最初は目をまん丸にしてすぐに噛み付いた。カリッという緑の皮ごと食べた音がする。

 

 畜生、いい音させやがって。もう一個買ってくりゃよかったぜ。

 

 「んで、なんで家出なんてした?」

 「いえで?」

 「家にいたくなくて飛び出したんだろ? 家出じゃねぇか」

 「……おとうしゃまもおかあしゃまもきれえなの」

 

 きれえ?キレイってことか?

 

 「でもイリスはみにくいから…おかあしゃまがうわきしてうんだこっていわれちゃの」

 

 誰にだよ、てかガキになんて事言ってんだ。

 

 「嬢ちゃんの母さんには聞いたのかよ」

 「きいたの、おとうしゃまのこだっていってくれたの…でも」

 

 でもと続けてイリスは目に涙を浮かべてまた泣き出してしまう。

 

 「めいどのこどもがいりすはみにくいからやしきからでれないのよっていったの、だからこんやくしゃもいないのよってぇっ」

 

 うわんうわんと泣くイリスに哀れみがちょっと湧いた。婚約者。金持ちってのは家のつながりを強くするとかそういう理由で子供が幼い頃から婚約者を決めるって話しは平民の中でも有名だ。でもよ。

 

 でも、それが当たり前なんて悲しくないんかねぇ。

 

 「きっとお前の両親は嬢ちゃんが可愛くて堪らねぇから出さねぇんだろうよ」

 「かわいい?」

 「おうよ、無視すればいい話を聞いて一喜一憂するなんて可愛いもんじゃねぇか」

 

 金持ちは子供ん時から金に染まってると思ってたもんな、俺。可愛げがあっていいじゃねぇの。

 

 「メイドの子供?の話も忘れちまえ、見る目がねぇんだって笑ってやりゃあいい」

 「うん」

 「まだまだガ…子供なんだし、婚約者いなくてラッキー程度に思ってろ」

 「うん…」

 

 泣きながらもしゃくしゃくとアゴンの実を食べるイリスはなんだっけな、森でよく見かけるあの耳の長いふわふわの動物を連想させる。

 

 「それでも醜いって言うので婚約者が出来なくてもよ」

 「…」

 「泣くなよ嬢ちゃん、もしお前をもらってくれる奴がいなかったら兄ちゃんが貰ってやるから」

 そう言ってやれば目をキラキラさせて俺を見上げてくるイリス。……年齢差ありすぎな気もするけどな、まぁ、金持ちの娘に婚約者ができねぇってことはねぇだろ。

 

 「ほんとうに?」

 「本当だ、なにせ俺は───」

 

 

 「依頼と約束は破ったことがねぇ、頑固者のリェイルだもんよ」

 

 ──────────

 ───────

 

 

 どうせ来るはずもない未来だって思ってたさ、なにせ俺の顔にはでかい傷痕はあるし。俺の仕事は冒険者。いくら約束したからってでかくなりゃ忘れるもんだと思ってたし、覚えてたとしても来るはずないと踏んでいた。

 


 「リェイルどうしたのですか?」

 そんな昔の事を思い出してれば勝手に腕を組んできてニコニコしているイリス…いや、アイリスだったか?

 

 が俺の顔を見上げてくる。

 

 ちっちぇし、細ぇし、なんか触れたら壊れそうってほど華奢な体の割に組んでくる腕の力が強いっていうか。

 なんか一度噛み付いたら離さねぇ亀の存在が頭にちらつくんだが。

 

 「いや、昔の事を思い出していただけだ…てか嬢ちゃんも物好きだよなぁ、こんな傷モンのおっさん捕まえなくたって……」

 「あら、貰い手がつかなかったらもらってくれると言ったのはリェイルですわよ?」

 「貰い手がつかなかったら…だ、その見た目なら…」

 「婚約者はいましたが昨日振られましたの、ですから貰い手がつかなかったらに該当しますわよ?」

 

 まじかよ。

 

 

 

  


リェイル

冒険者三十五歳

アイリスと出会ったのは二十五歳の頃。

口は悪いが気が優しく子供たちに甘い。

稼ぎが多かった日には時々裏路地で飯を振舞っている。


アイリス

十五歳

リェイルと出会ったのは五歳の頃。


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