番外編『愛しているけれど』
もう一人の華娘視点
父親と陛下にざまぁは?と感想をいただいたのでもちろん書かせていただきますとわくわくしながら書いたのですが
これはざまぁと言えるのかは謎な仕上がりになってしまった……
娘が漸くあの魔法を解く事が出来たようだと思わず笑を浮かべる。私の世話をする侍女が恐ろしいものを見たような顔で固まりますが私はそんなの気にしませんわ。いつもの事ですもの。
にしてもイルにも困ったものよね。幼い娘が長年探していた華娘だと知って男を引き離すなんて。
華娘は運命を神に与えられた者でもあるのだから、勇者たる存在を政の為に操作できるはずもないのよ。
くすくすと笑っていれば侍女が今度は悲鳴を上げる。そんなに怖いかしら私って。
陛下もイルも知らないのでしょうけど私実は二人に怒ってましてよ?
大切な大切な私の後継であり、可愛い子であるアイリスの初恋をねじ伏せたんだもの。女の子から無理やり初恋を奪うなんてそんなの男じゃない
だからこっそり魔法に干渉して魔法が解けやすいようにしていたのよね、だって子供の頃に行う洗脳魔法ってすごい効き目ですもの。そうでもしないと華娘の力すらも消え掛けていたのだから、あの二人はほんとうにおバカさんなんだから。
まぁ、でも。
華娘に選ばれたとしても“勇者の力”を与えるとは限らないのですけれど。
現に私、イル……イエルスに力を与えたことはありませんし、華娘について詳しいことを教えたことはありませんの。
私イエルスのことは愛しておりますし、今後とも離れるつもりはありません。華娘ですもの。一度私との運命が繋がった殿方との縁が切れることは無いですし。どれだけ馬鹿なひとでも私だけは愛して怒って差し上げます、じゃないと
“私のもの”だと自覚できないでしょう? イエルス。
おいたの時間はおしまいよ? 娘離れもいい加減にしないといけませんし、なにより、国益のためとはいえ華娘とは真逆の浮気男と結婚させようなんて本当におばかなんだから。
屋敷に馬車が向かってくる音がして玄関に向かうとびくつく侍女が後をついてくるので優しく微笑んであげればそのまま固まって動かなくなる。
「あぁ、ほんとうに」
落ち込んだ様子のイルに湧き上がる愛しさ。なんて愚か、なんて短慮、なんてなんて
愛しいの。
「イル? おかえりなさい」
「……アテラ、どうしたんだい? いつもなら私が会いに行くのを部屋で待って──」
「まぁ、娘が華娘の力を取り戻したんですもの。長い間娘に無理強いした結果失敗した馬鹿な父親の顔を拝みに来ただけよ?」
くすくすと笑えば居心地が悪そうに視線を逸らすイル。その頬に優しく手を添えて私の方に向かせる。
「ねぇ、言ったでしょう? 華娘の運命が男に出会わせずに置くことで済むはずないって」
「……」
「言ったでしょう? 我が子に洗脳魔法なんて下品なものを使うのは反対よと」
この国の行く末が心配なのは分かるわよ? だってあのバカ王子が王位継承者第一位なんてお先真っ暗。王妃様が同盟国の王女だったから変に力だってありますし、そもそもあんなバカ王子に育てたのは陛下ですわよ。
可愛い可愛いと甘えさせ好き放題させたのだから我儘でヘタレにもなります。
「私、怖かったわよ、娘のアイリスの体からどんどん華娘の力が薄れていくのが」
「アテラそれでも、それでも私は──」
「ほんとうに貴方は馬鹿ねぇ」
すぅっと笑みを消せばイルの顔が引き攣る。あら、とても面白いわよ?綺麗ながらも馬鹿さを醸し出してる不思議な表情は。
「私は別に言い訳を聞きたいんじゃなくってよ?」
「いえ、あの…」
「ずぅーっと私の意見は通りませんでしたし、アイリスも好きに動くことができるようになりました……では」
イルの頬を優しく撫でていた手でその頬を抓る。
「ぃ!?」
「私も好き勝手致しますわ、そうね、まずは、あの子のように暫く私以外にすべて男の屋敷で暮らしましょう?」
「アテラそんなことが出来るわけっ」
「安心してください、元々私の仕事でしたもの、あなたの仕事ぐらい私が片付けてきますわ……だから、ねぇイエルス?」
するすると赤くなった頬を撫で直し目を泳がせるイルに私はただただ幸福感を得る。幸せ、ええ、幸せよ。
「いい子にできますわよね?」
あなたのこと、愛しているけれど
信用はしていないの。
だから華娘の情報も力も与えない。
馬鹿で愚かで可愛らしい私のイル。
「さぁ、たくさんお話ししましょうね?」
「だっ誰かいないか?!」
「私が笑っているのを見たらみんな出てゆきましたわよ? 流石に慣れてますわよねぇ?」
「アテラ! 私が悪かっ…」
「だから、先ほど伝えたではありませんか、私は言い訳を聞きたいんじゃなくってよ?」
涙目のイルの手を引いて離れに連れていく。もちろん鍵は私の魔力で登録してありますから好きに出ることなんて出来ませんわ。
「アテラぁぁ!」
泣いても許さないですわよ? 可愛らしいけれど。
アリステラ
アイリスの母
年齢不詳、女性ながらイルの前の宰相をしていた。老けた様子がなく顔が変わらないことから影で化け物とも呼ばれている。お馬鹿な教え子であるイエルストが大好き。
イエルスト
アイリスの父、元々はアリステラの書いた本で勉強し、長い文通の末、会うことが出来た。アリステラの醜い姿に一切興味を示さずワクワクと勉強する様を面白が…可愛…良いと思ったアリステラに外堀を埋められ捕獲された。




