「誓ってください」
真っ向から自分でやりかえもせず、わざとらしく体を震わせ、殿下に抱きつくエカリーテ様を見て、不思議と笑えてきましたわ。
「ふふ、本当に、そうですわ」
「何を笑って…」
「後悔は先に立たないといま、私しみじみと実感しておりますのよ? …第一王子殿下」
私はニッコリと笑って立ち上がる。手に持った扇子を流れるように開き口元を隠して。
「エカリーテ様との婚約、誠に喜ばしいことです、私もお祝いいたしましょう」
その言葉を聞いてエカリーテ様も殿下も硬直しすぐに訝しげな顔になりましたわ。失礼ですわね、本心から言ってますのに。
「何を企んでいる!」
「何を? ふふ、殿下はお優しいですわね、わざわざ私を笑わせて下さるなんて」
だって、知らなかったのは当事者では私と殿下だけなんですもの。と、私は続けて笑う。貴族らしく、優雅に。それが気に触ったのか殿下は私の胸ぐらを掴みました。それこそ、今すぐ殺すとばかりに。
私は全てを思い出しましたわ。そしてこの国のことを憂いはするものの、お父様と、陛下のなさったことはあまりに私にたいして許し難いものでした。
分かっているつもりです、父は宰相。陛下はこの国の頂点。国を憂うこそが仕事である御二方が私をそうまでして殿下と結婚させたかった理由も。
───けれど、許せるものでもございません。
「殿下…私、貴方様に誓ってほしいことがありますの」
「なに、を…っお前は状況がわかって…」
「私を一生愛さぬと誓ってくださいまし。なにがあっても愛さぬと」
教室でこんなやり取りをしていたために廊下にはたくさんの生徒の姿があります。そして、その向こうから慌てたような声とたくさんの足音も聞こえましたわ。それでも、ゆったりと私は誓いを問うた。
「ふん、そんなこともとより決まっている」
「ではお誓い下さい」
「…貴様、本当に頭がおかしくなったのか…? ふっ、だがよい。お前を思う気持ちなど私には一切ありはせぬ、お前を…」
「一生愛さぬと誓ってやろう」
その一言を聞いて私の中でまた、何かが弾けた。それと同時に、廊下の人並みをかき分けたお父様と近衛騎士を引き連れた陛下が現れ
「「アイリス!」」
私の名を呼びました。
私はスッキリとした胸をなで下ろし、扇子を閉じると、陛下に貴族の娘としての挨拶を返すことにしました。
「これは、陛下、お父様…こんにちは。アイリスはここですわ」
ニコリと微笑めば二人は面白いほど、固まりました。分かりたくもないでしょうが、可能性は潰させていただきました。他でもない、第一王子のレパート殿下によって。
「父上、どうかなさったのですか? 」
「そうですわ、陛下。少しお休みになられてはいかがですか…」
原因がわかっていない殿下とエカリーテ様は首をかしげそうになるのをこらえたようにニッコリと陛下に接した。
「レパート…そちらの令嬢は?」
「…新しく私の婚約者となるエカリーテ・パージタです」
その言葉に怒りに拳を握り、すぐに近衛兵に命令を陛下は下しました。
「エカリーテ嬢を城の牢に入れておけ!」
「はっ」
「ち、父上!? いきなり何を!?」
「黙れ! よもやお前がこれほどまでに愚かだとは思っておらなかった! まさか婚約破棄をするなんぞ勝手な真似を…っ!」
怒りに顔を顰め陛下は吐き捨てるように告げる。そして別の近衛兵に殿下を城へと連れ戻しておくようにと告げた。すぐさまに近衛兵は仕事を果たすため、殿下を誘導していく。
それをレパートが止めさせ様としていた様だけれど、王命に逆らうものはここには存在しない。
「…アイリス…君も城に来てもらう」
「陛下のお心のままに」
私はニッコリと微笑み深々と礼をし、待っているぞと告げるお父様と陛下を見送ってからすぐに学園を出ましたわ。
馬車ですぐに城に行き、案内された部屋には鎖で繋がれたエカリーテ様と椅子に無理矢理縄で結ばれ動きが取れない様になっている殿下がいらっしゃいました。
「あら、随分な光景ですわね」
「っこの毒女! あんたが陛下を誑かしたんでしょう!」
その言葉にクスクスと笑う。私は公爵家で、彼女は子爵家。彼女の方が私よりも下であることは明白だというのに、私を傷つけようとすることがバカバカしく思わず笑ってしまう。
「なにを笑って…」
「だまれ、エカリーテ嬢」
そんな彼女の口を閉じさせたのは私の態度ではなく、冷たく吐き捨てられた陛下の命令でした。
ちょこっとうらばなし
陛下からの命令であった婚約を勝手に破棄、あろう事か許可なく既に婚約予定者を連れて宣言した王子はアウトですし、陛下の許可なく声をかけたエカリーテもアウト
ぷっちんなおエライ様二人ができました。
そしてエカリーテは既に婚約者がいるので、更にアウトです。
家の繋がりを強くするために嫁ぐことが決定してる娘に婚約者がいないはずもありません。幼い頃から接していた方が従順…懐くのも早くなるという考えからでしょうがその効果の程は……見てのおりでしょう