「全てを思い出した」
あらすじに書いてある通り本編5話完結
既に書き上げた後の投稿なのですっぱりお楽しみいただけるかと思います。
「私は、エカリーテと婚約を交わす」
目の前の王子の仰る意味が最初、よくわかりませんでしたわ。お父様と、陛下から直々に幼い頃に第一王子の婚約者となり、支えるものと教えられ、ここまで妃としてのマナーも学んできた。
「理由を伺ってもよろしいのでしょうか?」
「理由? 理由なんぞ、一つだ」
「お前が昔蛙のようだったのは知っているぞ、魔法で取り繕ったんだろうが、私にそれは通じぬ」
思わず引くりと頬がひきつった。──確かに、昔の私は幼いのにニキビに悩まされ、ブクブクと太っておりました。それこそ、蛙と言われるほどに。
ですが、私は魔法などで、この美しさを手にしたのではありません。自分で自分を律し、美しくなろうと行動してきたのです。
ストレスで血を吐いたこともありました。それでも私は諦めなかったのです。魔法だのと言うのはやめて欲しいと思いはするものの、口には出さなかった。
「しかも、元から美しく聡明であるエカリーテに対し、あまりの暴言と行動であった。故に好きでもない貴様とは婚約解消し、改めてエカリーテと婚約するのだ。」
エカリーテ様は、子爵家の第一子で、下に弟のエスバイエ様がいらっしゃる。ですが、母方が異なるため、仲が良くないと聞いております、その上、家督はエスバイエ様が継ぐのだと。
エカリーテ様はほかの家との繋がりを強くするために他家へ嫁ぐことが決まった存在でいらっしゃいました。
だから、私も彼女に物申したのです。
廊下はゆったりと歩くこと、貴族として恥ずかしくないような行動を心がけること。物は大切にすべきこと、ほかの者を窘めるではなく、攻撃するのはダメだということ。それらを口を酸っぱくして告げました。
彼女の素行はその生まれからかあまり宜しくありませんでした。自分よりも爵位が低いものを見つけては影で虐め、貴族ではない教師に対しては嫌がらせし、貴族のマナーの授業は今まで出たことがあるのは殿下がいらっしゃる時のみでございました。
「私が? エカリーテ様を?」
「そうだ。知らぬ振りをした所で事実は隠せぬ、いつかは明るみになるものだ。───貴様の顔は二度と見たくはない、消えろ、下衆めが」
そこで、ぷつんと、どこかで音がしました。あれ? と疑問には思いました。何かが私の中にあったようなのです、とても強い、箱のような何かが。
それが私の思いを封じていたものだと自覚したのは一瞬だったのです。
───好きではなくとも結婚してもいいとは思っていた殿下のことをひどく嫌悪している自分が不意に溢れてしまいました。
なんということでしょう。
お父様、陛下。
私はあなた方の気持ちがわからぬほど子供ではもうなくなっております、だからと言って…だからと言って私に洗脳魔法をかけるなんて…!
わなわなと無意識に手を震わせ口元にやる。衝撃的な事実に一瞬意識を失いかけましたわ。けれど殿下は何を勘違いしたのか私の顔を見下し「今更後悔しても遅い、愚か者め」とおっしゃいます。
ええ、たしかに私は愚か者でございます。ずっと、ずっと昔。私が蛙と蔑まれていた頃、唯一私を可愛いとおっしゃってくれたあの人のために私は今の私になったのです。
私はこのような肩書きしかない男のために、血を吐いて美しくなったのではありませんのに…っ!