陰陽師転生~和洋折衷にも程があるよね!~
はーい、そこのお兄さん、お姉さん方、おはよう、こんにちは、こんばんわー!
(時間わかんないから全部言ってみたよ!)
僕の名前は、オトハル・アードラースヘルム。
ぴっちぴちの13歳なりました。いぇい!
あ、名前長すぎるからオトハルって気軽に呼んでね!
父はアードラースヘルムっていう帝国の皇帝で、黒髪碧眼の脱いだらすごい超イケメンさん。
母は隣国ヴェトクロの第2王女様で父と大恋愛の末に嫁いできた、女の人なら誰が見ても羨ましがるプロポーションをした金髪紫眼の美女。
そんな自慢の両親である2人の遺伝子を受け継いだ僕は黒髪紫眼で、巷では天使と名高い美少年に育ちました!
(自分で美少年っていうのかなり恥ずかしい。)
とまぁ、軽く自己紹介が済んだところで僕に関することでカミングアウトすることがあるんだ。
実は僕ってば……
なんと……
前世の記憶があるんですよ!!
どう?!驚いた??!驚いたよね!?
あ、待ってそんなに引かないで!!ちゃんと説明させて!
えーっと、今から6年前。
父上と母上と日課にしている午後のお茶を楽しんでる時に、突然ぶわぁって訳分からない記憶が入り込んできてたんだ。
(うんうん何言ってんだこいつって思ってるよね?僕もみんなと同じ立場なら同じ反応してたよ!)
僕当時7歳になったばかりで、体験したことのない激しい頭痛に耐えきれなくて、頭を抱え込んで気を失っちゃったの。
息子が目の前でいきなり気を失っちゃったから2人にはとても心配かけちゃったけど、気を失ったおかげで、入ってきた情報をある程度整理できて、僕が生まれ変わったって事が分かったんだ。
簡単に言ったら噂に聞く転生ってやつをしてたみたい。
前世では安倍乙晴っていう普通の高校1年生の男の子だったみたい。
(今の僕と同じ名前だからちょっと面白いよね!)
そんな前世の僕は、学校からの帰り道、一緒に帰ってた友人と十字路で別れた直後、赤信号を突っ切ってきた大型の車に跳ねられたところで記憶が途切れちゃってる。
(フルスピードできてたから多分即死だったのかも?)
ふっと気がついた時には辺り一面真っ白な世界にいて、目の前に日本で1番偉い神様(自分でそう言ってた)が立ってて、
「安倍晴明の子孫である安倍乙晴。
類まれなる霊力の持ち主であるそなたを見込み、妾が治める異世界へと行って貰いたい。」
と言われたんだ。
確かに神様の言うように、ご先祖様にそんな名前の人がいるけど、類まれなる霊力とか言われてもなんのこっちゃって話だよね。
とりあえず話を聞いてみたら、その神様が造ったもうひとつの世界、ルグツっていう魑魅魍魎と、オークやケットシー、ドラゴン等が存在するファンタジーな世界に僕に行ってほしいんだって。
更に詳しく聞いたら、僕のご先祖様である晴明さんにも使役していた十二神将と共に、今の僕と同じようにルグツに行ってもらって、ある程度の妖怪は退治してもらったみたい。
それでも退治しきれなくて、各地に十二神将を封印して1000年以上妖怪達を封じてたらしいんだけど、その封印がだんだん弱まってきちゃって、強い妖怪たちが跋扈し始めちゃったんだって。
大輪の華のような綺麗な顔を曇らせながら切実に訴えかけられて、正義感を刺激されて来たんだ……。
と言いたいところだけど、ファンタジーならではの魔法も使えるみたいだし、色々と特典もつけてくれるっていうし、何より面白そうだから行かなきゃ損でしょ!って軽いノリでこっちに生まれ変わったみたい。
いやー長々と昔を振り返って見たんだけど、流石前世の僕。ナイス選択!!
優しくて美形の両親に、分け隔てなく接してくれるこれまた美形の従兄弟達。
ファンタジーな可愛い動物達。
美味しいご飯や飲み物。
最高に幸せだなーと思う日々を過ごしていました。
半年前までは !!
アードラースヘルムでは13歳になった時に元服の儀を執り行い、その儀式を終えると晴れて成人と認められる。
例に漏れず僕も13歳になった時に元服の儀をやったんだけど、成人と認められた直後から見たこともないモノが見えるようになったんだ。
何でもルグツに産まれた瞬間から強力な霊力を発現させてしまって、僕が持つ霊力を狙って数多の妖怪達が押し寄せて来て危険だったから、成人するまで霊力を封じてたみたい。
生まれてから1度もあの神様が言っていた魑魅魍魎とやらを見てなかったから不思議に思ってたけど、そんな理由があったとは……。
元々持ってたものが戻ってきただけかってあまり真剣に考えずのほほんとしてたんだけど、次の日から厳しい修行の日々の始まったんだ。
座禅から始まり、基礎体力をつける為のトレーニング。
真言を理解し、使いこなす為に読みながらの書き取り。
ファンタジーならではの魔法の練習。
そしてまたトレーニングからの、陰陽寮での授業。
修行の合間を縫って家族団欒したり、父上から回されてくる雑用をこなしたり。
本当に死ぬかと思ったよ!まあ半年で陰陽師としての第一段階合格ラインに達したのは最速記録らしいから、自分で自分を褒めておいた。
そして今、僕は絶体絶命の危機を回避する為に海辺を全力で走っている。
後方から追ってくるのは、首から上は牛の頭をし、蜘蛛の胴体を持ったバケモノ。
既にお分かりだろう。
みんなが思っているとおり、さっきまでの前世から元服の儀の話を長々としてたのは、今のこの状況から目を逸らし、現実逃避をするためだ。
え?しっかり現実を見ろって??
あんなのに追いかけられたら皆も同じ事をするだろう!?
僕は悪くn「オトハル様、いい加減に現実に戻ってきなさい。逃避した所で、牛鬼は倒せませんよ。」
再び横道に逸れようとした所で貴人に遮られた。
「あーもー!わかったよ!!やればいいんでしょ!?」
貴人に指摘され、嫌々ながら急ブレーキをかけて牛鬼と向き合う。
「ファイヤーウォールからの影縛り!」
炎で足止めし、影縛りで動きを封じた。
抜け出ようと大きな身体を暴れさせる牛鬼をしっかりと見据え、次の攻撃へと思考をシフトする。
「ノウマク サラバタタギャテイビャク サラバボッケイビャク
サラバタタラタ センダマカロシャダ ケン ギャキギャキ
サラバビキンナンウン タラタ カンマン!!」
不動明王の印を結ぶと同時に不動明王の真言である火界咒を口にした。
一撃で仕留めれるように自分が持つ霊力の半分を込めたおかげか、火界咒を口にし終えた瞬間、ゴォっという激しい音をたてながら、未だ暴れている牛鬼の全身を炎が包み込む。
辺り一面に牛鬼の叫び声が響き渡る。
だんだんと牛鬼の声が小さくなり、聞こえなくなると同時に役目を終えたというように炎が掻き消えた。
「オン アボキャ ベイロシャノウ マカボダラ マニ ハンドマ
ジンバラ ハラバリタヤ ウン。」
場所を浄化するため光明真言を唱え、印を結ぶ。
「流石オトハル様。ご立派に役目を果たされましたね。」
フッと息をつく僕の横に眼鏡をかけた冷たい面差しの青年が並び立つ。
(先程は緊急事態のためスルーしたが。)僕を現実逃避から呼び戻したこの男こそ、かの有名な十二神将の1人、主神の貴人なのだ。
「何が流石だよ!僕が調伏するための作戦を立てている間に勝手に調伏対象連れてきて!!」
怒っているんだぞ!っとわかるように貴人を睨みつけながら、抗議する。
「あれは作戦を立てていたのですか?」
遊んでいるのかと思いましたと、涼しい顔をしながらいけしゃあしゃあとのたまう。
あー!めっちゃ腹立つー!!
昔っからこうなんだよ、この男!
何かあると僕をおちょくって楽しんでるんだ!
本当に十二神将なのかって何度疑ったことか!
実際に顕現するのを見たから信じるけどね!
あのドヤ顔殴りたい!
「オトハル様、言葉使いが乱暴になっていますよ。」
「僕の言葉使いを乱してるのは、貴人のせいだよ!
はぁーもういいや。指示されていた牛鬼の調伏したし、浄化も済ませたから帰ってゆっくりしよ……。」
自分は関係ありませんという表情を浮かべる貴人を相手にするのをやめ、まだ見ぬ他の十二神将達がまともな人格を持っていますようにと祈りながら、家へと向かいはじめた……。
これは天才陰陽師であり賢王として名を残す少年と、その少年を手助け、付き従った十二神将という者達が繰り広げる歴史に残る波乱万丈な物語である────────。




