天使と女神と道化師と
一週間に一話のペースで投稿しようか迷ってますw
「本当に!本当に申し訳ございません!」
女神である白の綺麗で真っ白な髪が、悠梨の足下に広がる。
地に額をつけた白は、おそらく世界一神々しい土下座を天使に披露した。
「おい、やめてくれないか?何故謝られているのかも知らないし、絵面的に誤解を受けそうなんだが…」
美女に土下座をさせる無表情の青年の図……
住宅街にある公園での出来事だ。
奥様方に誤解され、噂話が広まり、社会的に終わる事は避けたい。
最近の主婦のネットワークを甘く見ると痛い目を見る。
「そうもしつこく土下座をされても困る。お前は何に関して謝罪しているんだ?」
さすがに困惑を隠せず、やや焦りを見せる悠梨。
悠梨の言葉を聞いた白は顔を上げ、ゆっくりと立ち上がる。
その顔からは先程までの冷徹で残忍な雰囲気は感じず、涙や汗などで濡れていた。
「うぅ~…」と呻く白は、そのまま口を開く。
「悠梨様は、私の恩人の恩人なんです」
「お前の恩人?」
「はい」
「その前に、『様』はやめてくれないか?」
キャラが変わりすぎてついて行けていないというのに、『様』付けで呼ばれては集中できない。
「いえ。それでは私の気が済みません!お兄様からのお許しがあれば話は別ですが」
仕方ないか。
諦めも肝心だ。
「その……『お兄様』って言うのが『恩人』なのか?」
「はい。『神代七美』と言う名に心当たりはありますか?」
「何?」
聞き覚えのある名に、悠梨は食いつく。
そう……三ヶ月前に常世島を去るまで、毎日のように傷を治してやっていた少年の名前。
困ったように眉を下げて笑う、頼りなく薄幸そうな雰囲気が、悠梨にとって、とても印象的な少年だった。
「あいつを知っているのか?それも、お前の『恩人』?」
確かに、お人好しな性格ではあったが……
七美は困っている人を放ってはおけないやつだった。
七美に助けられたと聞けば、彼が『恩人』というのは納得が出来る。
ただし、それは『普通』ならだ。
今、悠梨の目の前にいるのは、『普通』ではない。
七美が関わるような存在ではない。
「私は、お兄様に救われたんです。一人孤独の中、呆然とすることしかできなかった私を、お兄様は助けてくれたんです。手を伸ばし、優しい声で……」
白は両手を胸の前で重ね、心底愛おしそうに語った。
いまいち、納得がいかないな……
悠梨にとって、七美とはあまりにも頼り甲斐の無い少年だったのだ。
「で、何故『お兄様』なんだ?血縁関係ではないだろう?」
白の話を聞いて、自然に思った疑問を投げかけた。
「私の信頼の表れ……とでも言っておきましょう」
答えはとてもあっさりとしたものだった。
俺も三ヶ月で大分変わったが、まさかあの七美がこんな変わった奴の恩人になっているとはな……
本当に人生何があるか分からないな。
悠梨は、話は飲み込めなかったが、自分と七美のこれまでの経緯を思い返して、感慨深く感じる。
「先程までの無礼、本当に申し訳ございません。お詫びといっては何ですが、私とお兄様の愛の巣……Aliceへ招待します。この後、御時間はありますか?」
いろいろ気になることを言っていたが、指摘するのはやめよう。
急な誘いに迷いもしたが、七美には会いに行こうと思っていた。
ちょうど良かった。
「あぁ、なら言葉に甘えよう。あと、そこまで畏まらなくていい。気軽に接してくれ」
「これが私の自然体なんです。ですが、少し控えましょうか」
そう言うと、白はくすりと笑った。
初めて見せた白の笑顔に、悠梨はようやく完全に警戒を解いた。
そして、
「何が自然体だ。さっきの不良共や俺にキレた時の態度の方が自然体なんじゃないか?」
「本当に申し訳ございません!お兄様の恩人とは知らずに剣を向け、あまつさえ殺そうとするなんて!いえ!悠梨様の体質が無ければ殺していました!私はなんてことを……!」
茶化すように、冗談のつもりで言ったのだが、白は額面通りに受け止めて、再び世界一神々しい土下座を披露した。
「いや、すまない。冗談だ。だから土下座は勘弁してくれ」
悠梨は膝を折り、白の手を引こうとした。
だが、その時……
「待て待て待て~い!!!」
閑静な住宅街に、騒々しくも透き通るような声が響いた。
「ん?」
突然の静止の声に、悠梨は伸ばそうとした手を止め、白は顔を上げて、声の元であろう方向を見る。
それは、公園の中心にある鉄製の巨大なジャングルジムの頂上からだった。
そこには、黄色いシャツに青いオーバーオールを着た美少女が、太陽の光でキラキラと輝く金髪を風に靡かせて、特撮ヒーローのような変身ポーズをとっていた。
「え~と、お前は……」
「美女に土下座をさせて高笑いする悪者が!成敗してくれるぞ~!」
悠梨の言葉を遮り、金髪美少女は笑顔で、どこか芝居がかったセリフを言う。
「これは誤解だ。それに高笑いなどしていない。より立場が悪くなるような嘘はやめてくれ」
「そうです。全て私に非があります。無関係な第三者は黙っていてくれませんか?騒々しいですし、目障りです」
こいつ本当に初対面の相手には冷たいな。
騒々しいのは同意するが、誤解とはいえお前を助けようとしてくれているんだぞ?
悠梨が、白の唐突な態度の変化に驚いていると、金髪美少女は続けて言った。
「いやいや~、遠慮しなくてもいいんだぜ~?一声あらば!ドドーンと助けるってね!」
こいつ話を聞いてないのか?というか馬鹿なのか?
つくづく変わった連中に絡まれる一日に疲れを感じ、ため息を吐くと、悠梨は言った。
「あのな……話を聞け。まず、お前はなんだ?迷子か何かか?昼間とはいえ、女の子が一人でいるのは危ないぞ?」
住宅街の公園に現れた美少女。
見る人によっては、ギリギリ幼女という表現をされるような容姿だ。
俺と白からしたら、迷子になってしまった騒々しい子どもであった。
すると、美少女は腰に手を当てて、晴れ晴れとした笑顔で言った。
「残念だぞお兄さん!まず、ひと~つ!俺は迷子ではない!ふた~つ!こう見えて中学生だよん!み~っつ!そ~してっ!俺男だよっと!」
「「………は?」」
悠梨と白は、揃って素っ頓狂な声を出した。
いやいやいや、嘘だろ?
どう見ても……
金髪美少女?の容姿は、黄色いシャツに青いオーバーオール姿で、髪は、毛先がウェーブがかった輝くような豪奢な金髪を後ろで粗末に束ねている。
束ねているにも関わらず、腰辺りまであるほど長い。
高価な宝石のような青い瞳に、色白な肌。
まるで、プロの職人が精巧に造ったフランス人形のような容姿は、紛れもなく『美少女』であった。
衝撃の事実に動揺する悠梨と白。
そんな二人の動揺など関係無しと、「ナハハハ!」と大声で笑う金髪美少女?は悠梨に対して指を差して言い放つ。
「さぁ!美女に痴態を晒させる悪辣大悪漢!大人しくこの常世島の平和を守る精霊術師、“予測不能”天夜輝光海のお縄につけ!!」
「何!?」
「予測不能!?」
その名は、感情薄な悠梨やクールで冷徹を装う白を驚愕させるものだった。
そう……異世界の住人である魔族が、一体のみ使役することの可能な精霊を複数使役する人間……
絶望を殺し、希望を生み出す化け物。
その者の行動は、誰にも予測出来ない……
精霊に愛された道化師
“予測不能”天夜輝光海
天使と女神の眼前に参上する。
次回!
少しだけですが戦闘描写を書こうと思います!