黒と白の日常
リアル・ラグナロク第2話となります!
この作品の主役となる二人の日常です。
「ん~……」
「まだ、目は覚めませんか?」
「……う~ん、ごめんね?すぐに…朝ご飯作る…から……」
そうは言うものの、僕はまったく目が覚めず、意識は徐々に睡魔によって奪われる。
「まぁ、お兄様ったら。睡魔に襲われウトウトとするお兄様は見ていて可愛いのですが、このままでは学校に遅れてしまいますよ?」
クスクスと笑う白は、まるで僕を茶化すかのようなセリフを言って、僕の肩を揺すぶる。
現在の時刻は午前七時。
僕が通う学校は、このアパートから徒歩十五分の距離にある。
白は料理が出来ないため、普段は僕が二人分の朝ご飯とお昼ご飯のお弁当を作る。
ちなみに、白は学校に通ってはいないので僕が勉学に励んでいる日中は、外を適当に見て回っているらしい。
まぁ、前に体育の授業中にグラウンドの木の陰や、下校中に電柱の影から僕を除いていたことから、『適当』に見て回っているかは定かでは無い。
「うぅ……、起きなきゃ……」
睡魔に襲われる重たい体を、やっとの思いで起こして、僕は朝日に染まるカーテンを開ける。
「ん……」
差し込む朝日と日の熱が暖かく、僕を襲う睡魔は消えて、多少だが目が覚める。
「今日も一日頑張ろうか……」
両手を頬を「パンパン!」と叩き、意識を完全に取り戻す。
「では、私もお供します……学校に」
「いや、そろそろ諦めてよ」
僕と白の一日がスタートする。
××××××××××
その後、僕と白は手早く朝ご飯を作って食べた。
白が、
「お兄様、『あーん』ですよ。はい、『あーん』」
と、しつこく『あーん』を強要してくるなど一悶着あったけど、無事に食べ終わり、学校へ行く準備も済ませる。
「忘れ物などはありませんか?」
「うん、大丈夫だよ。あれ?白も、もう出掛けるの?」
忘れ物の確認をしてくれた彼女は、先ほどのジャージ姿ではなく、真っ白なゴスロリのような服を身に纏っている。
特徴的なのは白い薔薇の飾りがあしらわれているロングスカートだ。
彼女がどれだけ身長が高いのかがよくわかる。
(ていうか、足も長いんだよね……。初めて会ったときよりは差は無くなったけど、まだ僕の方が背が低い……)
「?お兄様、どうかいたしましたか?あ!まさか、私に見惚れていたのですね!良いのですよ!さぁ!もっと見惚れてください!」
大きく勘違いをする白は、両手を大きく広げて大の字で立つ。
「いや、違うから!身長のことを気にしたの!両手広げるのやめて!」
「何ですか。もう少し積極的になっても良いんですよ……?」
両手を降ろした白は肩を落として落胆する。
「これでも積極的なんだから我慢しなさい。ほら白こそ忘れ物はない?お弁当は持った?」
「お兄様が愛情込めて作ってくれたお弁当ですよ?この私が忘れるわけありません」
ドヤ顔で語る白は肩から下げた小さな鞄を撫でる。
どうやら抜かりないようだ。
「これは愚問だったね」
僕は頬を掻きながら笑う。
「それじゃ行こうか」
「はい!」
僕と白は二人で家を出る。
僕はシャツの胸ポケットから家の鍵を出して扉を閉めていると、ふと白から質問がとんでくる。
「そういえばお兄様。こちらに住んでいた方は今はもう常世島には離れたのでしょうか?」
そう言う白が見ているのは、僕たちの部屋の隣の部屋。
この部屋には、三ヶ月程前まで“凌宮悠梨”という青年が住んでいたが、ある日突然「仕事先を見つけた」と言って、このアパートから去った。
僕は彼にすごく世話になったので、突然のことで、何も恩を返せず別れたことには、今も少し後悔している。
「うん。突然のことだったから、“仕事先”も聞けなかったよ。本土にはいないと思う」
常世島は本土と上空に浮遊する三つの人工島から成り立っている。
上空に浮遊する三つの島はエルル区、フラズ区、ヘルヴ区と呼ばれ、それぞれを一つの国が治めている。
エルル区はシャルアリス王国が、フラズ区はセルヴィア王国、ヘルヴ区はノインク王国が治めている。
「『少し遠くてな』としか言ってなかったからわからないんだよね」
「なるほど。……確か『どんな怪我でも瞬時に治してしまう』すごい方でしたか」
「うん。僕が怪我をしちゃった時とかに治してもらってね。凄い人だったよ」
僕は生まれつき保有する魔力量が極端に少ない。
常人が当たり前のように出来る魔術すら使用できず、魔術発動に必要な術式すら構築できない始末だ。
そんな時、僕に発現した能力は『手の平サイズの金色の輪を自由自在に操る』というものだった。
この能力が発現したのは、僕が中学に入学した辺りだったと思う。
当時の僕は、
「パッとしない能力だな~」
と、いまいち嬉しさがこみ上げてこなかったけど、つい最近、この能力が寵愛と呼ばれる、異能力であることが発覚した。
ちなみに、この寵愛は白により『ニーベルンゲン』と命名された。
ともかく、僕が通うのは日本政府から直接の支援を受ける魔術を専門に扱う名門校。
小中高一貫の巨大な学園……“日野雨学園”だ。
生徒全員が魔術を扱えて当たり前の世界……一部は魔術の関係ない普通のカリキュラムも存在するけど、魔術の扱えない僕は、どうしようも無く浮いた存在となった。
クラスメイトからは魔術の練習台と称して理不尽な暴力を受ける毎日。
そんな暴力によって出来た怪我を凌宮さんは瞬く間に治してくれた。
本当に彼には感謝している。
ちなみに、白には僕がクラスメイトから暴力を受けていることは教えていない。
白のことだ、このことを知ったらキレてクラスメイトに容赦の無い制裁をするかもしれない。
冗談でも無いから笑えないよね……。
「それにしても治癒能力ですか。魔術師だったのですか?」
「いや、治して貰ってるときは魔力は感じなかったから、たぶん、信仰者だと思う」
信仰者とは、魔術や超能力でもない異能力、寵愛を使役する者のことを言う。
凌宮さんの治癒能力はきっと、寵愛だったのだと思う。
「さて、思い出話はまた今度だよ」
「はい!では、途中まではお供します!」
「もう、仕方が無いな」
凌宮さんには申し訳ないけど、正直、今が一番幸せかもしれない。
××××××××××
太陽の光が凄く眩しい。
常世島本土よりも太陽に近く、町並みも日本とは全く違う、西洋の造り。
まるで、時間が何世紀か遡ったかのような町並み。
ここは常世島上空、シャルアリス王国が治めるエルル区。
今も尚、騎士の誇りを忘れることなく、王に忠義を尽くす、騎士王国。
街の中心には、太陽に届くかの如く巨大な城が聳え立つ。
城の一室、そのテラスにそよ風に吹かれながら一人の青年が立っていた。
「ふぅ……何故だか急に思い出したな……」
そう呟くのは、黒髪に端整な顔立ちをした帯刀する特徴的な青年だった。
白を基調とした制服のような服を身に纏った青年は、目を瞑り黙っていた。
「フフ、珍しいですね。あなたがそのような顔をするなんて。何か懐かしいことでも思い出しましたか?」
すると、室内から柔らかな、聞くだけで心が和らぐような優しさに溢れた声がテラスに届く。
室内は本棚に囲まれ、豪奢なシャンデリアが輝いていた。
天蓋付きのベッドや、煌びやかな装飾のなされた家具……そして……ゲームのハードやソフトが散らかる床。
異様な光景ではあるが、今回は置いておこう。
「まぁな……俺がまだ本土の方にいたとき、となりに変わったやつが住んでいてな。いつも困ったように笑うやつで、毎日傷を作っていたやつだった」
「あなたが、治してあげていたのですか?悠梨」
「あぁ、世話の焼けるやつだった」
青年の名は、凌宮悠梨。
空想上の存在とされた天使であり、数多の聖剣や魔剣を持つ、シャルアリス王国第一王女リアナ・レイ・シャルアリスに仕える、現シャルアリス王国騎士団団長である。
この作品の主要人物は八人となります。
それでは次回も読んで下さい!