マイペース兄妹
三人称の練習にアホっぽいのを書いてみました。
ごく普通の一軒家の中にたれ目の青年がいた。青年はグツグツと煮込まれている鍋の前でボーっとしていた。穏やかな夕暮れ時のひと時を青年がのんびりと夕食を準備しながら過ごしている、そんな日常の一コマだが、そんな青年の安寧は青年と似た少女が玄関を思いっきり開けた瞬間に崩れ去るのだった。
「ただいマント!!」
声を張り上げてダイナミック帰宅を果たした少女――燕子花 仁野は青年の妹である。なお青年こと兄は燕子花 一護という。
「……はい。おかえり、仁野」
盛大に張り上げたボケ付きの帰宅に対してため息を吐きながらも普通に答える一護。そんな態度に少女は不満げに答える。
「もう、いちにぃノリ悪い! ノリ悪いよ!」
「じゃあ、なんて答えればいいの?」
「なんでもいい! とにかくお帰りの後に何かつけてよ!」
「ハイハイ、また今度ね」
そう言って鍋に意識を向ける一護。一方、仁野は絶対だからね! と言いつつ不満を抑えたらしい。そうしてリビングまでやってきたところで兄がキッチンで鍋に向き合ってるところを見て、勢いのまま尋ねる。
「それなに? 再犯?」
「毎日準備してるけど……ちなみにカレーだよ」
「おぉっ! いいねぇ。私の分のアレはある? あの……発狂!」
「僕はいたって正常です。まあ、あるよ。」
勢いのまま発言するので、妹の仁野の発言はいつもおかしくなる。この家ではこの程度の会話が日常茶飯事なのだ。そのせいか、兄である一護の察する能力が磨かれてしまっている。もちろんスルースキルもだ。
やった! と小躍りしながら仁野は一護の周りをうろうろし始めた。
「仁野、危ない。大人しくしなよ」
「えへへ。ごめん、ごめん。テンション上がっちゃってさ」
「わかったなら居間に行ってなー」
「居間に居るよ! なんちゃって!」
「ハイハイ。おもしろい、おもしろい」
そんな会話をしながら、仁野をキッチンから追い出す一護。仁野は何が面白いのか「居間に今行く~」と言いながら今に向かっていった。
一護はキッチンからうるさい妹を追い出したが、すぐに目の前の圧力なべがピッ―と笛を吹いた事で穏やかな時は訪れないことを悟った。
「できた!? できたの!?」
笛の音を聞きドタドタと仁野がキッチンに襲撃をかけてきた。軽くため息を吐きながら一護は仁野の襲撃を受け止めつつ、ごはんを準備するように頼んでおく。なお、すでにご飯はほかほかの状態で炊飯器の中にある。
仁野は言われた通りに炊飯器の前に勇者のように仁王立ちしている。右手のしゃもじはまさに勇者の剣のごとく、そして左手には勇者の盾のように丼を持って炊飯器に立ち向かっていた。
「盛っり付けるよー!」
「待って! それはどんぶりだから。カレー皿はこっち」
「おおう、似てたから間違えちゃった!」
「どこが似てるんだよ……」
「装備場所と性能!」
「それは防具じゃないからね?」
なれたように苦笑しながらカレー皿に持ち替えさせる様子はまさに、勇者のミスをフォローする文官であった。
そうしてさしたるトラブルも起きずに無事居間の四角いテーブルに二人分のカレーが並んだ。ホカホカと湯気を立てるさまはなかなかに美味しそうである。
「おおー! カレーだー」
「お茶は今注ぐから少し待っててね」
「国境は!?」
「国をまたいだ料理という意味ではあながち間違ってない……」
一護はそう言いながら、机の上に置いてある容器を指さした。ついでにコップに注いだお茶も配膳していく。ちなみにカレーはインド生まれだが、日本でだいぶ改造されていることで有名だ。
「あの容器の一つがらっきょうだから。もう一つが福神漬け」
「七福神はあんまり好きじゃないんだよね。あ! ひき肉だ!」
「バチ当たるぞ。キーマ風にしてみた」
「鍵形に切ったの?」
「それをいうなら鍵」
こんな風に和気あいあいと話しながら、のんびりと仲の良い兄妹は夕食を楽しんでいった。
おしまい。
《キャラクター紹介》
兄 燕子花 一護
妹のボケをスルーすること
妹の謎発言を理解すること
妹 燕子花 仁野
語彙が残念で発言がニアピン
言い間違い聞き間違いが日常
挨拶にボケが入る