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お題小説  作者: お題小説置き場
第一回お題小説
2/2

『僕の周りの女の子は全員暗殺者だったようです』 著者:両谷 ケン

私以外の著者である、両谷 ケンさんの作品となっております。

以下のものは、両谷さんが書かれている作品です。

http://mypage.syosetu.com/449113/

「ぼっちゃまああああああ! 抱きしめさせてくださいましぃぃぃぃぃっぃぃぃぃ!!」

 夜の裏路地。奇声を上げながら、紫色のメイド服を着ている紫髪の美女が僕を抱きしめようと疾駆してくる。

「ああ、無理ごめん」

「ぶふっ!?」

 僕はそう言って上体を逸らすと、美女の抱擁を回避する。幼い頃から様々な武道を経験し、厳しい訓練を受けてきた僕にとって、暗い夜道といえど何ともないことだった。

「な、なぜでございますのぉ・・・・・・」

 電柱に激突した顔をさすりながら、若紫色の両目に涙を溜めて紫色の髪をした美女ーーーーシャーロットさんは呟く。

 十人居たら十人が綺麗と言ってしまうほどの凄まじい美貌に凶悪なセクシーボディー、この人の本性を知らなかったらどんな男だって一瞬で籠絡されてしまうだろう。

「真夜中に美女に抱きつかれたくない高校生なんているわけがな・・・・・・ハッ! ぼっちゃまもしかしてゲーー」

「そっから先は言わせないよ!?」

「ブンゴルッ?!」

 とりあえず、とんでもない事を口に出そうとする美人なお姉さんの顔面を殴って黙らせる。

 全く事情の知らない人達が見たらドン引きされるだろうこの光景。

 僕だってまさか自分が美少女の顔面を殴るなんて、思いもしなかった。


 そう、あの時までは。


☆★☆★☆


「十蔵、これが何かわかるか?」

 早朝。僕、榊原十蔵は初老を迎えた父さんーー榊原重三に眼鏡ケースのような箱を渡される。カパリと蓋を開けると、予想通り黒縁の地味なメガネが入っていた。

「めがね・・・・・・?」

「そう、メガネだ」

 僕の答えに父さんは丸太のように太い腕を組んでうむと頷く。ただ椅子に座っているだけなのに、その佇まいからは威厳が滲み出ていた。

「何でこんなものを?」

 僕の視力は両眼ともに1.5。メガネなんて必要ない。大財閥の長で大忙しの父さんでも、流石に一人息子の視力の状態ぐらいわかっていてもいいはずだけれども・・・・・・。

「かけたらわかる」

「か、かけたらって・・・・・・」

 戸惑いながらも促されるままに僕はメガネをかける。


[十蔵好きだ十蔵好きだぺろぺろしたいぺろぺろしたい十蔵好きだ十蔵好きだ好きだぺろぺろしたいぺろぺろしたい好きだ好きだぺろぺろしたい好きだ好きだ好きだ好きだ愛してる十蔵愛してる十蔵愛してる十蔵愛してる十蔵愛してる愛してる十蔵愛してる十蔵愛してる愛してる十蔵愛してる愛してる十蔵愛してる十蔵ぺろぺろしたい十蔵ぺろぺろしたい十蔵ぺろぺろしたい十蔵ぺろぺろしたいぺろぺろしたい十蔵ぺろぺろしたい十蔵ぺろぺろしたい十蔵愛してる十蔵愛してるぺろぺろしたいぺろぺろしたいprprprprprprprprprprprpr・・・・・・・・・]


「おっふ・・・・・・」

 突然視界一杯におぞましい黒文字が羅列され、吐き気がこみ上げてきた。

「・・・・・・今までありがとうございました」

「おい十蔵待てそっとでていこうとするんじゃない!!」

 心の底から恐怖を感じた僕はメガネを外し、親子の縁を切ると同時に部屋を出ていこうとするが父さんの剛腕に捕らわれてしまう。これは非常にまずい。実はこの男、柔道五段、空手六段、剣道七段、他にも様々な武道を段レベルまで体得している化け物なのである。

 僕も負けてはいないのだけれども、体格差がありすぎて組み付かれると話にならない。

「安心しろ十蔵、これは人の気持ちがわかるメガネなんだ。決してお前がおかしくなった訳じゃない!」

「何を勘違いしてるのか知らないけどとりあえず近づかないで!?」

「ごほっ!?」

 異常なまでに顔を近づけてくる父さんに、何とかパンチを放って離れると両拳を握って戦闘態勢に入る。

「十蔵、これは親子愛だ。安心しろ」

「違う! 絶対違うから! それ絶対ゆがんでる親子愛だから!」

「コ、コワクナイゾー?オトウサンシンヨウシテ?」

「ひぃぃっぃぃぃ!?」

 もはや威厳もヘったくれもない変態親父がジリジリとにじり寄ってくる。背後には壁、僕の貞操ももはやこれまでか・・・・・・。

コンコン・・・・・・

 史上最悪な形で親子戦争のゴングが鳴る直前、執務室の扉を叩く音がした。

「まずい!? 十蔵、そのメガネのことは絶対に口外するなよ! あー・・・・・・ゴホン・・・・・・少し待ちたまえ」

「え、ええ!?」

 父さんは早口でそう言うといつもの威厳を感じさせる表情に戻り、咳払いをしてガチャリと扉を開く。

「おはようございます、十蔵様、重三様」

 艶のある色っぽい声と共に扉から女の子が入ってくる。いや、年齢は高校生になったばかりの僕より上に見えるからお姉さんという表現が正しいかな。

 紫色のメイド服を着ていて、服と同じ色の綺麗な髪はなんと地面すれすれまであった。

でも何でこんなところに美人なお姉さんがいるんだろう? あ、まさかーーーー

「ゴミだね父さん」

「違うぞ十蔵、頼むから母さんに電話しようと開いている携帯を閉じるんだ」

 必死の形相の父さんに免じて、僕は渋々携帯を閉じる。

「ちゃんと説明してよ?」

「あ、ああ! もちろんだ! とりあえず君はこっちに来なさい。十蔵も」

「かしこまりました」

「うん」

 父さんはお姉さんを執務室に入れると、扉を閉める。部屋に入ったお姉さんは前で手を組み、動作を終えたロボットみたいにピタリと制止した。

「十蔵、突然だがお前は彼女に警護されることになった」

「ふぇ?」

 父さんの突然すぎる唐突すぎる発言に僕は思わず変な声を出してしまう。

「何を言ってるの父さん? 僕は自分の身くらい自分で守れるよ?」

 この言葉に嘘はない。榊原家の教育方針で小さい頃から様々な武道家や退役軍人から指南を受けてきた僕の実力は相当なものになっている。護衛なんてむしろ足手まといだ。

「それはそうなんだが・・・・・・母さんがうるさくてな・・・・・・」

 父さんは目をそらしてポリポリと頬をかく。基本的に、父さんは母さんには逆らえない。恐らくこの件は心配性の母さんが強行したんだろう。

「ぼっちゃま、私は掃除洗濯学問等々、様々なことに通じていますので色々な面でお役に立てると思いますわ」

「は、はあ・・・・・・」

 髪の色と同じ紫色のメイド服を着たお姉さんはうっとりしてしまうような微笑みを浮かべて言った。年齢は大学生くらいだろうか、身長は僕より少し高いぐらい、胸は・・・・・・ヤバイ・・・・・・。

「まあとりあえず紹介しよう。彼女の名前はシャーロット。護衛メイド株式会社でも指折りの人材らしい」

「お褒めに預かり光栄にございます」

 父さんの言葉にシャーロットさんはおしとやかにペコリと一礼する。その際、メイド服の胸元から少し胸の谷間が見えてしまって、僕はそっと視線を近くにおいてあった六法全書に向けた。ていうか護衛メイド株式会社ってなんだよ・・・・・・初めて聞いたよそんな会社。

「おっともうこんな時間だ。十蔵、父さんはこれから用事があるから行かねばならない。後のことはシャーロットさんと話し合って決めなさい」

 金色の腕時計をみた父さんが慌ただしく立ち上がりながら言う。

「わ、わかったよ」

「かしこまりました」

 僕たちが頷いたのを見届けると、父さんは扉を開けてずかずかと廊下へ出て行った。

「「・・・・・・」」

 沈黙が室内を支配する。うう・・・・・・この雰囲気、非常に気まずい。この雰囲気をごまかすために、僕は持っていたメガネをいじるとそっとかける。

「ぼっちゃま、メガネをおかけになるのですか?」

「あ、うん。少し視力が落ーーーーおっふぅ・・・・・・」

 声をかけられたことによって、シャーロットさんに視線が向いてしまった僕は視界一杯に広がった文字に言葉を失った。


[殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す]


「どうなさいました?」

「ッッッ!? い、いやちょっと熱っぽくてね」

 不思議そうな顔をしながら僕をのぞき込んでくるシャーロットさんに慌てて嘘の言い訳をする。

「それは大変でございます! 急いで熱を計らねば!!」

「うおっと!?」

 唐突に僕の額へ手を伸ばそうとしてきたシャーロットさんからズザザザッと距離を取る。今手の中からキラリと光る物が見えた気がするんだけど気のせいだと思いたい。

「恥ずかしがらなくてもいいのですよぼっちゃま? どのみち本日よりお風呂から夜のお世話まで私、シャーロットがするのですから」

「い、いやぁ・・・・・・お風呂と夜のお世話はちょっと遠慮しrとくかなぁ」

 殺されかねないからね。とは間違っても口にしない。もし僕が彼女の正体をここで暴いてしまったら何が起こるかわからないからだ。全身に爆弾を巻き付けていてドカンとかされたらいくら僕でもたまったものじゃない。

「そう遠慮なさらなくていいのですよ? あ、少し時間が早いですが早速お風呂なんてどうでしょう? お背中をお流しいたしますよ」

 細い両腕で自分の胸を挟み強調しながら、完璧な笑みを浮かべて僕に近寄ってくるシャーロットさん。手の中に隠し持たれている暗器が見えていなかったら僕はとっくに落ちていただろう。


 これが僕、榊原十蔵とシャーロットさんとの出会いだった。



☆★☆★☆


「おっと、ぼっちゃま背中に羽虫が」

「羽虫さんが可哀想だからその手に持ったナイフは使わないでそっと手で払うだけにしてね」

「むぅ・・・・・・」

 ぷくっとふくれっ面を浮かべると、シャーロットさんは持っていたナイフをポッケにしまい、僕の背中をそっと手で払った。どうやら彼女、少し、いやかなり天然が入っているらしくあれだけ暗殺未遂をしていながら、自分がまだ暗殺者だとバレてないと思っているらしい。

 僕も早く彼女を追い払いたい気もあるのだが、なんだかほっとけないあの時からもうかれこれ一ヶ月以上生活している。暗殺の技術自体も僕を仕留めるにはまだまだ達していないし、このままでいいんじゃないかと思うときもあったりする。

 もしかしたらこのまま僕に好意を抱いてくれるかもしれない、と言う淡い期待もあったりなかったり。


[殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す]


 彼女と出会って以来、ずっとかけっぱなしにしているメガネ[人の気持ちを読みとる機能はオンオフができる]で彼女を見るがこの状況だとだいぶ、いや当分来そうにない。

「はあ・・・・・・」

「どうしましたぼっちゃま?」

 性懲りもなく心配する素振りを見せて、僕の首筋に突き立てようとしてくるナイフを隠し持った手を払いながら足払いをかける。

「ぷぎっ!?」

「うおっ!?」

 奇声を上げて地面を転がるシャーロット。しかしこのお姉さん、咄嗟に僕の腕を掴んでくる。完全に油断していた僕は体勢を崩し、シャーロットさんに覆い被さってしまう。

「ぼ、ぼっちゃまったら・・・・・・大胆なんですから」

 ポッと頬を染めつつ、狩りをする蛇の如く僕の首筋に食らいつこうとして来る両腕を何とか掴みそのまま押さえつける。

「ぼ、ぼっちゃま、少し痛いので離してくれませんか?」

「うう~ん、ちょ、ちょぉ~と無理かなぁ?」

 ギチギチとシャーロットさんと僕の腕が鳴る。メガネをスイッチを切る暇がないため、彼女の殺意が視界一杯に広がっていて非常に見えづらい。

 しかし何ともこの格好、端から見れば完全に僕が犯罪者にしか見えないんじゃないんだろうか。

 嫌な予感がした僕はこの体勢を何とかしようと思考を張り巡らせる。

「榊原君、何やってるの?」

「りゅ、龍王寺さん!?」

 しかし、最悪のタイミングで僕と同じ高校に通っているクラスメイト、龍王寺佳代子さんが現れてしまう。

 人形みたいに整った顔立ちをした彼女はいつも通りの無表情で、白雪を連想させる程に真っ白い染み一つない素肌をした華奢な腕にはコンビニの袋が掛けられていた。

 彼女が何を考えているのか、何を思っているのか、全くわからないため、学校ではミステリアスクイーンと呼ばれてるぐらいだ。

 よって、感情を見通せるメガネで彼女を見てもーーーー

[無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無]

 うん、やっぱり何もわからないや。

「こ、これには深い事情があってね」

「どんなに深い事情があってもその状況になってはだめだと思うの。彼女、嫌がってるわよ」

 龍王寺がくいっと小さな顎でシャーロットさんを指す。

「ハアハア・・・・・・ぼっちゃまぁ・・・・・・」

「・・・・・・これが?」

「ごめんなさい、これに関しては私が悪かったわ」

 恍惚の笑みを浮かべてハアハア言ってるシャーロットさんを見て、龍王寺さんの瞳にほんの少しだけ戸惑いの色が浮かんだが、すぐに消えてしまう。

「でもあなたが彼女とくんずほぐれつしようとしているのには変わらないわ、不潔ね」

「ほんとにこれには訳があるんだって! くんずほぐれつとかいっちゃほいっちゃとかしようとも思ってないからね!?」

「とりあえず明日クラスのみんなに広めとくわ。榊原君がクラスメイトの前で堂々とくんずほぐれつしてましたって」

「ちょっとまって!? そんなことしたら僕の居場所がなくなっちゃうよ!!」

「大丈夫よ、そんな心配しなくてもあなたはここで居なくなるから」

「ふぇ?」

 意味不明なことを言いながら龍王寺さんはテクテクと近づいてくる。なんだかこの状態でいるのはまずい。そう思った僕は抵抗が収まったシャーロットの両手を離し、立ち上がろうとする。

 ガシッ!

「ちょーーーー!?!」

 しかし、シャーロットさんが僕の腕をガッチリと掴み、引き寄せてきた。それと同時になんだか暖かいものが僕の首の後を覆う。

 ザクッ・・・・・

 やばい、そう思った瞬間、小さく、しかしはっきりと。何かで肉を貫く音が僕の両耳に響いた。

「ッッッ!?!?!?」

 生暖かい液体がドロリと僕の背筋を伝う。恐らくこの感触は血、でも何故か痛みはなかった。


「・・・・・・どういうつもりなの、シャーロット」


 龍王寺さんの冷え切った声。振り返ると、深紅の鮮血を浴び穴の空いたコンビニの袋を小さな手に握った彼女の姿があった。

飛び散った鮮血の根源はシャーロットの右手、どうやら龍王寺さんの攻撃から僕を守ってくれたらしい。

「・・・・・・ぼっちゃまは私が殺しますので」

「むぐっ!?」

 そう言うとシャーロットは僕の頭を掴み強引に自分の豊満な胸に引き寄せ、手の甲に突き刺さった張りを乱暴に抜き取る。

 ハイビスカスのようなシャーロットの甘い香りが僕の鼻腔に充満して何も考えることはできない。

「殺気も隠せないような未熟な暗殺者が何をほざいているの」

 呆れた声色で龍王寺さんが呟く。

「私の得意分野は正面突破。そう言うちまちまとしたのは嫌いなんですのよ、私」

 シャーロットが吐き捨てるように言う。心なしか少し顔色がよくない。

「私と敵対すると?」

「ええ、もちろんそのつもりです」

 龍王寺さんの言葉に確固たる意志を持った瞳でシャーロットは頷いた。僕を抱き留めていた手を離すと、龍王寺さんに向かって歩き始める。

「ぼっちゃま、少々お待ちください。あの下郎をすぐに片付けて参ります。」

 バタッ・・・・・・

「シャーロット!?」

 しかし、数歩も行かないうちに突然シャーロットが倒れ痙攣し始める。これはまさかーー毒!?

「やっと効きましたか」

 吐息と共に龍王寺さんが新たな針を手に握る。銀の針が月の光を浴びて緑色に怪しく光った気がした。

「常人ならすぐに動けなくなって死に至る猛毒ですよ。全くこれだから体力馬鹿は」

「ゴヒュッッッ!?」

「やめろ!」

 そういってゴヅッとシャーロットを蹴り飛ばした。いや尚人と共にシャーロットの身体は宙に浮き、数メートルほど先を転がって止まる。

 それを見た瞬間、身体の奥底からジワリ・・・・・・と熱いものが湧き出てきた。体中の血管と筋肉が膨張、自分の力が高まっていくのをヒシヒシと感じる。

「あなたを殺そうとしていた人物に同情?」

「同情なんかじゃないよ」

 メガネを外して自分のポケットの中に入れると、両の拳を堅く握り締めて僕は言う。

「自分のメイドをそんな風にされて黙っている男はいないと思うね。たとえそれが自分の命を狙っている暗殺者だとしてもだ」

「っ・・・・・・」

 そう言った瞬間、視界の隅にいたシャーロットがわずかに動いた気がした。まだ間に合う、急いで龍王寺さんを倒してシャーロットを助ける。

「ふん・・・男って単純ね」

 小さく呟くと、龍王寺さんは針を向けてくる。

「榊原君の実力は知っているわ。数々の武道や軍隊の訓練を受けているみたいだけど、暗殺者として生まれたときから教育された私の方が強い」

 その佇まいから彼女の実力は嫌というほど伝わってくる。恐らく父さんより強い。こんなに強い人、生まれて始めて出会ったかもしれない。でもーーーー

「今の僕は君よりも強い!」

「!?」

 人間離れした速度で龍王寺さんの目の前へ疾駆、からの彼女のミゾオチを軽く殴る。その一発で勝敗は決まった。

「なん・・・・・・で・・・?」

 信じられないものを見るような瞳で龍王寺さんは僕を見つめると、バタリと倒れたまま動かなくなった。

「怒りってものはカテコールアミンが放出されて人間の身体能力を上昇させるんだよ。僕はその両が常人に比べてだいぶ多いんだ」

 もう聞こえてないだろうけど、一応ネタバラシをしながら僕は龍王寺さんの身体をまさぐる。

「ぼ、ぼっちゃま・・・・・・そのような行為は流石に 色々とまずい・・・・・・と思いますの・・・・・・」

まるでゾンビのように這いよるシャーロットさん。怖い。

「違う違う! そう言うんじゃなくて、これを見つける為さ」

「むぐっ?!」

 僕はシャーロットさんの可憐な唇をこじ開けて液体の入った瓶をつっこむ。

 ンクンクンク・・・・・・

 艶めかしい音を立てて、シャーロットさんは瓶の中身を飲み干した。

「こ、これは・・・・・・?」

「暗殺者ってのは自分の使う毒に対する解毒薬を必ず持ってるものなんだよ。それを拝借しただけさ」

「ほ、ほへぇ・・・・・・」

 得意げに話した僕の言葉にシャーロットさんが感心したような声を上げる。いや、一応あなたも暗殺者ですよね?

「でもぼっちゃま、なぜでしょう。さっきより身体が重くなってきてる気がするのです」

「ええ~!? おっかしいなぁ~・・・・・・あ、ごめん間違えてたこっちみたい☆」

「ぼっちゃまあああああああああああああ!?」

 龍王寺さんの身体を調べるともう一つ瓶が出てきた。危ない危ない。

「ふぅ・・・・・・」

 薬を飲んだシャーロットさんの顔色が見る見るうちによくなっていく。しかし、彼女の生命力は化け物じみている気がする。あの毒の量はたぶん僕や父さんでも死んでるよ。

「さて、ぼっちゃま」

 ムクリと起きあがったシャーロットさんを僕は見上げる。

「少々お見苦しいお見せしましたが、これからもこのシャーロット、誠心誠意ぼっちゃまを護衛させて頂きますのでよろしくお願いしますね」

「う、うん・・・・・・」

 まさかこの人、あれだけの会話を僕の前で繰り広げておいて自分が暗殺者だと気づかれてないと思ってる・・・? 単に馬鹿なのか、それとも毒の飲み過ぎで頭がやられちゃったのか、どっちだろう。いやまてよ、猫をかぶって誤魔化している可能性もあるな、とりあえずメガネをかけてみよう。 そう思って僕はポッケに入れていたメガネを取り出し、かける。

[殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す好き殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す]

 うん、たぶん馬鹿なんだこの人。

「ああ! ぼっちゃまの首筋に羽虫が!!」

「うおっと!?」

 シャーロットさんの右手をぎりぎりで交わす。今のはちょっと危なかった。追撃にくるシャーロットさんの魔の手から逃れる為に、僕は彼女に背を向ける。

「ぼっちゃまあああ! 何で逃げるのですかああああああああ!?」

「君の持ってるナイフが原因かな!!」

 すたこらさっさと逃げ出す僕をシャーロットさんが追いかけてくる。

 彼女と僕が分かり合う日は来るのだろうか、いやきっと来ないだろう。

でも、一文字だけ見えた「好き」の文字には期待してもいいかもしれない。


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