表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/12

13話 :私は彼のことが信じられない (五日目 夜) 12000

グシャ……グシャ…。

物体が地上を潰している。


溶け落ちた翼。

私はもう知らない。



どこで間違えたのか、あれと人で。

人間は雲の下でいいと思った。

ここで生きていこうと思った。


あの物体はそれじゃダメだと思った。

だから宇宙まで出ていった。

その差。


研究も何も進んでいないこの世界で、どうやって生きていこうというのか。






二人。

私と漆原さんだけ。


ルカ「あの……」

漆原「特に会話はいらない……あれが落ちてきたら報告だけしてくれ」

ルカ「はあ……あの」

漆原「どうした?」

ルカ「他の方と合流しないんですか?固まって動いた方が…?」

漆原「そう思わない奴もいる…それだけだ」

漆原「何処を進んでいるは分かっている。はぐれない様に付いて行けばいい」

ルカ「あの……恨まれたりしないんですか?」

漆原「そうだな……いづれお前にもそう思われる。だから今はそっとしておいてくれ」





潰れた。


私の目の前で、みんなが、一瞬で。


ルカ「漆原さん!……来ましたよ?このままじゃ……」

漆原「ああ、そうだな……潰れるな」

ルカ「みんなを助けないと……」

漆原「それはいらない。もう必要ない」

ルカ「……?」


声を出す暇もない、そんな一瞬で死んでいった。

一瞬で、人じゃなくなった。

まだ、頭の上に浮かんでる。


漆原「上を見るな、動じるな。このまま進むぞ」

ルカ「翼を……翼を使いましょう…少しでもここから」

漆原「逃げたければお前だけで逃げろ……お前の命はお前のものだ」


潰される。

また一人、死んでいく。





ルカ「漆原さん……どうやって生きていこうって言うんです?」

ルカ「こんなのさらし者になっていますよ?あの物体から丸見えじゃないですか?」

漆原「だからどうした?気にせず進めばいい……翼はいらない」

ルカ「漆原さん……もうたくさん死にましたよ…漆原さんはみんなを殺したいんですか?」

ルカ「潰れた仲間の声が届かないんですか?」

漆原「……フフフ………すべて必要なんだよ、翼なんかに頼るからこんなことになる」

ルカ「……は?」

漆原「このまま地上に這いつくばっても意味はない。だったらここで生きていけるようにするしかない……」


漆原「それが進化だ」

漆原「人間は今までもそうして生きてきたんだ」

漆原「今は無駄な死かもしれない……だがいずれこの環境に適応した種が生まれ」


漆原「人間は新時代を迎える」

ルカ「…………くだらない…バカなんじゃないですか?」

ルカ「それを誰かにちゃんと言ったんですか?誰が賛成するんですか?」

漆原「それが私のやろうとしていることだ、文句があるなら他へ移れ」

漆原「ルカ……私は本気だ」

漆原「人は変われる…変わるんだよ」

ルカ「私には……分かりません」

ルカ「リーダーがいたらなんて言うんでしょうね……」

漆原「…………」

ルカ「残念です」


それだけ言って私は元の場所まで戻る。ちょうど漆原さんも見えなくなって、翼を外そうとした時、


母親「………誰か!!」

子供「…………あうあう」


子供が集団からはぐれている。はぐれて、それに気付いているのは母親だけ。

彼女には恐らく、翼は使えない。

このままじゃ…あの子は潰れる。



ルカ「……!!」

私は考えるよりも早く漆原さんの許可を得ずに飛び出していた。





(漆原がいつも行く場所)


漆原「…………」

漆原「………リーダー、あなたはどう思うのでしょう……笑いますか?」

漆原「こんなくだらないことにみんなを巻き込んだ私を、愚かにお思いになりますか?」

漆原「…………」

漆原「そうですよね……もう、何も答えてくれないですね……」

漆原「ここに何度も足を運んで……私もバカですよね……」

漆原「でも、潰れた仲間の事を思うと……あなたに会いたくなります……」

漆原「あなたはもう……」

漆原「よく似た子にルカというのがいまして……これが中々に厄介で……」

漆原「でも……あなたとは違います」

漆原「何もかも」

漆原「見た目じゃないんですね……」



足元の石を優しくなでる。


漆原「あの物体にしがみ付きましょうか…?」

漆原「そうすればどこまでだって行ける……」

漆原「そうすれば…………」


漆原「…………ルカ?」





遠くで声がする。


? 「家族は?」

子供「すごい遠くまで行っちゃったからもう覚えてない」

子供「この辺り一帯はみんなあれにやられたよ」

子供「そしてそのまま戻っていったよ」


ふと、その子が上を指差す。


子供「ほら、浮いてるじゃん」


気が付くとすっかり離れてしまっていた。漆原さんも何処にいるのか分からない。集団に戻る道も分からない。


あの子は助からなかった。


私が行くのと同時に潰された。

翼は、あの子まで届かなかった。

また別の子が空を指差している。その子が指さした先には私が助けるはずだった子が、潰れて物体にくっついたままになっている。

その子の言う通り、物体が良く見える。


助けるはずだった。

助かるはずだった。

でも私にはもう力は残っていない。




ルカ「…………!?」


目の前一杯に物体が広がり、それ以外のものは目に入らなくなる。

限界まで近づいている。


これに今から潰される。

贖罪。

助けなかったから、助からない。




? 「………ル……カ…」


遠くの方で声がする。

良く知っている声。

一緒にシチューをつついた人。集団の中でリーダーと班長と後それから他の誰かより、そんなものより何より一番近くにいた人。


家族じゃない。

私の家族は目の前に広がる遠くの世界へ行ってしまった。

私ももうすぐ近づける。

彼らの元へ。

何もしてやれなかったあの子と同じ場所へ。





漆原「ルカは渡さん!!」


嘘みたいだった。

それは私の父のアイデア。

性懲りもなく母に怒られながらも部屋に籠って何年もかけて完成させた物。

誰が使うとも知らないのに夢中で机に噛り付いて出来上がった物。

ただのおもちゃ。

ずっとそう思っていた。私は父の事を、夢ばかり追いかけてバカみたいに一生懸命でって、そう思っていたのに。




翼。

人の革新を求めて作られた願いの結晶。

父の愛が詰まっている。

根っこのところまで腐っちゃいない。

誰でも本当の答えを見つけるまでせめて信じていたいから。

そんなんだから周りが見えなくなるんだよ、でも…今こうやって助けられてるよ…お父さん。


翼を纏った人間。

私に与えられた可能性とは違う、新たな答え。

潰されるだけとは違う、もう一本の牙。

こんな事されちゃ信じてあげるしかないじゃん。

もう何も見えなくなったって知らないから。




漆原「大丈夫か…?」

ルカ「……遅いですよ……もう」


あんなこと言ってたのに。

翼なんかもういらないって。

あんなものにしがみ付いてちゃダメだって、呪文のようにずっと言ってたのに。

誰かに向けてずっと言ってたのに。

でも彼女は答えが見つかる前に宇宙へ行ってしまった。

もう帰れない。

戻ってこない。

結局、彼女の答えを知らないまま。雄弁なその答えを聞かないまま。

その誰かさんはもういないよ、私でごめん。



漆原「このままじゃまずい……お前の翼も修理しないと…集団の所まで戻るぞ」

漆原「少し飛ばすからちゃんと捕まってろよ」


ルカ「……はい」


女王「奪うんだよ!死にたいのか!?」


決死の形相のリーダー。鋭い声が響く。彼女の本気さは私の耳にも届いた。身体の上手に動かない私がいる。土砂降りの雨。みんな考えることなんて一緒なんだ。最初で最後の千載一遇のチャンス。リーダーの半身には血が掛かっている。返り血を浴びている。今まで生きていた人が動かなくなる。


女王「さっさと身に付けろ、待っている時間はないぞ!」

ルカ「クッ……」


重い。こんなに重くしてあっただろうか。これでは逃げるどころか飛ぶことにだって支障をきたす。


「死ぬ…………」


もう時間はないんだ。迷っている時間も何もかも。ここに居られる暇はない。宇宙へ行かなければならない。ここではもう暮らせない。


「助けて……」


重すぎる装置を背負って何とか飛び立つ。燃費も悪く、おまけに天候も最悪。大雨が降る中、さっきから霧も出始めた。辛うじて前を行くリーダーの翼が見えるくらい。寒さと体中に当たる雨で動かなくなる。いらない物はすべて置いてきた。


何の未練もない。もう私には何もない。手足の感覚も大分前からなくなっている。寒さを感じなくなる。私の体に対してこの装置は合わない。大きさの違いで十分に力を発揮できていない。正直、リーダー以外の他の人が何処にいるのかも分からない。誰が一緒に来ていたかも忘れてしまった。


「なんで……こんな事……」


心が折れそうになる。このままエンジンを切って落ちてしまいたい。そのままここで死んでいく。でも行かなきゃ。そこには家族も待ってる。絶対行ってみんなともう一度会うんだ。


「弱音を吐くな!あの雲を抜けるまでは生きるんだ」

「そうじゃないと死んでも死にきれないぞ!」


「本気で宇宙に出れると思っているんですか?」

「あり得ません。ここに残った方がよっぽどマシです」

「この環境がいつまでも続くとは思えない」

「宇宙というのは死んだ人間が行く場所なんです。そこへ我々が生きたまま行くとどうなるか分かりません」


「リーダーは宇宙へ行きたいだけでは?」

「もちろん自分の判断でいい。ただ、いつか必ず選ばなきゃいけなくなるぞ」

「それは分かってますよ」

「残ると判断したものの中から新しいリーダーを選んでくれ。私は自分の準備をしたい」

「私が代行を務めましょウ」

「漆原さんは残るんですか?」

「ああ」


意外だ。一番宇宙に行きたいと思っていてもおかしくはないのに。


「ルカはどうするんですか?」

「私も残ります。宇宙へは行きたくないです」

「好きにするがいい」


あんなことを話していたのが懐かしい。結局私は宇宙へ行きたかったんだ。この世界を飛び越えて全く違う場所へ。そんな変化が、刺激を強く欲していた。


「私は宇宙へ行きます」


言ってることが二転三転していて定まらない。でも今こう感じているのは確かなことだ。ただの気分屋なのだろうけど。


まだ感触は手には残っている。でもそれも時間と共に抜けていく。頭は自分が思い描いてたよりも冷静でここを捨てて羽を付ける。跳ねた泥水が口の中に入り込む。なぜか息切れをしている。振り返ると倒れ込む班員の姿が。体力の限界なのかもしれない。あんなに何度も振り下ろしていたから体が持たなかったのだろう。でも直ぐに起き上がる。


「絶対に上がる……!」


強さを秘めた良い目をしていた。易々とはまね出来ない表情。不屈の意思を感じた。私ものんびり息を整えているわけにもいかない。分からないことだらけでもひたすら進む。次第に眼下に今まで立っていた場所が広がる。


「振り向くな」


声は聞こえたがリーダーは特にこっちを振り返る様子はない。いつの間に気付かれたんだろうか。直ぐに前を向き直る。何とか羽を羽ばたかせて飛んでいく。ここから抜け出したい一心で。知ってしまったからもうここにはいられない。羽を無理やり動かしてよじ登っていく。名前とは裏腹にごつごつした羽は強く握り過ぎると食い込んで手の方が痛くなる。かといって力を緩めると下に落ちているあの人みたいになる。羽を上手に風に引っ掻けて体を押し上げる。


「痛っ!」


節々の痛みの限界が近づく。皮膚の間から血が滲む。体中が悲鳴を上げる。もう私の体では苦しいのかもしれない。だからこそこれが必要。もうこんなところになんていていられない。何人死んだと思っているのか。目や口にも泥水が入り込む。羽の表面を伝って流れ込む雨水は美味しくない。この表面に風をへばりつけて昇り続ける。上へ、上へ。ひたすら上る。宇宙との境までやって来る。持っていた力を使ってこじ開ける。


「落ちるな!何としてもここを抜けろ!」


体が焼ける様に熱い。ここまでくるとどうなっているんだ?同じ羽を持った人が次々と落とされていく。落ちた先は何もない場所。誰も待っていない場所。死んだ後でも宇宙にも行けない人。これを選んだ以上行くしかない。そこに何があるか分からなくても戻れないのだ。


「ダメですリーダー!これ以上は!」

「耐えるんだ!」

「リーダー!!」


落ちていく。

翼を持った者が宇宙まで届かずに落ちていく。真っ逆さま。誰も彼を救う暇はない。


「振り返るな!」

「みんなで、宇宙まで行こうな」

「私が行かなくても他の誰かが……」

「お前が行かなくてどうするんだ。他の誰がこの翼を使いこなせる?」

「この世界に希望を見せてくれ」


そんな彼女の願い。リーダーはつくづく私に甘いと思う。突き放されてもおかしくないのに。私に思う所も沢山あるはずなのに。


「私は先に行ってるからな」


まさかこんな日が来るとは思っていなかった。共有できるとは思わなかった。多くの人の上に私たちは立っている。そうして飛んでいる。身体を空にあずけて上がっていく。


「お父さん、私も連れて行ってよ!」


こんな感じの事を私も思っていた。いつも窓から見ていた。でも今日は違う。お前を開ける手段が無いからこうしてなんとか中に入れてもらう。それは全て自分が生き残りたいがため。他の何者でもない。


「絶対に行く!」


私は今どんな顔をしているのだろう。人に見せられる顔ではない。でも見られてもいい。それが今の私の本当の気持ち。嘘偽りのない思い。よく母に似ているとか言いながら走り回っていた。腕に力が入る。もうこんな寒い所にはいたくない。雨で全身が濡れている。でも周りの環境は熱くなっていく。霧が晴れても雨は止まない。


「気持ち悪い……」


こんな原始的な行為をしているのは私くらいだろうか。どれだけ必死に逃げようとしているのだろうか。宇宙へ向かうとか言えば聞こえはいいが、所詮ここを捨てて逃げているだけだ。色んなものを捨てて逃げてきた私たちには何が待っているのだろう。


ギギッ……。

少し羽の開く音がする。隙間から中に雨水が入り込んでくる。でもこれくらいで羽を閉じようとすると体が挟まって上手く飛べない。だからいつも以上に慎重に行かなければならない。


「まずい……」

「気にせず進め、飛べないわけじゃない」

「私はまだ大丈夫だから前を行く」

「ゆっくり飛ぶんだ」


そこへリーダーもやって来る。さっき体に付いていた返り血は雨で流されている。目はさっきから死んだままだ。私はもっと酷いだろう。もう一つのバールを渡すと勢いよく叩き始めた。辺りにさっきの様な鈍い音が鳴る。何度目かで今度ははっきり開いてしまう。


「落ちる!」

「背面飛びに変えろ!」


リーダーの声が響く。内部にこれ以上雨水が入り込まないよう背中を上に向ける。身体をひねって翼を下に置くことで幸いにも中の機能に異常は見られなかった。一命は取り留めた。もう少し判断が遅かったら危なかった。真っ逆さまで落ちていたかと思うと身震いがしてくる。


ここはリーダーの出番。目に怪我を負ったリーダーの代わりに私が記載されている文字を読み上げる。それに付いてリーダーが私に指示を出す。その内起動音と共に内部が明るくなり始める。活動再開するにあたって発生する熱をこうして放出している。本当は耐熱スーツを着るものなのだがそうでなくても操縦には問題はない。メインの操縦はリーダー。私がその間のつなぎとして操縦する。私の方が体力を使う部分を担当する。体力に自信がある訳でも有り余っているわけでもないが、やるしかない。


「ついに宇宙へ出る。この装置を付けろ」


見えてくる。此処とは違う場所。そこは物体が多くいる場所。私たちはこの物体から宇宙へ出ようとしている。そしてその先には他の物体が存在している。


「新しい場所で生きていくんだよ」


その先に新たな住処を求めている。そこで生きていければ幸いだが、恐らくそんな環境はない。だからこその宇宙。被害を察知して事前に行動。そして免れた後に再びあの物体の中に戻る。これが確立されれば私だって生きていける。生きる場所が生まれる。思った以上に体力を使うものだ。でもこれは必要なこと。


漆原「ついに来ました……届いたんですね」

女王「……」

漆原「やったんですよ!ついに!」

女王「……」

漆原「どうしたんですか……リーダー?」

女王「……漆原」



女王「私たちは最初から安全な場所にいたんだな」


漆原「リーダー?」

女王「私は知らなかったよ……ただ上だけを見て生きてそれで良いと思ってた」

女王「でもそれは知らなかったからで」

女王「外の世界は決して私たちが生きていける様には作られていなかったんだな」

漆原「……」

女王「これでもお前たちをこんなところまで導いてしまって……」




漆原「……?」

女王「もし雲の先まで行けたら……その時は」

女王「一緒に……」




女王「私なりのけじめだ……グチャグチャになるところをよく見ておけ!」

漆原「リーダー!!」



そのまま突撃したリーダーが戻ってくることはなかった。


私は生きてる。


胸に手を当てる。確かに鼓動を感じる。ここはもう私たちが暮らしていた世界ではない。それとはまた別の世界。眼下には青い世界が広がる。私たちもあのどこかで暮らしていたのだろうか。今の私とはまだ違った頃の私があそこにはいるんだ。

ドクンッ――。

始まる。

再び始まる。強烈な嫌な予感が私の体中を駆け巡る。そう時間は掛からなかった。

再びあの物体がぶつかって来た。

あの日と同じように。



その時に私の羽が溶けた。



外。


女王「…中へ入ろう…ここじゃあれが見える……潰れた人を見てあげるのも良くない」


ルカ「そうですね…」




テントの中。


ルカ「後何日かで死ぬんですかね…私?」


女王「一日に数十人くらいが潰れて、その内の何人かが宇宙へ行く」


女王「まあ、みんなそんなこと思ってるんだ…改めて口に出すな」


女王「明日は早いぞ、今日はもう寝ろ」


女王「寝ている間に潰された時はその時だ。痛みなく死ねたと喜べばいい」


ルカ「…………まあ、そうですよね」




女王「今日は南へ向かう。そこに補給地点が備えてある。みんなには申し訳ないが頑張ってくれ」




女王「良く寝れたか?」


ルカ「ええ、まあ。朝食よく食べましたね?」


女王「食べた物が消化しきれない内に潰されたら気分悪いからな、それまでは絶対生きる」


ルカ「結構……冷静なんですね」


ルカ「父親や母親の事、聞いてもいいですか?」


女王「いたよ…元気だったさ。まだどこかで生きてるといいけど」


女王「他の奴らの言ってることも聞いてみるといい、色んな事が聞けるさ」


ルカ(聞きたかった人はもうどこかへ行っちゃいました…)






ルカ「ザッザッ……」


漆原「…………」






数時間後、森。



親爺「食べてみろ…美味しいぞ、ハフハフ」


ルカ「じゅるり……ていうか誰なんですか、あなた?」


親爺「俺か?俺はその辺をフラフラしてるだけの奴さ。あんなインチキ臭い集団なんか付いて行けるか」


ルカ「グ~」


親爺「食べてみろって、旨いぞ~」


ルカ「…………」


親爺「なんだ?お前もあの集団の一味なのか?だったらこの肉はやらねえぞ?」


ルカ「いえ…違います。彷徨ってただけです」


親爺「そうかそうか、そりゃあかわいそうに。これをくれてやろう。ささ、こっち来い」


ルカ「ありがとうございます」


親爺「わしゃあ酒臭いけどよ、勘弁してくれよ」


ルカ「臭い人はキライです」


親爺「ガーン…」


親爺「フフ……一杯食べろよ。酒も飲ませてやる」


親爺「ここだって潰されなければ普通の世界と何も変わらない。健康に生きていれる」


親爺「それに潰された場所は土地が平らで耕作向きだ」


親爺「悪い事ばかりじゃない」


ルカ「…………そうなんだ」


親爺「まあそう思わないとやってられないだけかもな」




ルカ「ハフハフ……ガツガツ」


親爺「美味しいか?」


ルカ「バクバク」ウンウン。


親爺「そうか…」






ゴゴゴ……。


?「あの物体が来たぞ!」


親爺「…………ここもか…」


親爺「集団の方からやられてるの…」


ルカ「…………」


親爺「ワシはこんなだから…女の子で近づいてくるのは中々いなくての…」


親爺「だから嬉しかった…ありがとな」


親爺「お前は集団に戻れ。若い衆がお前を守ってくれる」


ルカ「………おじさんは?」


親爺「ワシもまた生きて朝を迎える。じゃからお前さんはさっさと戻れ」


バッ。


漆原「ルカ!!」


ルカ「…漆原さん!」


親爺「頼んだぞ…」


漆原「…………」


漆原「行くぞ」






数時間後。


ルカ「親爺さんが……いない」


ルカ「昨日までこの辺にいたはずなのに…」


漆原「…………」


女王「何してるんだ、ルカ?早く行くぞ」


漆原「ルカ……もう行く。みんな待ってる」


ルカ「漆原さん……」


漆原「あの人はこの辺では有名。みんなに酒を振る舞ってる」


漆原「この世界で見えなくなったってことはそう言う事。もういない」


ルカ「知ってんですね…」


漆原「雲の向こうからルカの事見てくれてる。だから」


ルカ「私が飛べていたら…大きくなれていたらってことなんですかね?」


漆原「……」


漆原「生きていたらもしかしたらってこともある」


漆原「だからまた会える日までルカは生きてなきゃいけない」


ルカ「漆原さん…」



女王「なあルカ……翼を使おう」


女王「雲の向こうまで行こう」

それはまだ宇宙についての存在が何も解明されていなかった時代。

世界地図が想像で描かれていた時代。

文明の利器と呼ばれる道具が殆どない時代。

この世界は大昔から空の殆どを雲が覆い尽くしていた。


父の声がする。

みんなが楽しく笑ってる。

みんなの声がする。

楽しい…。


ルカ「はっ………」

目が覚めても、何も変わっていない。誰かがかけてくれた毛布を蹴飛ばしていた。

汗でぐっしょり。


気持ちいい夢を見たはずなのに…。

母 「ルカ…ご飯よ」


台所から声がする。母はまだ元気だ。

私の好きなシチュー。

温かくてとても美味しい。だから私はいつもシチューを頼む。

私は汗で濡れたベッドをばれない様に、そっと台所へ向かった。



あれが…窓から見えていた。

ルカ「お母さん…カーテン閉めて」


カタカタ…。

テーブルの上のフォークが揺れる。

外の木や鳥たちがざわついている。

何かが…来る。


ドンッ…。

嫌な音がした。庭の方に…何かが落ちたんだ。

ルカ「お父さん…見てきてよ…」


かなり大きなものが落ちた。そう思った。

ルカ「手…つないでて……」


怖かった。

何が起こるか分からない。知らない。

だから、つらかった。


恐る恐るドアを開ける。

父の背中がどんどん小さくなる。

私は家の中にいて、父は落ちたそれを見に近づいてる。

母と私はくっついて、父を見ている。


窓の外のそれはなくなっている。


何かが…潰れている。

そしてすぐに父も見えなくなった。



空に浮かんでいる物体をXと定義します。それは昼間は中々出てきませんが夜になると姿を表し人々を襲います。人々はそれに次々と潰されていきます。Xに潰されまいと逃げ惑う人々。

はたしてルカ(主人公)はこの世界で生き残ることが出来るのでしょうか?

登場人物紹介


宮原瑠香子(女)

 156㎝.

ルカと呼ばれている。

元々の髪質が明るめの茶髪.

父と母と弟の四人で暮らしている。

17歳.


作中設定紹介

この世界を覆い尽くす雲。

空全体を覆い尽くしており、その向こう側を見た人はいない。



第三次性徴

体が大きくなっていく現象。

気持ちの度合いでその大きさが異なって来る。


物体

宇宙にいくつも存在する。

その内の一つがルカ達の場所にぶつかって来る。




その昔、世界の支配者は月だった……。


誰かが指差してそう言った。


人「おいおい……あれはどうやって浮いてるんだ?」

私「違うよ、あれは宇宙っていう場所にあるの。こっちからは浮かんで見えるけど」


大きさはおよそ数百m。

人「なんだそりゃ?行ったこともない場所のこと言われてもわかんねぇぞ」


重さは分からない。

とてつもなく重い。

人「浮いてるんだから落ちてくるんじゃねえのか?」


人々はその重さを実際に味わう。

私「まさか……」


それは空に浮かんでいて中々落ちてこない。

人「だってよ、誰もあれを支えてないんだったらどこかに落ちちまう……」

私「そんなことは……ないはず……」


昼の間は出てこないけど夜になると出てくる。

私「……」


なんともない顔で浮かんでいる。

人々を見下ろしている。

私は知らなかった。

こういうせかいがあるんだってことを。

こうして

私の異世界物語が始まる。


挿絵(By みてみん)


ルカ「不思議……」

夜、私は空を見上げている。

なんの変哲もない空。


ルカ「…………?」


何かが浮いている…。雲のすき間からちょっとだけ見えている。

大きい。

何メートルくらいあるんだろう…?

丸い。

光っている。

私の体を、足元を照らしている。


ルカ「なんで……浮いてるんだろう…?」

ルカ「何…してるんだろう…?」

どれくらいの高さがあるのか、どれくらいにあれが浮いているのか…分からない。


浮いている…?

あれは浮かぶほど軽いもの?


違う、あれは…ただの物体。

決して…軽くない。


(昔書いた分を一度に上げているため、辻褄が合わない部分もあるかと思いますが寛大な心で見逃していただけると嬉しいです。

変なトコロだらけだと思いますがおかしな人だとでも思ってスルーしてください。

星空文庫さんの方でも公開してます。

http://slib.net/68080)






支給兵女

雑用。


操縦兵男

巨大ロボのパイロット。


ルカ

ロボットの整備士。


所長

ルカ達がいる施設の所長。


職員

宇宙関係施設の職員。

親爺

森の主。

集団と距離を置いている。

ルカの父が開発した。

背中に装着して空を飛ぶ為の道具。雨。

ただ、雨。

全身に降り注ぐ。

ああ笑ってるよ。

ああああああああ…。


こいつに顔なんかない。恐らく何かを思い悩むことも無い。でもそう見える。そうにしか見えない。俺はこれから死ぬ。この世にある言い伝えの通りだ。こんなに近くに居る。こいつにぐちゃぐちゃにされた人間がどれほどいるか。くそったれ。


集団から離れてどれくらいたっただろうか。今は外。外で雨に打たれている。中々風呂にも入れないから今はこうして体を洗っている。雨で汚れを流すのも中々悪くない。倒れたままの恰好で全身に雨を受け止める。


今朝から降り続いたこの雨は今日一日中止むことを知らない。体を起こすのもだるい。今は雲が出ているから、空を見上げられる。そこには何もない。ただの雨雲。雲が出ている方が落ち着く。乾いた喉は雨粒で潤す。古傷にも雨は入り込んでくる。足を曲げると沿って雨粒が落ちていく。


? 「お前にあの時あんなことを言わなければ良かった」


言われたって思った。当時は気が動転してて落ち着いてなんかいられなかった。落ち着いているふりをして最低なことを言っていた。もう戻れない。戻りたくない。何が待っているかを私は知らない。そうやって生きていくしかない。一人だけの世界。


「どうしたんですか、大丈夫ですか?」

「あなたは……?」


倒れたままでその辺の遺体と区別が付かなくなってきていた。匂いも強烈で目にも泥が混じってきている。そんな人間にその人は話しかけてきた。


「私は柳崎静と言います。柳崎と呼んで下さい」


振り落とされた。

引きずられた体。


「生贄……?」

「そうだ。あの集団は人柱を探していた」

「その中で私は最年長だったこともあって選ばれたんだ。」

「元々体力もなく足手まといだった私にはむしろ都合が良かった」

「大変だったんですね。」

「やってくれませんか?」

「あの物体に捧げる大切な生贄……これであの物体が鎮まる……」

「そんな何の根拠もないことを平然と放り込まれても私には理解できません。私は自分の目で見た物しか信じられないので」


「まあ、あの集団からの生贄は俺で最後だろうけど」

「もういないんですか……そうですか。私も人柱やってみたかったです」

「あんた……いい根性してるね」

「そうですね☆」

「…………」

「……どうしたんですか、黙っちゃって。さっきの普通の何でもない話の続きをして下さい。私、年上と話したことなくて敬語も楽しいです!」


「案外めんどくさいんだな……」

「良く言われます。もはや褒め言葉です。もっと言って下さい」


集団はかなり先まで行ってしまっている。戻る可能性は見えないしもはや戻る意味もない。喋る度に髪が口に入り込む。もう何か月も切ってない。体を動かす。家にいた頃にやっていた狭い場所でも出来る運動を続ける。


目的がある訳でもない。でも動かしていないと気が済まない。家に戻るのだ。鉄格子で囲まれた柵。次の生贄は俺だった。


「その長い髪どうにかした方が良いと思いますよ。なんなら私が切りましょうか?」

「上手なのか?」

「やったことないです。でもあなたの髪は試し切りに丁度よさそうです!」

「じゃあやめる。そしてさっさと行くわ」

「それもいいかもしれませんね」


集団全体の決定は一人では覆すことは出来ない。全体の意思が集団の行く末を左右する。個人の感情に左右されてはならない。今まで散々見てきた。あの顔。忘れるわけない。死にたくなくて此処に来たのに、助けてもらった人に殺される。鍵を閉める瞬間、彼彼女の命は途絶える。直ぐに死ぬわけではない。ただ潰されるのを待つ時間があるのだ。鉄格子ごと潰されるため宇宙へ行くことはない。死んだ時のサンプルが取れるというわけだ。


「この鍵なら、私持ってますよ?今開けますね」

「…………」


でも俺は生贄をする必要はない。生贄は本来関係のない人間が行っても自分達には影響を与えない。そのため俺ではやる意味が無いため生贄をしなくていい。というか、生贄なんて真面目にする人間はいない。集団からはずれたい奴がそうなる。


「だから気にしなくて良いですよ☆」

「そ、そうですか……」

「早く行きましょう。私は中々忙しいですから」


不思議な人だ。言ってることは滅茶苦茶なのにこっちはむしろ安心できる。こういう人が集団のリーダーを務めたらそこは長持ちするだろう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ