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1話 :始まった (一日目 朝)

登場人物紹介


宮原瑠香子(女)

 156㎝.

ルカと呼ばれている。

元々の髪質が明るめの茶髪.

父と母と弟の四人で暮らしている。

17歳.


作中設定紹介

この世界を覆い尽くす雲。

空全体を覆い尽くしており、その向こう側を見た人はいない。



第三次性徴

体が大きくなっていく現象。

気持ちの度合いでその大きさが異なって来る。


物体

宇宙にいくつも存在する。

その内の一つがルカ達の場所にぶつかって来る。



晴れ渡る空にまた日が昇る。


さあ…人の潰れる時間の始まりだ。




父 「ルカ知ってるか?」

ルカ「?」

父 「この一面の雲はな、晴れる時があるんだぞ」


昔そんな話をされたのを思い出した。

そしてこの風景が広がっている。



ルカ「晴れる?……晴れるって何?」

父 「晴れるっていうのはあの雲が無くなることを言うんだ」


ルカ「え!あの曇って無くなったりしちゃうの?」

ルカ「それじゃあここはどうなっちゃうの?」

父 「どうにもならないさ。恐らく今よりも明るくなると思うよ」

父 「どうやって?」

父 「なんで明るくなるかはまだ分からないんだ」

父 「きっと雲の向こうにある何かが光を作っているんだと思うけど…」



ああそうだよ…その向こうにあるのが作ってるんだよ。

おかげで大地は明るいよ。




その無駄話は続く。


ルカ「行ってみたいけど……ダメ?」

父 「父さんが行けるようにしてやるぞ」

ルカ「やったー!」


そんな訳あるか。

何がやったーだ。

父も死んだわ。


熱い。

もう嫌だ。

あれが熱を作っているのか…明るい分だけここは熱い。


あの頃と同じように窓から見上げても何も変わらない。


私はそれ以来父の部屋には入っていない。

ここに座って何もしない日が増えた。


変えられないのだ。

私一人がどうこうしたって何も変えられない。四季が巡っても雲は消えてはくれない。何かの偶然で雲が晴れて全てが見渡せるようになってほしい。

冷めた気持ちで窓の外を見つめる。



ルカ「数十年……」


一体どういう計算をしてそんな結果が出たのか不思議だった。どういう理由なのかを父に見せてもらったけどその理由は分かりやすいものだった。



父「それだけの厚さがある」


一番薄い部分の測定でこの結果。

これから技術が発展していけば違う結果が出るかもしれないが、私はもうどうでもよかった。視界はぼやけてはっきりと物事を捉えようとしない自分がいた。


物事の分別が付かない頭で雲を見上げていた。





父が真面目な表情で語っていた。


今はまだ肩車されてるけどこれをどんどん積み上げて高くしていくんだ。

その内に雲も突き抜けてその向こう側まで行くんだ。

そんな夢物語を本気で実現できると信じていた。



バカな親だ。

何が向こう側まで行くだ。

くだらない。

そんなみじめなことを言ってるから最初に潰れるんでしょ?



人類で初めてあれに潰された人間。

とても名誉なことじゃん…今頃あの世で喜んでるよ…。



ルカ「ハハ…」


喉が渇く。

あまり笑わない方がいい。

何も考えまいとしてボーッとしていると昔のことが思い出される。





~回想~



ルカ「ルカはねお父さんみたいな人を積み上げて雲の向こう側を見に行くんだ」

父 「そうか、それは相当なバランス感覚が必要になるな」

ルカ「お父さんとお母さんだけで足りる?」

父 「二人だと少ないなあ。母さんもそんなにジャンプ力ないし」

ルカ「ルカも入れば三人だよ?」

父 「そしたら誰が見に行くんだい?」

ルカ「あっ……そうだよね」

父 「それよりルカは熱くないかい?」

ルカ「熱い……」


着こみ過ぎたせいで汗を掻いてしまった。

コートの下に来ていた服がじめじめしていて気持ち悪い。



「熱いよ……じめじめする」

「早く帰らないと跡が残って大変になるぞ?」

「それは大変だ。早く帰らなくちゃ」

「そうだな、早く帰ろうな」


こうなるともう雲の事も何もかも忘れて着替えの事しか頭にない。父の頭も乗り心地の良い椅子くらいにしか思っていない。



「ルカ…………ルカ?」

「zzz」

「寝たのか?」

「疲れたんだし……しょうがないか」



「…………疲れてないもん」

「涎を垂らすなよ……眠たいんなら寝とけ」

「うーん……。私が……向こうまで行く」


父に肩車されて手を伸ばす。

寝ぼけたまま伸ばした手は空を切る。掴めるはずなんかないのになった気分になる。



「?」

「ルカは可愛いな」

「!」


満足げな顔を父に見られて恥ずかしくなる。慌てて涎を拭く。でももう殆どが父の頭の上に足れていて意味はなかった。



ルカ「お父さんキライ」

父「涎を垂らしながら言うな」

ルカ「zzz、うーん……。反省していませんね…」


私は手をグーにして父の頭をぽかぽか叩く。

当時の私は一生懸命やっても寝ぼけたままで疲れていたので痛くもかゆくもない。



「痛いよルカ」

「嘘つくんじゃありません」


さらに父の髪を両手一杯握って引っ張る。最初は父も笑っていたがその内同じところばかり引っ張り過ぎてごそっと抜けてしまった。

手にはまだ新しい父の髪の毛。

手を広げると風になびいて消えていく。



「…………」

「ごめんね、お父さん」

「今日晩ゴハン抜き」

「えー!嫌だよ。ごめんなさい」

「もうやらないでおくれ。髪の毛が無くなってしまう」

「そう?じゃあ頭皮のケアもしっかりしましょう」


私は頭を項垂れて反省する。父の頭をナデナデする。優しい刺激が髪の毛にも良いと思ったからだ。



「そうだな、それくらいにしておいてくれ」

「うん」


父の頭皮をじっと見つめる。父から許されることを期待して髪の毛を引っ張る準備をしておく。



「ルカはもう連れてってあげない」

「えーそんな。また生えてくるよ」


そう言って私は父の頭をポンポン叩く。

髪の毛が抜けるのが父はそんなに嫌なのか。もう結構抜けていて今更気にしてもしょうがないような気はした。また引っ張ると怒られそうな気がするのでこの辺で止めておく。

笑顔の私とため息交じりの父。

何の悪意もない。



「中々生えてこないんだよ……分かってくれよルカ」

「色々な薬にも手を出してみたんだが、結局良いのは見当たらなかった」

「今ではそっとしておくのが一番だと思ってる」

「……ごめんなさい」

「でも今こうしてルカに遊んでもらって嬉しいよ」


深刻そうにため息をつくので悪いことをしたと思った。ションボリして父の頭に両手を付く。私の手を目一杯広げても父の頭の方が広い。



「うわ」

「どうした?」

「……何でもない」


自分の手がまだ小さいことを今知った。こんなことも出来ないちっぽけな人間。それが今の私。これくらいの頭を覆い尽くすことも出来ない。何だかびっくりして、そして急に悲しくなった。



「うっ……うっ」

「……泣いてるのか?」

「泣いてない」

「そうか、泣いてないか。じゃあそう言う事にする」

「うん。泣いてないの」


どうでも良いことで泣いてると思う。でもこういうのが今の私のちっぽけなプライドでもいい。出来なくても私には夢がある。


あの向こうへ跳んでいく。

それをするには毎日こうして雲を見上げる。そうするとちょっとした違いでも目に入って来る。そういう所から自分の嗅覚を育てていく。



「本当にいくんだもん」

「ルカに出来るかな?」

「できるもん……たぶん」


「ルカが大きくなってもそう言う事言ってたら、お父さんも応援するぞ」

「本当?」

「ルカに嘘はつかないよ」

「帰ったらお母さんにも言ってみるね」

「んーとね、美味しいものをいっぱい作って欲しい」

「それは分からないな。夢はあっていいけど」

「家族が増やしてほしい」

「これは頑張らないとな」

「私がもっと大きくなる」

「それは母さんに頼んでご飯を増やしてもらわないとな」

「お父さんもお願いしてね」


いつかは本当に私にも出来ると思った。

不安たっぷりの顔をしている私。私は見落としている。やらなければならないことをまだ見ていない。でも今はこれが必要。そこまでする必要はない。だから本当に掴んでその先に行けるんだと思っていた。その日見た雲は一面に広がって今まで何も変わることはなかった。



~回想終わり~






バカ「ウオオオオオオオオオオオ~~~~」

バカ「オホオホ~~~~~オホホ」



遠くでバカが喚いている。

頭が湧いてしまったようだ。

もうどうしようもない。

助かりようもない。


早く死んだ方がいい。




十年という時間は何もしなければあっという間に経つ。


そうだ…父の肩に乗せてもらって空を見上げた時から…10年。


私は下らないことに時間を使っていたようだ。




人間はみーんなみんなあれに潰される。


潰されるんだ。



今は浮かんでいるけどその内落ちてくる。



また浮かんだんだ。

昨日父を潰したところからまた浮かんでいる。



あれは浮かぶことが出来る。


私は知らない。

あんなものが浮かんでいいなんて。


でも私の目の前には確かにある。


確かに浮かんでいる。


だから死ぬ。

みんな死ぬ。




~回想2 ルカ4歳~



ルカ「私ね、将来はアイドルになるの!」

ルカ「それでねこの世界中で歌を歌ってみんなを喜ばせるの!」

母 「そう、きっとルカなら出来るわ。頑張ってね」

ルカ「そしたらね、お母さんも聞きに来てね!」

母 「あら、何処にいても聞けるんでしょ?」

ルカ「うん。世界中に届くくらい私も大きくなるの!」

ルカ「そうすればお母さんが何処にいても私の歌が聞けるでしょ?」

母 「その時はお友達も沢山呼ばないとね」

ルカ「うん。私ね友達たくさん作っておく!」

ルカ「私ならいっぱいいっぱい作れるの!」


その子は歌やダンスがとても得意で将来はアイドルになりたいという。



ルカ「私、もっともっと高いところまで行ってみたい!見てみたい!」

母 「ルカはそんなに行きたいの?」

ルカ「うん!雲の向こうへ行ってみたい!」


私はことあるごとに母の元へ駆け寄り逐一起こったことを報告していた。

母は私のワガママに似た気持ちをちゃんと受け止めてくれる。



父 「そうか、その気持ちがあるならきっと行けるな。ルカは強い子だからな」

ルカ「うん!ルカは強い子!」


父と手を繋いでそんな事を話していた。


宇宙。

それは雲の向こうに広がる不思議な世界。

そんな場所に行きたいとは誰だって思う。それに雲の向こうがどうなっているのかに興味を持つのはごく自然なことで他のみんなもそうやって来たと思う。



ルカ「宇宙…………」

母 「!……ルカ、何処でそんな言葉覚えたの?」

ルカ「どうしたのお母さん、そんな怖い顔して」

母 「早く答えて、ルカ」

ルカ「なんだか怖いよ……ごめんなさい」


いつになく真剣な母が私の肩をいつもより強く掴む。



母 「ごめんねルカ、別に起こっている訳じゃないのよ。ただ気になっただけ」

ルカ「えーとね、学校のみんなが言ってたの。雲の向こうは宇宙って言う場所なんだって」

ルカ「だから私はそんなことないって言ったんだけど、見たことあるのかって言われて……」

母 「ルカ……」

ルカ「だからごめんなさい」

母 「いいのよルカ。そうね……隠していても仕方ないわね。ルカにも教えるわ」

ルカ「いいの?」

母 「ええ、変な勘違いをされても困るし……ルカが知りたいって言うんだから」


そう言い、一言おいてから母は話し始める。



母 「宇宙って言うのは雲の向こうの世界の事よ」

ルカ「じゃあみんなが言ってたことは本当なんだ!」

母 「そうね。ただ宇宙という場所には誰も行ったことはないの」

ルカ「どうして?」

母 「みんななんとなく感じているの……雲の向こうは行ってはいけないって」


私の知らない、母の表情。



ルカ「お母さんも?」

母 「そう、お父さんもそう思っているわ」

母 「だから詳しいことは分からない」

母 「私たちの住んでいるこの世界とも全く違っていて、見に行ってはいけないの」

ルカ「おんなじこと言ってるよ?」

母 「ごめんなさいルカ……お母さんも本当の事は分からないの」

ルカ「じゃあ私が行ってみるね!」

母 「でもね、これはお母さんの勝手な思い込みなんだけど……」

母 「昔の人で見たことがある人はいると思うの」

母 「でもね……そのことを周りの人に伝えようとする人もいないわ」

ルカ「誰も?」

母 「そうね……もしかしたらそもそも誰もいないのかもね」

ルカ「?」


でも、それだけはダメだと周りの大人から怒られる。

でも私には何で怒られるのかよくわからない。



ルカ「なんでお母さんはあんなに怒るんだろう?」

ルカ「私はそんなに変なことを言っているのかな……」






本当に全て知らなかった。


父や母が言っていることにも耳を貸さなかった。



毎日当たり前に食べていけると思っていた。

だからあれはその延長線上の話。

現実味のない話。

そう仮定しての話。


だから面白かったのに。






まだ一日目。私はまだ確かに生きてます。





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