サバンナに留学という名の島流しにされていたはずの従妹が帰ってきたらしい。
「今月入ってからははじめての来院だな」
意識を取り戻し真っ先に見たのは見知らぬ部屋の天井というお決まりの展開ではなく、ケガするたびに毎回お世話になってる病院のもはや僕担当といってもいいくらいお馴染みの美人女医の化粧で厚塗りされた真っ白な顔であった。……なんでこの人、僕が寝てると毎回僕の顔を覗き込んているんだろうか。僕のこと好きなんだろうか。
なんて自惚れはさておきまして。
「また世話になってしまいましたね」
「それがこちらのお仕事だからな」
気が付けば顔なじみの病院のベッドに寝かされていた。
体に痛みはなく、肋骨が飛び出ていた自分の胸を触ってももはやその跡はない。
本当に腕のいい頼れるお医者様である。
「しかし今回もまた酷いケガだったが、毎回よく死なないなぁ」
前言撤回。なんて言い草だ。
「一回解剖して調べてみてもいいか?」
「そんな痛そうなことは絶対御免です」
「は? 何でだよ」
何でだよじゃねえよ。
血なまぐさい所では定番のセリフの「こんなところにいられるか」という言葉を飲み込んで「どうもお世話になりました。お会計はまた今度でお願いします」という絶対の拒否で応対する。
「おかげさまで後遺症も一切なくケガも完治してますし」
「医者の腕がいいからな」
「まったくですね」
「……君、今のは笑うとこだろ」
えっ、腕がいいってボケなの? 笑えないんだけど。
若干の不安を覚えて地震の体をまさぐってみるが特におかしなところはない。
「まあ、何かあっても君なら大丈夫だろ」
大丈夫じゃねえよ。
「それはそうと、君の彼女が迎えに来てるから早く出迎えてとっとと帰りな」
「ああ、それなら、……はい、そうします」
すぐにでもそうしなければ。
まさか鵺子さんが僕のお迎えに来るなんて……!
暑い日と寒い日は外に出るのを嫌がる鵺子さんがわざわざ!
そんな鵺子さんの僕への愛を感じて浮かれる僕の頭に染み入るような低い声で医者が言った言葉で僕は現実に引き戻された。
「あと君の従妹が早く君と改めて話がしたいってさ」
「はぁ」
「ついでに言うと君の従妹は今うちの集中治療室にいる」
「さよなら!」
うちの従妹が鵺子さんと戦ってどうなったのか、いったい何を僕と話したいのか知らないけど話す気はないのでさっさと退散するに限る。
何せ僕は話したくないからね!
また肋骨とかへし折られたくないからね!
「君の彼女はうちの裏口で待ってる」
「どうもありがとうございました!」
寝かせていた体を起こし、頭を一つ下げる。
かけられていた毛布をはじいて確認した僕の首から下は、気を失う前に着ていた服とは違う服を着ていた。いつでもこのまま帰れる格好をしている。たぶん軍人さんが気を利かせて服も一緒に救急車に乗せてくれたのだろう。
服をしっかり着込んだまま寝ていたためか少し汗でべとべとする。
「ほら、帰るのはいいが寝癖ぐらい直しな」
下げた頭を掴まれ髪をわしゃわしゃと撫でくり回された。
突然の行為に今僕汗臭くないだろうかと不覚にもドキドキしてしまう。
「ほら、顔は悪くないんだからあとは清潔感をしっかりな」
それだけで女の子からの印象は良くなるぞ、とありがたいお言葉を頭の上からいただいた。
それから距離が近くなったせいか医者から何か甘い、薬品の匂いがする。
「ありがとうございまう」
舌噛んだ。
……顔が熱くなるのを感じた。
この小説を投稿してる頃、私は独り身のさびしい男性を集めて闇鍋パーティーをしている頃だと思います。
もしもこの小説を読んでいる方で闇鍋をしている方がいたら持ち込まれた食材を観察してみてください。マーマイトとサルミアッキを持ち込んでるやつがいたらそれはたぶん私です。ぜひほっといてあげてください。