サバンナに留学という名の島流しにされていたはずの従妹が帰ってきたらしい。
「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!」
僕が僕の貞操を守るのを諦めた時、
その咆哮は大気を揺らし、その欲望を行動に移そうとしていた従妹の動きを抑制する。
まさかこのタイミングでどうしてと考え一つ心当たりがあった。
軍人さんが眠っていた鵺子さんを起こしたのだ。
「まさかアナタ、まだあの化け物を……!」
「人の彼女を化け物扱いするなよ」
今までの来歴やら前科を考えるとお前こそ化け物そのものくせに。
「鵺子さんは僕の大切な人だ」
「私がいるではないですか」
「いいや、君じゃダメだ」
「どうして……」
鵺子さんが起きたことで一気に強気になった僕は調子に乗った。
そしてつい口を滑らせてしまった。
「僕は壁みたいなまっ平らな胸をおっぱいとは認めない!」
「ドラァ!!」
僕は殴られた。左側の肋骨が四本くらい折れた気がする。やべえ。
「私はこれが一番美しいスタイルなんです!」
折れた肋骨が肺に刺さったのか、息苦しくて仕方ない上に自分の意志とは関係なく体がビクンビクンと激しい痙攣起こしている僕に言われても困る。
全身改造サイボーグと化している僕の従妹はその常軌を逸している全身整形を僕のためにやったというけど、僕に言われてそんな泣くくらいならやらなきゃよかったじゃねえかと思う。思ってても言えないけどさ。
「ああ、もう! この話は後です!」
半ばやけくそ気味に声を荒げて従妹は家に上がった。
まともに呼吸が出来ずのたうち回ってる僕を尻目に彼女は言った。
「あの化け物を始末したら次はアナタです」
あれ? 僕、殺されんの?
そんな気になる言葉を残して彼女の姿は消えた。
そしてその直後、
「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!」
「死ねえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!」
二つの咆哮が聞こえた。
あ、これマジでヤバいやつだ。
早く逃げなきゃ―――
「大丈夫か」
もんどりうって這って逃げようとしている僕に、いつの間にか現れた軍人さんが声をかけてくる。
「大丈夫ではなさそうだな」
返事が出来ない僕を見ていつもと変わらぬ態度でまったく慌てず感想を述べてくれる軍人さん。
折れた肋骨が飛び出したりしてるしちょっとくらい動じてくれてもいいんじゃないかと思うんだけど、幽霊からしたらこんなもん屁でもないのかもしれない。
「運ぶぞ」
どこへとは告げず、軍人さんは特技のポルターガイストで僕の体を浮かして家の敷地から外に出した。
そして軍人さんは僕のスマホをまた勝手に操作して電話をかける。
「もしもし、救急車一台」
本当に便利なポルターガイストである。
「じゃ、後は頼みます」
「うむ」
こんな時ばかりはいつも大して役に立たない軍人さんが頼もしい。
もう後は任せて、僕は休もう。
そして、
しばらく待って僕は救急車で病院へと運ばれ治療を受けることになる。
僕は折れた肋骨で肺がやられたのとだらだらと流れ続ける失血のせいか救急車を待ってる間に意識を失ってしまった。気を失う前に家の屋根が思いっきり高く飛び立ったのを見た気がするけど、まあなんとかなるだろう。決して二年過ごして愛着のわいていた我が家が壊れていく姿を見たショックで気を失ったわけではない。