サバンナに留学という名の島流しにされていたはずの従妹が帰ってきたらしい。
「じゃ、向こうさんのことでまたなんかあったらまた来るわ」
「はい。よろしくー」
着ぐるみさんの要件は自称ハニーさんのことでの忠告だけでその件のことを僕に伝えただけで本当に帰ってしまった。
着ぐるみさんのこうゆうドライなとこ個人的には好きである。
「さて、そんじゃあ俺も帰ろうかね」
「ああ、そういやウワバミさんまだ居ましたね」
「はっはー、酷くない?」
「いいえ、別に」
ウワバミさんには着ぐるみさんのドライさを少しは見習ってほしい。
着ぐるみさんの後を追うようにウワバミさんはふよふよと宙へ浮き、しばらく中空を漂っていたかと思うといきなり消えた。
まさに煙のように、今回もじーっとウワバミさんの帰宅を観察していたのだがほんの一瞬の瞬きのうちにウワバミさんはその姿を消したのだ。今度は片目ずつ瞑るのを繰り返して観察してみることを心のメモに記した。
「帰ったか」
「おや軍人さん、今までどちらに?」
着ぐるみさんとウワバミさんが帰った途端に軍人さんが現れた。
軍人さんは僕の質問に答えずコタツの中へと侵入してきた。
いつものことである。
「お茶、いります?」
「うむ」
ポットからお湯を急須に注ぎお茶を煎れる。さっきまで談笑しながら煎れてた出がらしで申し訳ないけど新しくお茶っ葉を煎れるのも面倒だし勿体ないので勘弁してほしい。
「金粉がのってないぞ」
「おじいちゃんそんなお茶飲んだことないでしょ」
こんなやり取りもいつものことである。
軍人さんはいつも無口で仏頂面で不愛想なくせに何でか無駄に偉そうでそのくせ何の役にも立たないくせにたまにこんなお茶目なジョークをかます時があるのだ。
「……」
「……」
そしてそんなジョークをかましてそこで終わることも多々ある。
会話が続くことの方が珍しい。
でも、そんな沈黙が気まずいわけではなく、この人との間にはいっそ心地いいというか好ましい時間でもあるのだ。
今日もただゆっくり二人でお茶すすってゆっくりしてるだけかと思っていたら珍しいことに軍人さんの方から口を開いてきた。
「あの鼠が言っていたが」
「ん? 着ぐるみさんが?」
「またあの女が来たのか」
「……大学の方に、ね」
どこに行っていたのかと思いきや、あの話を聞いていたというのなら近くにいたのだろう。案外ずっと床下で話が終わるまで待っていたのかもしれない。
軍人さんなら大丈夫だとは思うが、風邪予防に冷えた体にビタミンを補給させるために軍人さんにみかんを供えてあげた。
「すまんの」
「いいえ」
供えてからみかんじゃ逆に体が冷えてしまうかな、なんて思った。
「何かあったらワシに言え」
「言ってもしょうがないでしょうに」
心配してくれるのは嬉しいけども。
「幽霊じゃ生きてる人間の相手なんて出来ないでしょうに」
「うむ」
本当に解ってるのかね。
軍人さんはいつもこうだ。
言葉が短く、何を考えているのかいまいち解らない。
もしかしたら死んで肉体がなくなったことで考える脳ミソがなくなってしまったためにこうも無口になってしまったのかとも思ったこともあるが、先の話を盗み聞きして覚えているあたり脳ミソの代わりに何かしらの力を以て思考し記録しているらしいことから単にそういう性格なのだと結論付けた。
しかしそうと割り切っても気になってしまうの人間というものである。
「もし僕が彼女に何かされたら軍人さんはどうしますか」
「祟り殺してやる」
「そりゃまた過激なことで」
期待していた答えとは違ったけれども軍人さんらしい答えではある。
「まあ、聞いてたならいいんですけど、そういうわけで僕は今日から引き篭もりますので」
「うむ」
軍人さんはいつもと変わらぬ鷹揚な態度で頷くだけだ。
本当に軍人さんに人を祟り殺すことが出来たとしても、厄介事は避けるにこしたことはない。
彼女が島流しに合う以前に住んでいた場所からはかなり離れた場所に住んではいるがいちおうしばらくは不用意に出かけて彼女とエンカウントするという事態は避けた方がいいだろう。
大学では最低限の同じ講義で顔を合わせるのは致し方ないが、脳ミソのネジが全部外れて木工用ボンドでべちゃべちゃにくっつけられたような思考回路している彼女の唯一の美徳として勉学には真面目な彼女は講義中にはどんなことがあっても黒板から目を離さないし友人と無駄話だってしない。
だから講義を受けたら終了と一緒に即ダッシュで彼女を撒ければ問題ないはず。
そしてその後は彼女のストーキングに注意しながら帰る習慣さえ取り戻せば完璧だ。
そのためにも彼女の出ている講義を把握することに集中するための準備期間として今から僕は引き篭もるんだ。
だから後はよろしく着ぐるみさん!
「せっかく引き篭もるんですから今まで買うだけ買って放置してたノベルスでも読んでましょうかね」
読もう読もうと思っていたのだが買っただけで満足してしまい本棚に並べられてただけで一度も開いてなかったノベルスのシリーズが一巻から読んでないのにもう十一巻も並んでいる。
インターネットサイトで投稿されたのが人気が出て書籍化されたものらしい。その内容はMMOゲームのキャラクターになってしまって異世界に飛ばされて世界征服するというどうしてそんな面白い展開になってしまったのかをこの作者に小一時間問い詰めたくなるくらい心躍るファンタジーである。
けっこう前にアニメ化されたのを観て思わず原作の書籍をまとめて買ったまではよかったのだが並べてみた時の迫力に思わず気圧されて手付かずになってしたのだ。
さて僕はそれでいいとして、
「日課のあのバケモンの散歩はどうする」
「んー、最近寒くなって来たせいか外に出るのを嫌がってるような気もしてますし、今日もまだ暖かい布団でお眠みたいですから散歩はパスにします。もしかしたら鵺子さんこのまま冬眠するのかもしれませんし」
雪こそ降らないものの最近寒くなって来たせいか外に出るのが辛いのかもしれない。鵺子さんは温度の変化に弱いのだ。
あとは突発的に外に出たがらないことを祈るしかないが、最近は本当に外に出ようとは言わないを超えて布団からも出ようとしないからきっと要らぬ心配だろう。
とりあえず予定は未定だったのが引き篭もりになったので柔軟な対応をもってあたることにしよう。
「あ、軍人さん、鵺子さんのことバケモンって呼ぶのやめてくださいよ」
思い出したように付け加える。
もう鵺子さんがそういう目で見られるのにも慣れてしまったので注意するのが遅れてしまった。反省。
「うむ」
軍人さんがいつもの態度のまま頷く。
本当に気を付けてほしいんだけど。
鵺子さんも化け物扱いされると少しは凹んでるみたいだしさぁ。