サバンナに留学という名の島流しにされていたはずの従妹が帰ってきたらしい。
「おはよう軍人さん」
「うむ」
今日はいつもより少し遅く起きた。
それでも変わらず、いつもより少し遅い時間からではあったが朝食の準備を始めようと台所へ足を踏み入れると今日も変わらず、一張羅の旧日本帝国軍の軍服に身を包んだ堀の深い顔立ちをした男性の幽霊、軍人さんが冷蔵庫の前に仁王立ちしていた。
彼はいつも僕より早くから台所にいて僕が朝食を準備するのを黙って観察するのを日課している。
以前いったい何が楽しくてそんなことをしているのか手伝ってはくれないのかを尋ねたことがあるが「うむ」の一言で終わってしまったため、僕もそれ以上は訊かないことにした。たぶん本人も僕に返せる答えを持ち合わせていないのだろう。
「今日のメニューは目玉焼きとコンビニで買ったサラダとトーストです。質素倹約に努めたメニューですね」
というか冷蔵庫の中はこれでもう空っぽなのでこれ以上はない。
「日本人なら米を食え」
何もしないくせに文句言うんじゃねえ。
「さて今日のご予定は何かありますかね」
「うむ」
朝食を食べ終え、コーヒーで一息つきながら軍人さんに新聞を広げて寄こしてやった。軍人さんは新聞に乗りかかるように身を乗り出しながら目を皿のようにして新聞の隅から隅まで目を通していく。
たぶんこちらの話等聞いてはいないだろう。
まあ、それはいつものことか。
なんて失礼なことを考えながらコーヒーの苦さに喉を震わせていると、
「そういえば」と新聞を読んでた軍人さんが急に顔を上げて僕の顔を向けて「鬼が今日の午前中に来ると言っておったな」と言った。
ふむ、別に来るのは別にいいとして。
「今日の午前中とはまたアバウトな」
今日日、宅急便ですら時間指定できるし物が届く前には連絡してくるというのに。
まあ、来ると予告しているだけましな方か。
とはいえ、
「ウワバミさんが来るなら玄関と客間の掃除くらいはしときましょうかね」
「うむ」
食器を持って立ち上がると軍人さんも返事と一緒に立ち上がった。
しかし軍人さんは僕が掃除してる間に姿を消していたのだった。