サバンナに留学という名の島流しにされていたはずの従妹が帰ってきたらしい。
「……まぁ、いいですけどぉ」
ふと僕を抑える力が抜けていくのを感じた。
這うように従妹から離れる僕を従妹は止めようとしなかった。
「最後に結ばれるのは私でしょうから」
何を根拠にどこから沸く自信なのか、彼女はそう言った。
鵺子さんに向かって歩き出していた僕にはそう言う彼女がどんな顔をしていたのか見えなかった。
「私は旦那様の浮気も一回は見逃す寛容な女なんでぇす」
「そりゃまた出来た女だことで」
でも知ってんぞ。
お前は勝手に僕を旦那と決めつけ僕のアモーレこと鵺子さんを亡き者にするために何人かの人を使い保健所に問い合わせさせて捕獲・処分できないかを相談していた油断できない女であることを。
「今日のとこはぁ、さすがに限界なので引き下がりまぁす」
「うん、それがいい」
鵺子さんと睨み合ってはいたものの、やはり先に手痛くやられ限界が近かったのだろう。従妹はあっさりと僕らに背を向けて病院へと戻っていった。
「GUUUuuuu……」
鵺子さんは去っていく従妹の背中を見つめながら何やらさびしそうな唸り声を漏らしていた。
従妹は殺すつもりで鵺子さんとやり合ったつもりだったのだろうけど、鵺子さんからしたらあれは遊んでもらっていたつもりだったのかもしれない。遊び相手がいなくなってさびしいなんて実に鵺子さんらしいではないか。
しかしそれはそれとして、
何を隠そう、鵺子さんは地上最強の生物である。
たとえ相手が殺すつもり向かってきたとしても鵺子さんにとっては子犬がじゃれついてきたのと変わらないし、日々娯楽に飢えている鵺子さんにはいい暇つぶしという認識しかない。
逆に言うと、そのつもりなどなくとも、鵺子さんは遊んでいるつもりでも相手を殺してしまうことはある。
巨大な象と矮小で脆弱なネズミの喧嘩かじゃれ合いか、どちらの例えでもネズミの方はロクな結果にならないのは目に見えている。
「今回もよく殺さずにできましたね」
「GA!」
心にもないお世辞を鵺子さんにあげたら鵺子さんが僕の顔に頭を押し付けてきた。
褒めるなら頭を撫でろと言われたような気がして鵺子さんの頭を撫でてやると鵺子さんは気持ちよさそうに身を捩った。
ああ、本当に―――
「鵺子さん、鵺子さん」
頭を撫でていた手を顎に回して続けていると猫でも撫でてる気分になってくる。
僕が名前を呼んだことに反応して鵺子さんが赤い複眼をキラキラと光らせながらまっすぐに僕を見る。
「―――鵺子さんは可愛いね」
「GA!」
表情こそ変わりはしないが、嬉しそうであったと思う。
僕の想いを彼女は理解しているかは分からないけども、
彼女が僕の想いを理解しているのかしてないのかはどうでもいいくらいには、
「アイラブユー」
僕は鵺子さんを愛しているのだ。
それはきっとどうしようもないくらいに。
ここまでで書き溜めた分が終わりましたのでまた暇な時に続きの話書こうと思います。
次の話はこの話における世界観について触れられたらと思っています。