出逢い、或いは朱色の少女
光に包まれてからどれくらいの時が過ぎたのだろうか。もしかしたら永劫だったのかも、もしかしたら一瞬だったのかもしれない。
頬を風が凪いだ。
眩んだ眼も日光に慣れ、徐々に広がっていく視界に飛び込んできたのは新しく出来たどこかの小洒落た大学かと見紛う学園のような場所だった。
むこうの方まで日に照らされてギラギラと輝くビルのような建物が何本も連なっていて、困惑さらにその先には周りを柵で囲まれたバカでかい飛行機の滑走路のような空間が滔々と広がっていた。
アスファルトのような黒々とした敷地の中にはところどころ真白な直線が引かれていてその線の枠には訳の分からない記号の羅列とともに中世ヨーロッパの怪しい文献に載っていそうな魔法陣が書きなぐられていて、余りにも広いその敷地のえも言われぬ白と黒と空の蒼が織り成す不思議な美しさに圧倒された夜空は、惚けたように立ち竦んでしまっていた。
正確にいえば白と黒と蒼だけでなく_____。
白と、
黒と、
蒼と、
赤の_____美しさだった。
ボリュームで言えば周りの色と比べても比べるほどもないくらいに少ないその赤色に、目を奪われる。
最初米粒ほどの小ささでそれが制服姿の女の子の髪だと気づかなかった程に遠くに佇んでいた女の子の後ろ髪はその滑走路然とした世界においても毅然とした存在感を放っていて、視界の先に移る煌々と輝く赤色が少女の持つ髪の色だと気づいてからも、少女のどこか憂いを含んだ立ち姿は見る者の眼を止めさせる。
1km先からでも分かる。
朱色の美人がそこに立っていた。
そして夜空は、その少女の厳然として、決然として、断固として、一点一画もゆるがせにせず、超然として、端然として、茫然自若で揺るぎなく立っている様に呆けていた。
馬鹿みたいに惚けていた。
だから、いつの間にかどこからかやってきた、ドラム缶に車輪を生やしてそこらへんを走行させているかのような、その後すぐに学園内不審者不審物見廻り型警報機だと判明する白色の魔装器体が
「シンニュウシャ、ハッケン。シンニュウシャ、ハッケン」
と、ピーガピーガー鳴いている事に気がつかなかった。
「……なんだよっ……これっ……!!」
その白色の物体のハッチから覗いたノズルが、ういーん、と伸びて夜空の視界を遮って初めて夜空はぽかぽかに火照った脳味噌にいきなり冷水をぶっかけられたように現実世界というのもおかしい現実に引き戻される。
ヤバイ。
本能的に危険を察知し、咄嗟にしゃがんでノズルが向いている範囲を交わす夜空。
キュゴッ!という音とともにノズルから鮮やかな青色のビームが照射され、光線はついさっきまで俺が立っていた空間を空気をつんざいて貫き、ドカン、という大きな音をたてた。
音のする方へ振り返ると、振り返った先の木々が無残にもへし折られていて、その事実に夜空の心は恐怖へと縛られ、う、あ……ともつかない叫び声をあげて、その場から転ぶように逃げ出す。
しかし、
「貴方は何者ですか! 止まりなさい!」
逃げ出そうとした先には金髪で長髪の大人の女性が狼狽してこちらを見据えていた。
誰か……! 誰でもいいから俺を……助けてくれ!!
よろめく身体のよろめくままに体を一回転させた夜空は自然に右手を突き出し、左手を右手を支えるように突き出すようなポーズになり、白色の物体の方へ向き、自然に掌の先に力が込められる。
________力を込めたその先には、俺の掌からは銀色の閃光が轟き、まるで雷でも落ちたかのような爆音を周り一帯に散らし、瞬きする間もないほどの刹那の内に、白色の物体を消し飛ばす。
「_______見廻り魔装器がこんなに簡単に消し飛んだなんて……!! ___しかもこんな魔法____!! 火、水、雷、風、土、いずれの魔法反応でも……!!!」
急に脱力感を伴った身体とともに夜空の意識は眠気にも似た倦怠感とともに急速に薄れゆく意識の中でもさっきみた赤色の女の子が独りで立っている光景が妙にこびりついてなかなか離れなかった。
ロボットが出てくるのはもうちょっとだけ先になります