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俺と従魔とゲームの世界  作者: 陸戦型稲葉
第一章 異世界アウトランダー
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第八話



 あの後、どうにか復活した直希に、コナーは懇切丁寧に(かつ易しく噛み砕いて)説明した。


 曰く、登録料を一括払いすると、クラスが5になるまでの間、魔物素材の買い取り価格が1%高くなるらしい。

 元から金持ちだった者には、さほど恩恵はないかもしれない。だが直希のように、クラス以上の実力があって魔物を狩れる者には、ほんの少しだが収入増というボーナスが付く。

 自活、つまり自分自身の収入が欲しい直希にはうってつけのシステムだ。


「なるほど、よく分かった」


 この言葉が出るまでに要した時間は三十分。

 コナーは、よく頑張った。


「じゃあ、さっそくクエスト受注してくるよ」

「え、ナオキまさか薬草採集とか受けるんじゃ……」

「気分転換に森林整備してくる」


 ぐっとサムズアップした直希の顔は、今日イチ輝いていた。

 草はよく分からなくても、森林のことなら問題ない。だってキングオブそま育成高校の真面目な学生だったんだもの!

 コナーも、組合の建物(というか建材)に大興奮していた様を思い出したのか、それなら心配いらないな、と納得する。

 まあ、実際RDの薬草なら直希はちゃんと分かるので、コナーの心配は杞憂に終わるのだが、それはまだ知らなくてもいいことだ。


「コナーはどうするんだ?」

「僕は店に戻るよ。クラスが上がるまでは同行も出来ないみたいだし」

「組合員以外の同行はクラス5からだっけ。じゃあ、さっさと5まで上がるかな。コナーと薬草採集行きたいし」

「それなら、置いていかれないように筋肉つけよう。父さんの十分の一くらいは欲しいな」

「俺、絶対におまえには怪我させないから。おまえを危険に晒さない。この世のすべてを敵に回しても、おまえは必ず守る。だから、それだけは止めてください」


 かくして、直希はコナーと別れ、再び戦士組合……もといペルグランデ大陸生活安全保障組合アズーリ支部へ向かった。






「初受注が、森林整備ですか?」


 受付のアデレイドが、驚いたような呆れたような眼差しを向けてくる。

 直希は頷いて、クエストの詳細を尋ねた。


「クエストの対象となるのは間伐です。林道は今は破棄されていますし、森の街道以外に通す予定も現在はありませんので、路網整備は考えなくて大丈夫です。間伐の方法や基準は分かりますか?」

「はい、問題ないです。ただ、道具は借りられるのかなって」

「斧でしたら、貸し出し可能なものはありますけれど……」

のこぎりは? あと、なたとロープも借りられたら借りたいです」


 何この子! という表情でアデレイドが困惑しているが、今回はコナーがいないので誰も気付かなかった。合掌。


「鋸と鉈は木工所に依頼します。ロープは組合の購買部にありますので、必要なものを購入してください」

「分かりました。木工所はどこにありますか?」

「ああ、それなら、木工所への連絡要員と一緒に向かってください。書類の用意に十分ほど掛かりますので、その間に購買部を見ていきますか?」

「そうします。あ、契約金5ディナル置いておきますね」


 直希がいきいきとしている。

 墓の隣公園(正式名称、ただし墓地公園ではない)で、コナーによる金銭関係の説明を受けて頭から煙を噴いていたOBAKAと同一人物とは思えないほどだ。

 興味のある事には働く頭なのだ。

 興味のある事=木の事だが、若干ストライクゾーンが広い気もする。……まあ、NINJA育成高校だから仕方ない。


 組合の購買部は、訓練場への扉の反対側に位置している。

 間仕切りなどは無く、陳列用の棚が無造作に並べられているのみだ。商品はてんこ盛りだが、まさか売れ行きがよろしくないのだろうか。いや、きっと十分な在庫があるに違いない。

 まるで道の駅の地元産野菜コーナーみたいだなぁ、などと思いつつ、ロープコーナーを眺める。

 欲しいのは綿素材の太手のロープだ。3つ打ちかクロス打ちで、あまり古くないものがいい。


「お、ちょうどいいのあるじゃん」


 ロープ自体はかなり需要があるのだが、太手となると細手ほどは売れないようだ。

 直希も馴染みのある綿素材・麻素材の他に、王鹿腱混スタッグコードだとか突進猪毛混ボアファイバーだとか、わりと獣臭いものも揃っている。

 ロープを一巻きと、ついでに作業用のグローブ(軍手ではない、断じて軍手ではない)も購入して、連絡要員に連れられて木工所へ移動した。

 ちなみにロープは背負っていった。通りを歩く間、道行く人から変な目で見られたが実に心外だ、と直希は心中で憤慨した。そりゃまあ、人の脚の生えたカタツムリみたいになってるけどさ!




「なんだぁ? こんな小僧が間伐するってか?」


 木工所には、いかにもきこりです! という格好をしたプロレスラーみたいなおっさんが群れていた。

 上記のセリフは、真ん中でテンガロンハットをかぶっている、眉の濃いスタン・ハンセンみたいなおっさんだ。周囲にはアブドーラ・ザ・ブッチャーとかジェフ・ジャレット、ジミー・スヌーカなどなど、汗臭く熱量高そうなレスラー……じゃない、樵たちが腕組みなんてしちゃっている。

 おかしいな、ここは木工所のはずで、プロレスの控え室ではないはずなのだが。

 どこかにライオン・ハートはいませんか! 清涼剤になりそうなイケメン枠は! 女子はここに居たら間違いなく選手なので遠慮したい。


「俺がやります。でも鋸と鉈がないので借りられませんか?」

「なんでオレらが道具貸してやらにゃならねえんだ。間伐ってのはな、樵が主導でやってる大事業なんだよ。お前みたいな素人小僧の出る幕はねえんだ」

「あ、もしかして森の街道沿いの間伐って、ここの皆さんがやったんですか?」

「当たり前だ。中間地点まではアズーリの縄張りよ。エイリノンのへなちょこ共より、よっぽど見栄えがいいってもんだ」

「えー……あんな下手くそな伐り方してよく威張れるなぁ、恥ずかしくないのかなぁ。そりゃあ、俺は森林整備の専門家じゃないけど、俺の方がまともに伐れるって樵としてどうよ。その筋肉は飾りなのか、おじさんみたいな威圧感もないし飾りだな、やだー超うけるー」

「おい小僧てめえ小声でとんでもねぇ事言ってくれてんじゃねえか! いっぺん痛い目見ねえと分かんねぇか!?」

「あーやだやだ樵のくせに拳で勝負とか、分かってないなー。樵なら森ン中で勝負だろ、どっちが効率的な間伐が出来るか……の前に、どっちが上手く木を伐れるか」

「おうおうおう上等だゴルァ! 野郎共! 森へ行くぞ!」

「「「応ッ!!」」」

「えっあのちょっと」

「お前は立会人だ、ついて来い!」

「あのちょっとおおおおお!!」


 というような会話があり、組合の連絡要員は伐採勝負の立会人として拉致られて、森の街道へ繰り出す強面たち。手に手に斧や鋸を持っている。人狩り行こうぜ、な殺気マンマンだ。怖い。


 そして小一時間。


「「「「「すんませんっしたァァアアアアア!!」」」」」


 野郎共のむさくるしい咆哮が森に響き、野郎共のむさくるしい土下座が直希の前に現れた。

 伐採勝負は直希の圧勝だったのだ。本職でもない学生の直希に比べて、本職のはずの樵たちの有様と言ったらまさに児戯。上位者にひれ伏すのは筋肉の掟である。


「オレら調子に乗ってました! まさか、ナオキさんがこんなすげえ技術の持ち主だなんて思わなくて……」

「あ、うん、それは別に」

「お願いします! オレらに本当の間伐を教えてください!!」

「えー、皆さんに教えても、俺はクエストクリアにならないんじゃないんですか?」


 クエストは「森林整備」、同行許可はクラス5からで直希はクラス1。

 直希一人で間伐を行わないと、クリアにならないのではないか。

 都合よくそこにいた(※流れで拉致られた)組合職員に話を向けると、ぐったり疲れた顔ながら「間伐指導でも、実績が上がればクリアになります」とのこと。


「じゃあ、ざっと間伐について教えておきますね」


 間伐というのは、人の手の入っていない自然の森林(天然林)から、木々の成長を妨げる木を排除することを言う。

 現代社会では環境保全だとかCO2削減だとか山地災害予防だとか色々と必須理由はあるが、産業技術が進みすぎていないRDではあまり効果は無い。災害に関しても、アズーリのあるペルグランデ大陸北東部は日本ほど降雨量が多くない地域なので、躍起になって対策するほどでもない。

 この世界で間伐が推進される理由とは、「森林に分布する薬草の育成」が第一だ。


「ここまでは組合で尋くと教えてくれるんですが、そもそも薬草の育成に必要なのは何でしょう。はい、そこのモヒカンさん」

「ええっ!? お、オレぇ!?」

「薬草の育成に必要なものは三つあります。三つとも答えてください。はいどうぞ」

「え、えーと……水!」

「正解。あと二つ」

「うーん……うーん……あっ、栄養!」

「ん、まあ正解にします。最後は?」

「…………ええー……」


 モヒカンさん(後で聞いたらジョージさん三十六歳)は、半分泣きそうな顔で考えている。

 ちょっとかわいそうなのと、あんまり待ってる暇もないので、直希は助け舟を出すことにした。


「じゃあ三つ目が分かる人、元気に挙手!」


 沈黙である。


「え、マジでいないの? うっそ……」

「……あ、あの……私も回答権はありますか?」


 組合の連絡要員(後で聞いたらライリーさん年齢不詳)が、おそるおそる手を挙げる。


「樵チームが全滅したので、じゃあ職員さんお願いします」

「あ、はい、光です」

「正解ッ!」


 わーぱちぱちぱち、とスタンディングオベーションが巻き起こった。直希一人だけど。

 ライリーの回答を聞いて、樵チームは「ああ!」「なるほど!」「そういえば!」とか言っている。言っているが、半分くらいは「分かってないって思われたらヤバい」と思ってるのが顔に出ている。顔面の筋肉が理性に逆らってしまったらしい。不屈の筋肉である。


「間伐は、やること自体は簡単なんです。要は、森に生える薬草をもっとたくさん採りたいから、もっとたくさん育つようにする。じゃあ薬草が育つのに必要なのは何かって言うと、今答えてもらった水・養分・日光です。だから、十分な水と養分が得られる地面で、日光がしっかり当たるような森、これが答えですね」


 直希がいきいきしている。

 環境科学科ほどではないが、木工科でも森林整備の授業はあるのだ。座学(≒学内授業)の六割を占める「木工実習」つまり木工品製作で凝り固まった身体を、学有林で思い切り暴れさせられるため、直希は森林整備の授業(教室:学有林=1:9)が好きだった。

 まさか、その授業内容がしっかり生かされるとは思わなかったけれど。

 ちなみに、敬語なのは周囲が全員年上だからである。日本人だもの、年長者には敬語になるんです。直希は、誰にでもタメ口なヤンキーではなく、ごく普通(たぶん)の高校生なのだ。


 一方の樵チームは、正座で真面目に聞いている。

 真面目なのはいいことだが、正座では足が痺れて作業に差し支えるので、楽な姿勢で聞くように直希は何度も注意するハメになった。仕方ない、筋肉の掟は本能なんだもん。


「では、今いるこの場所が、薬草の育成に適しているか考えてみましょう。どう思いますか、そこのテンガロンさん」


 眉の濃いスタン・ハンセン(後で聞いたらノックスさん四十一歳)が、筋肉薬師リーバーほどではないがそれでも太い腕を組んで、むむむうと唸っている。

 いや、考えるほどもないでしょう。ここかなり薄暗くて草も生えていないんだから。


「うーむ……なんだか陰気な場所だから、あんまり向いてねえんじゃねえですか」

「一部分だけ正解です。あと、喋りにくかったら丁寧語じゃなくていいですよ、俺気にしませんし」

「そ、それならナオキさんだって普通にしゃべってくださいよ! オレらが師匠にタメ口聞いて、師匠がオレらに敬語なんて、気まずくって仕方ねえです!」


 あれ、いつの間に師匠に格上げされていたのだろう。

 これも筋肉の掟だろうか。

 その後、多少もめたものの、双方タメ口で落ち着いた。ただし直希は師匠からアニキに変化した。最年少なのだが、筋肉的には一種の敬称なので問題は無い。


「そもそも、皆は植物の成長ってどういう仕組みか知ってるの?」

「水やって肥やしやっとけばいいんじゃねえのか?」

「それは畑だよな。まあ、間違いじゃないけど、それ仕組みじゃないよ。えっとねー」


 ここから小一時間ほど、小学生の理科の授業がありました。


「なるほど! ちょうどいいくらいの水と、ちょうどいいくらいの栄養と、いい感じの日光があればいいんだな!」

「そうそう。で、今いるここは、さっきノックスさんが言ったように『陰気』つまり暗くて寂しい感じがする。暗いのは、ほら……上が全部枝で覆われてるから、光が入らない。寂しいのは……視界が開けてるようで先が見えない、ついでに足元は地面と根っこだけ。草が生えてないんだ」

「だけど、こんなのあっちこっちにあるぞ?」

「そう。実はさ、これが本来の森の姿なんだ」


 手入れされていない天然林は、実はあんまり美しくない。

 木々が密集しており、割と高い位置まで下枝は無い。下草は生えず、木々もひょろひょろのモヤシ体型だ。

 これは、近い位置にある木々の枝が、それぞれに枝を伸ばしてそれぞれに邪魔をしてしまうからである。

 隙間がある所に枝を伸ばしてもまだスペースが足りない、だからあまり大きく育てない。

 枝葉がみっしりと空を隠すため、日光も雨水も地面に届き難い。草が生えないため草が枯れて土に還ることもなく、ゆえに水分と養分が足りない。

 木々は十分に育てないため、根も地面の深くまでは届かない。浅い部分だけが根に覆われて、もしも豪雨が降れば浅い部分が根ごと滑って土砂災害だ。当然、保水力もないに等しい。

 樹皮を食べたりする大型動物がいたり、落雷や強風などで木が倒れたりして、木々が自然に間引かれることもあるが、街道沿いの森であるため危険動物は駆除され、人の手で間伐しないと追いつかない、という理由もある。


「で、思い出してほしいのが、街道の真ん中あたりなんだ。あの辺りって、すごく頑張って手入れしてたんじゃないかな」

「そうだ。エイリノンの連中にゃ負けられねえからな」

「原動力はどうかと思うけど、まあそれはいいや。えっと、あの辺りってさ、森の中に草が生えてるよね」

「……おう、言われてみれば」

「あの辺りって、森の中がわりと明るいよね」

「……そうだな、言われてみれば明るい」

「つまりそういう事だよ」

「どういう事なんだ?」


 直希が崩れ落ちた。


「目指す形はあの光景、という事です……よね?」


 ライリーが直希に確認する。

 直希は無言で頷くのみだ。かわいそうに。


「……あんな感じにすればいいんだ……そのために効率的な伐採方法を教えようと思ったんだけど……俺はしばらく立ち直れない……」

「あ、アニキ!!」

「続きは明日……木工所に朝七時集合…………遅れたら泣かす」

「ひいいいい!! 最後の一言が物凄く怖い!!」

「遅れません!! 絶対遅刻しませんから!!」


 すんませんアニキー!! という野太い咆哮が響き渡る森の街道は、その日それ以降魔物の出没は無く非常に平和だったとか。


なかなか話が進まない!バカばっかりだから(・∀.)!


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