第七話
毎日投稿はここまでです。あとは毎週火曜12時に投稿していきます。
※7月中は火・金曜更新になりました。
(記載内容は、ゲームと一緒なんだな)
組合員証は、他のゲームで言うステータス画面だ。
多くがマスクデータであるために、表示される情報は少なめだ。が、必要な情報はしっかり押さえている。
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Name : Naoki Sex:Male
Valiant Ranger Class : 1 (0)
Equip : Knife / -- / -- / --
Skill :
Last Base : Adulis
Title : 組合員 Alias : ---/---
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すかすかだ。
武器訓練終了直後なので無理もない。
これが、ナオキの一昨日までのデータだとこうなる。
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Name : Naoki Sex : Male
Valiant Ranger Class : 572 (4,672,376)
Equip : Katana / LongBow / Knife / ---
Skill : Fire Water Direction Treat Heal Cure Remedy Restore Therapy
Last Base : Abeirhaia
Title : 蠱毒の牙 Alias : 首刈り侍 / Vorpal Sword
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名前と性別、クラスはそのままだ。カッコ内の数字は累計GCPで、直希は日々これと睨めっこしているので七桁の数字も覚えている。RD関連だし。
装備は左二枠が主武器、右二枠が副武器だ。余談だが、直希の刀・強弓・ナイフというのは「変態ビルド」と言われる部類だった。どれも癖の強い武器であり、三つも担げば癖の塊である。クセisカタマリである。本人は「合戦スタイル」とか言っているが、ナイフは脇差ではありませんので悪しからず。
スキル欄はクラス5から増え始める。いわゆる「魔法」だ。と言ってもファンタジーでデーハーなロマンティック攻撃魔法ではない。極めて地味だ。FireやWaterはまだしもDirectionなんて地味以外の何物でもない。かろうじてTreatからTherapyの回復系がファンタジー感をくすぶらせている程度である。
Last Baseは最終セーブポイントで、町にある祠に立ち寄る事で更新される。進んだ先で死亡すると、ここに書かれている町の祠から再スタートとなる。……と言うと蘇生できるように思われるだろうが、蘇生は出来ない。死亡即ゲームオーバーである。なので蘇生ではなく、ロードだ。人間だもの、死んだら終わりなのだよ。
最下段は称号と通り名だ。直希の場合、称号の「蠱毒の牙」は「蠱毒の牙イオスレピス」の討伐証明となる。これは自動更新され、その時点でどの程度のクエストを達成しているかが大雑把に示される。ゆえに、まだクエストを請けていない現在はただの「組合員」だ。組合員だ。物悲しい。
称号とは逆に、通り名はプレイヤーが任意で選択できる。オンラインモードのオープンチャットやクローズチャットで[alias>*首狩り侍>*Naoki]等とコマンドを送ってもらうと、送られた通り名の中から表示するものを選べるようになるのだ。表示のON/OFFも選べる。
通り名の二つ目は英語表記、という位置付けなのだが、今ではもうあんまり真面目に英訳しているプレイヤーはいない。直希も「侍」が「Sword」に置き換わっているので直訳ではないが、これでも結構真面目な部類に入る。ひどい例だと「終末の騎士」→「Otousan」などである。原型なんて無かったんや。皆遊びすぎや。
(短期目標はラプタナ開放だから、クラス30で……GCPだと222,000か。いけなくはない。いけなくはないけど、きついなあ)
GCPは組合貢献値の事で、クラスアップに必要な基礎値である。他ゲームの経験値と同じ様なものだ。
クエストをクリアしたり、魔物素材を売買したり――つまり、組合の事業に取り組む事で、既定のGCPが付与される。これが一定値に達すると戦士階級が上がるのだ。
もっとも、GCPだけでクラスアップ出来るわけではない。クラスが100上がるごとに試験があり、試験をクリアしなければ上には行けないのだ。そして「試験」の名の通り、みんなの嫌いな「テスト」なのである。なんと筆記試験が必須なのだから驚きだ。開発陣はみんなのトラウマを抉りたいのだろうか。
クラスが1から100の間は、クラスアップに必要なGCPは7,400ずつ。クラス101からは7,492ずつとなり、クラス301を過ぎると必要GCPは跳ね上がる。専用の計算式を用いているらしいが、解析班の検証の限りでは
(現クラス÷50)×150+7700 ※()内小数点以下切捨て
だそうである。
そして、数少ないトッププレイヤー(と書いて変態ルルイエ師と読む)の協力の下、クラス901以降は
(現クラス÷50)×150+9000 ※()内小数点以下切捨て
だと予想されている。というか901以上のルルイエ師は四人しかいないのに、よく調べたものだ。最高位だって903だからサンプルなど無いに等しいようなものなのに。解析班の執念は凄まじい。
ともかくも、直希がラプタナの巫女に会うためには、最低222,000のGCPを稼がなければならない。
(ゲームでは、ラプタナ開放までは半年くらいかかったかな。でも、あれは操作に慣れるまで苦労したからだし、今は初期ステだけど俺自身のスペックで補強できる)
あの頃の主人公は、肉体的には一般人も一般人、ちょっと重い武器を振ったら重みに負けて転倒する、ちょっとフィールドを走ったら大自然という悪路に負けて一分でへたばる、軟弱でか弱いオトコノコだった。
しかし、遠藤直希は違う。鬼畜方面にブッ飛んだ授業の諸々や、習っている格闘技の諸々や、あと毎週末恒例の終末戦争という名の戦神のスパルタによって、木曾竜胆高校二年生遠藤直希の肉体はNINJAクラスにまで鍛え上げられている。もうちょっと頑張れば空蝉の術(物理)とか出来るようになるかもしれない。
主人公には不可能だろうが、直希にならば可能。
あの頃は半年かかったラプタナへの道を、今の直希ならもっと短縮できる。
(よし、二ヶ月だ。二ヶ月でラプタナ到達を目指そう)
仮設のゴール地点を設定したなら、次は「どう走るか」。
クラス1で受注できるクエストは「薬草採集」「薪採集」「森林整備」と「生態調査」だ。森林組合か何かだろうか。
これらは難易度が低く初心者の操作練習にはピッタリのクエストだ。が、当然のように報酬もGCPも低い。操作に慣れない内からクラスアップしては行き詰まってしまうので、ゲームである以上は仕方がないのだが、直希にとってはそれが枷になる。
(素直にクエストだけやってても、時間がかかるだけなんだよなぁ。一回は慣らしで行くとして、金とGCP稼ぐのはフリーハントのほうがいいな)
クエストになっていない魔物の討伐は「フリーハント」という扱いになる。
特別いい報酬がもらえるわけではなく、特別いいGCPがもらえるのでもない。が、フリーハントは素材を全て売却できるという利点がある。おまけに、生態系のバランスを崩さなければ討伐上限数も無い。
クエストで「薬草採集」を受注して、道中で凶狼を乱獲すれば、クエストクリアと同時にフリーハント報酬ももらえると言う寸法である。
こと序盤においては、真面目にクエストをやるよりもフリーハントで稼げ。不慮の事故でキャラデリの悲劇に見舞われた、悲しき某ルルイエ師の言葉だ。事故原因がにゃんこ様の不機嫌によるというから、さらに悲しい話である。人は所詮、にゃんこ様の下僕で奴隷なのだよ……。
(今日、この後で受注できれば、1クエ行っておこう)
「なあ、ナオキ」
直希が決意も新たに鼻息を荒くしていると、凶器という名の冊子を読んでいたコナーが顔を上げた。
「どうした?」
「ん、ちょっと規則読んでたんだけど」
なにこの変態こわい。
「戦士って、クラスが上がるまではエイリノンに行けないんだね」
「ああ、うん、そうだね。護衛のクエストも、まだ受けれないし」
「護衛はクラス15からだって。隣町なのに、厳しいなあ」
「隣町って行っても、歩いて半日かかるだろ。昨日みたいな事があったら危ないんじゃないか」
「んー……」
直希が平気な顔で狼三匹殲滅したので、コナーはあまり危機感を抱いていないらしい。
直希的には、あれでも結構緊張したのだが。
「昨日、俺が凶狼倒せたのは、運がよかったんだよ。次は怪我するかもしれないし、もっと怖いのが出てくるかもしれないし」
「……うん、危ないって言うのは分かってるつもりだけど。僕もすごく怖かった」
でもさ、とコナーは続けた。
「ナオキが怪我するのは、いやだなあ」
憂いの陰りを帯びた横顔は美しい。まだ見ぬ痛み、いつか来る悲しみを思い描いてか、ペリドット色の双眸はやや伏し目がちだ。鮮やかな枯れ草色の金髪が、俯いた顔にさらりとかかる。
まったく溜息が出るような「アンニュイなイケメン」である。いっそ憎たらしい。
「……約束するよ。大怪我はしない」
「ナオキ……」
「小さい怪我はするかもしれないけど、でも大怪我はしない。さっきはああ言ったけどさ、俺はそれなりに強い自信があるよ。無茶しないでいられる線引きは、ちゃんとできるつもりだ」
フツメンがいっしょうけんめいカッコつけた結果、コナーはくすぐったそうに笑った。
結構心配性なのだ、この幼馴染は。
それでも、心配しつつ戦士組合登録は止めないので、なんだかんだ言って直希の無事を信じてくれている。これが残念じゃない美少女だったらいいのに。
「それを気にしてたのか?」
「あ、いや、それもあるけど、ちょっと経済面で気になる事があって、規則とか事業概要とか見てみたんだけど」
なにこの変態きもい。
「ナオキは、そもそもどうして戦士になったのかな、って」
「ああ……」
「ヒルダに言われたから、ってわけじゃなさそうだし、もともと考えてたのかな」
直希が戦士になろうと思ったのは、それが一番都合が良かったからだ。
ラプタナの巫女に話を聞くにも、そこまで移動するにも、一般人では制約が多すぎる。
オープニングでコナーと出かけたのは、エイリノンがアズーリの隣であり、魔物が出没するものの街道も整備されていて、なおかつ「定期的な納品を強く望まれているリーバーの薬品を売りに行く」という理由があったからだ。直希一人ではエイリノンにさえ行くことは出来ず、ラプタナはエイリノンよりも遠くにあるのだ。
それに加えて、いつまでもリーバー宅に居候して養ってもらうのも心苦しい、という心情的な理由もある。居候は動かせなくとも、多少のお金はリーバー宅に入れたい。
だが、それは遠藤直希の理由だ。主人公の理由としては弱い。
(でも、自活したいって理由だけでも通さないと。居候のタダ飯食いが嫌なのは本当なんだから)
それをどうにか、コナーが納得するように説明できないものか。直希の偏って貧弱な脳味噌で…………無理かもしれない。
「なんとなくだけどさ、いつまでもお世話になってちゃいけないよな、って思って。俺は薬とか作れる気がしないし、商売も出来る気がしないし、じゃあ戦士かな、って」
ええいままよ! とばかり素直に打ち明けてみたが、なんという曖昧さ。ふんわりふわふわシフォンケーキのような、あっついでにホイップクリームとミントも下さい飲み物はダージリンのストレートでお願いします的な、「俺ぇ、自分に合った仕事したいんっすよぉ。もっとこう、自分の持ってる力を最大限に活かせるようなぁ、そういうチャレンジ精神のある仕事したいっすねぇ」とか言っちゃう二十代アルバイターのような、実に不安になる曖昧さだ。
直希は後悔した。RD関連なら自信がある脳味噌だが、RDのようでRDでない内容には働く気が無いらしい。いっそ戦士やめて木地師になろうかな。
「うん、そう言うだろうと思ったよ。それで、登録の時に登録料が分割払いになる、って話が出たの、覚えてる?」
「あー……うん、てんびき」
「それそれ。規則にその支払い方法も書いてあったんだけど、分割払いじゃなくてもいいみたいなんだ。支払い能力があれば一括でも受付可能、って」
「てんびきじゃなくなるってこと?」
「天引きでも対応可、ってことは、現金払いでもいいってことか。で、どうやらナオキは結構強いみたいだから、このフリーハント枠ってので稼いで、登録料を一括払いしたら、後々の収入が多くなるかなーって」
つまり「薬草採集」を受注してフリーハントで乱獲して、登録料100ディナルをきれいに清算してしまえ! という事を言いたいらしい。
疑問を解消できたコナーは満足気だ。
直希の頭からは煙が出ているが。
「登録料は非課税って言ってたけど、分割手数料は掛かるんだ。十回払いで1ディナルだけど、1ディナルを笑うものは1ディナルに滂沱の涙を流す。だから、まとめて払っちゃえるなら、それに越した事はないかな――――って、ナオキ! 大丈夫!?」
「いっかつばらい……ぶんかつてすうりょう……」
「なんでお金の話なのに目回してるんだよー!」
哀れ、直希は思考回路がショートしてしまったようだ! せめて寸止めで勘弁してあげてほしかった!
墓の隣公園(正式名称)に、直希を揺さぶるコナーの悲鳴が響き渡った。
何に苦労したって、回復魔法のバリエーションがですね…(・∀.)<3