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俺と従魔とゲームの世界  作者: 陸戦型稲葉
第一章 異世界アウトランダー
3/19

第三話



「無茶しすぎだぞ、ナオキ」


 少年の呆れた声が嘆息した。


「あんな大ジャンプしたら、そりゃ普通に考えて転ぶって」


 少年は呆れた声で苦笑した。


「だけど、ありがとな。僕のために、あんな必死になってくれて」


 少年は呆れを引っ込めて、くすぐったそうに笑った。

 彼の左手が抑えているのは右腕だ。

 ぽたぽたと、肩から腕へと、雫が滴っている。


 直希は、俯いて唇を噛んだ。

 少年の真っ直ぐな言葉に、何と答えていいか分からなかった。


 守れなかった。

 三体目の狼はどうにか退治したけれど、直希は守りきれなかったのだ。


「……ごめん」


 返事の代わりに、謝罪の言葉を告げる。

 きつく握り締めた両手は、押さえ切れない震えを少年の目にも示しているだろう。


「……ごめん、俺の力が足りなかった……」

「いいんだ。いいんだよ、ナオキ。僕はただ守られてるだけだった。僕はナオキを危険に晒してしまったんだ。ナオキが謝ることはないよ」


 少年は、少し掠れた声で、直希を励ます。

 彼の声には、彼の言う通り、恨みがましい感情はひとかけらも混じっていなかった。


 そこにあったのは、感謝と後悔。


 危険な魔物エネミーのいる森を、その森を抜ける街道を、若造二人で無事に抜けられるなどと、無謀にも思ってしまった。

 二人きりでも大丈夫だと力説したのは、直希ではなくコナーの方だった。


 その結果が、これである。


「完璧に割れちゃったなぁ。売る分、残ってるといいけど」

「ごめん。俺が、あんな体勢から『逃げろ』なんて言ったから……」

「いやいや、僕が予想以上にドジだったんだって。そんなに気にしないでくれよ」

「……まさか、コナーがあんな派手にずっこけるとは、思いもしなくて……」


 三体目の狼が飛び掛り、コナーが驚いて、直希は跳躍していて、その最中に「逃げろ」なんて無茶を叫ぶものだから、コナーは慌ててその声に従ったのだ。

 しゃがんでいたところを直希が引っ張って、しゃがむというより座り込んでいるような体勢から、慌てて横へ逃げようと走り出して、足がもつれてずっこけた。

 それはもう、飛び掛った狼もびっくりするほど派手に。


 えっ? なにそれ? どうやったらそんなツイスターな体勢で転べるの?

 と目をまん丸にした狼は、目をまん丸にしたまま直希の跳び蹴りを喰らい、頚椎損傷で死亡した。

 正当防衛とはいえ、ちょっとかわいそうだった、とは直希の供述である。


 ずっこけたコナーは、背負った葛篭つづらの中身、すなわちコナー父謹製の薬(ガラス瓶入り)を地面にぶちまけ、そこに運悪く直希が着地して瓶を踏んですっ転び、直希が踏んで跳ね上げられた瓶がコナーの右腕(というか確実にファニーボーン)を直撃してコナーが悶絶し、悶絶したまま倒れこんだら下敷きにされた別の瓶が割れてコナーは薬塗れになった、というわけだ。

 なんというピタ○ラスイッチ。

 割れた瓶で怪我をしなかったのが奇跡である。


「僕らは無事だからいいけど、そもそもこれをエイリノンで売るのが目的だから、これどうにかしないと……」

「……ちょっとした事故があって割れちゃったから補充してください、とか言ったら、おじさん激怒しそうだな」

「あー……激怒するね。それ一本作るのにどれだけの苦労があるか分かってんのかこのクソガキ! くらいは余裕で言うね」

「持ってきたのは何本なんだ?」

「十五本。一本は割れちゃって、あとは……」


 コナーが、ごそごそと葛篭の中身を改める。

 直希は深い溜息を吐いた。

 コナー父謹製の薬は、かなり高価かつ高性能な高級品なのだ。

 SスタートDダッシュRロードの異名が定着するAE街道沿いの、新規プレイヤー御用達「はじまりの町」アズーリのしがない薬師の製品とは思えないほどに。

 むしろ、コナー父が「田舎のしがない薬師」なのは世を忍ぶ仮の姿なのではないか、とRDスレで真剣に議論される程度には、コナー父謹製の薬は高品質である。


「十二本は大丈夫そうだよ。二本は瓶にヒビが入ってるから、なんとか半値くらいでも売らないと」

「うん、頑張って売ろう。どうにかして売りさばこう。でないと後が怖い」

「……ナオキって、うちの父さんの本性、知ってたっけ?」

「え? あ、えーと、まあ、うっすらとは記憶が」


 あはは、と明らかな誤魔化し笑いをする直希だったが、コナーも親父の恐怖について深く追求することは避けたのか、それ以上は何も言わなかった。


 かくして、彼らは目的地エイリノンでの商売を無事なんとか終わらせ、狼に襲われる事なくアズーリへと帰ったのだった。


 <完>








 いや終わりません。終わってません。まだ始まってすらいません。ご安心下さい。




 虹湖にじうみの町アズーリは、美しい湖に程近い湖畔の町である。

 深い森と湖とに囲まれ、厳しいながらも豊かな町である。

 が、生憎と田舎であるために、人口はさほど多くない。多少の変動はあるが、おおよそ千人といった所である。


「こンの腕白小僧共め!!」

「あだっ!」

「ほぎゃっ!」


 おっさんの野太い咆哮と、少年のものらしき悲鳴がふたつ、過疎地の町の夕暮れに響いた。

 鈍い殴打音も、悲鳴にかき消されつつ二つ上がっている。


「あれほど『危ねえから大人も連れてけ』って父ちゃん何度も言ったよなァ? それをクソガキ二人っきりで出かけて? 父ちゃんが丹精込めて作った薬を三本も破損して? コナーは一張羅に薬の染みまで作って?」

「……はい」

「怪我はしなかったものの、ナオキは凶狼サベッジウルフが三頭もいるのに素手で立ち向かって? うまいこと退治できたもんだから調子に乗って帰りの護衛を断ってエイリノンの連中に散々心配かけて? 大事な鳩飛ばしてまでテメエらクソガキの安否を気遣っていただいて?」

「…………うっす」

「それで拳骨一発で済むとは、まさか思っちゃいねえよなァ? んん?」

「「…………仰るとおりでございます」」


 激怒する薬師の親父の前に、直希とコナーは土下座していた。

 これぞ土下座の正統なる姿だ! とばかりの見事なDOGEZAである。

 それを見下ろす親父はといえば、薬師なんてインドアでインテリで穏やかそうなお仕事ですね尊敬いたしますわウフフ、をゆっくり棒読みしても取り繕えないほどにゴリゴリのマッチョだった。

 ゴリゴリのマッチョだった。

 薬師つまり薬剤師のイメージどおり白衣を纏っているのだが、ゆったりXXLサイズの白衣がぴっちりぱつぱつになるほど筋骨隆々とした体躯である。

 白衣の下はラフなシャツ、というかタンクトップを着ているのだが、誰に聞いたとて「Y字以外に考えられない」と言うだろう。無論、豊かな大胸筋がその生地を限界まで押し上げている。谷間はあるがロマンは無い。

 がっしりと組まれた腕は極太で、細身の直希の太腿よりも太いかもしれない。縄文杉の如く荒々しく隆起した上腕二頭筋と、はちきれんばかりの三角筋、エアーズロックもかくやといわんばかりに存在感溢れる僧帽筋、旧い大樹の根にも似て揺るぎない胸鎖乳突筋。まるで筋肉の見本市である。白衣越しなのに筋肉がはっきり分かるとはこれいかに。

 衣類に隠れた腹は、衣類に不自然なしわやたるみがない事から推測するに、完璧なシックスパックに出来上がっているのだろう。腹直筋がそうであるなら、外腹斜筋や広背筋はどうであるか。お察し下さいとしか言いようがない。

 直希の知るどんな戦士よりも逞しい筋肉薬師<リーバー>の威風堂々たる姿だ。背中に筋肉の鬼面背負ってたらどうしよう。

 彼の姿を目にした者が、彼の職業を聞いて必ず思う。


『その筋肉、必要ですか?』


 誰しもが疑問を抱くだろう。そして、その疑問は正鵠を射ているのだから、より真剣に思い悩むだろう。

 田舎の過疎地の薬師がこんな筋肉を備えていて、果たして役に立つのだろうか、と。


 その答えを、直希(とコナー)は身を以て理解した。


 必要なのだ。

 言っても聞かないクソガキどもを躾けるために。

 あるいは、筋肉に憧れを抱く筋肉崇拝のマッチョたちの聖人として。

 そして悲鳴を上げるのだ。このゴリマッチョが町薬師リーバー(50)であると知って。



 ともあれ、五十歳のゴリマッチョ薬師リーバー父ちゃんは、凶狼サベッジウルフよりも余程おっかない強面で小僧どもを睨みつけ、地の底から響くような恐ろしいだみ声でお説教をぶちかまし、それぞれに拳骨を一発ずつ追加したところで、小僧どもに赦免を言い渡した。

 夕空の茜色が宵闇の紫に染まりつつある時分、いつまでも説教を垂れているわけにもいかないのだ。


「いつまで這いつくばってんだ、とっとと起きて晩飯の支度しろ。ったく軟弱なクソガキどもめ」


 いいえオッサンの拳骨が強烈過ぎるからです、という正論は勿論言えず、のそのそと蘇生した小僧どもはいそいそと家に入った。薬屋兼リーバー宅である。

 主人公ナオキは孤児という設定のため、古馴染みであり亡父の親友であるリーバーが引き取って育てていたのだ。ということを、RDの濃すぎる世界観の中から直希は知っていたので、特に不思議がる事もなく、コナーと一緒に晩餐の準備に取り掛かる。


「あー痛ぇ……まだ目がチカチカする」

「おじさん、強烈だよなぁ……」

「あ、ナオキ、今日は記憶があるんだ。父さん手加減してくれたのかな」

「んー、まあ、慣れって言うかね……」


 設定上、主人公はリーバーの恐怖を知らないことになっている。

 プレイヤーがリーバーについて、というかRD世界について知らないスタート時点であるため、というメタい理由なのだが、あの強烈な拳骨のあまりの威力により記憶が一部消失しているため、というのがゲーム内での設定なのだった。

 そんな所にフォローいらない、もしかしてその為だけにリーバーはマッチョなのか、とは、発売十年にして今でも結論が出ていない議題の一つである。どうでもいいのだが。心底どうでもいいのだが。

 ちなみに直希の言う「慣れ」とは、ゲーム内でリーバーを見てきたから、という意味ではなく、遠藤家の暇を持て余した戦神たちの余興スパルタに巻き込まれた過日の思い出複数によるものである。主にばあちゃん。NOTじいちゃん。時々母ちゃんも怖い。父ちゃんは戦神だが神々の陣営あっちがわではなく人間の陣営こっちがわだ。


 しかし、現在はRDの薄すぎるストーリーから外れた状態である。

 本来のストーリーならば、コナーは今日の晩餐を準備する事ができないし、そもそもエイリノンにも辿り着けずアズーリに引き返しているはずなのだから。


 幼馴染負傷オープニングイベントは、今日の一度きりだった。

 チュートリアルの中で、コナー(もしくはヒルダ)が「自分たちは今まで一度も襲われた事が無かったから油断した」旨を述懐し、主人公に軽率を詫びるシーンがある。

 であれば、明日以降にコナー(もしくはヒルダ)と直希が二人だけでエイリノンに薬売りに出かけても、サベッジウルフ三体による襲撃は二度と起こらない。

 つまり、ゲーム(本編)が始まらない。


(どうしたもんかなぁ……)


 チュートリアルが終わってしまえば、ストーリーらしきものはほとんど無くなる。

 各地で受注するクエストから短い話(というか依頼の背景や人物関係など)が垣間見えるだけだ。

 だから、チュートリアル終了後であれば全く問題は無い。


 けれど、今はチュートリアル前であり、オープニング後だ。

 オープニングから始まるストーリーは、既に開始されている。


(どうにかして戦士組合ギルドに登録したほうがいいのかなぁ)


 RDの主人公は戦士ヴァリアントだ。そもそもが、戦士ヴァリアントを操作して魔物エネミーを倒すゲームなのだから。

 ゆえに、ゲームを辿ろうと思うのなら、直希はどうにかして戦士組合ギルド登録を済ませて戦士ヴァリアントになる必要がある。


(でも、ここが本当にRDの世界だとしても、ストーリーそのまま辿る必要あるのかな。今日だって、明らかにオープニングだったけど、コナーは怪我しなくて済んだし、それでこうやってイベントっぽいものも起きたし……)


 本来のストーリーで、大怪我をした幼馴染を担いでアズーリに帰った主人公はリーバーに土下座するのだ。

 今日のような、どこか平和なお説教ではなく、大切な子供に傷を付けてしまったことを詫びる事になる。

 コナーはリーバーの後を継いで薬師になることを目指していたが、利き腕を失っては調薬ができない。コナーは夢を、リーバーは後継者を失う。

 ヒルダは可愛い女の子だ。調薬のセンスが無く、手伝い止まりのため薬師には向いていないが、明るくて可愛い女の子は薬屋の看板娘だ。それが顔に傷痕を残してしまうと、看板娘は務まらなくなり、リーバーは娘の結婚相手を探せなくなる。

 補足として、コナーとヒルダの母、リーバーの妻は病没しており、亡き妻が言い残した「ヒルダの晴れ着、作っておいて良かったわ……あなたが、私の代わりに見届けてね……」を至上命題とするリーバーは、ヒルダには何としてでも幸せな結婚をしてもらいたがっている。

 手っ取り早く言えば、幼馴染負傷オープニングは主人公にとってもリーバー一家にとっても「詰み」だった。

 才能ある後継者、あるいは娘の幸せな結婚という未来が潰え、その原因でもあり、護衛役でありながら守れなかった主人公は彼らに寄り添うことを許されず、その結果として魔物被害を減らすべく戦士に志願する。

 薄い割りに重いストーリーである。


(俺とコナーが出かけて、サベッジウルフに襲われて、リーバーさんに土下座した。そう考えれば、ここまでのイベントは完遂してる。っていうか、オープニング時点の主人公って、どう考えても俺より弱いんだよな。全く戦えないし、護衛役っていうより肉壁だし。だったら、通常のストーリーに入ろうとしたら主人公が予想外に戦えちゃった、ってことなのか)


「ナオキ」


(そもそも、ストーリー進める必要があるとして、負傷イベ必須だったら嫌だし。ってか、今日も俺が敵愾心ヘイト稼いだのにコナー狙った奴がいたし、あれはやっぱりイベントの強制力みたいなものがあったんだよな。で、俺はリーバーさんに土下座して怒られたから、そこもクリアってことにして、あとは戦士組合ギルドに登録しちゃえば先に進んで、負傷イベ起こらなくなる、って考えてもいいよな)


「ナオキってば」


(うん、よし、そうしよう。あんまり細かく考えなくていい。要するに、オープニングからチュートリアルまでって、主人公が戦士ヴァリアントとして戦う背景づくりなんだ。きっとそうだ。そういうことにしよう。もしそうじゃなかったら全力で阻止しよう。平和が一番)


「こら! ナオキ!」

「わひゃぁん!?」


 考え事をしていたら、背後からわきわきと胸を揉まれました。大胸筋はあるけどロマンは無い。

 突拍子も無い悲鳴を上げた直希が振り返ると、金髪緑眼の明るくて可愛い女の子が眉を吊り上げていた。


「ちょっとそこどいて! 焦げちゃうでしょ!」

「アッハイ、スミマセン」

「まったくもう、何度声掛けてもボーッとしてるんだから。父さんの拳骨二回も食らったんでしょ? 意識障害?」

「あ、いや、ちょっと考え事してて」

「料理しながら考え事しないでよね、私たちに炭でも食べさせるつもりなの?」


 ぷりぷりと怒りながら、直希から木ベラを奪い取った少女は、てきぱきと料理の続きを仕上げていく。


「ごめん、ヒルダ」

「未遂で済んだから、もういいよ」

「次から気を付けるよ」

「ぜひそうして。それより、本当に大丈夫? 父さん、すごい心配してたから、威力も割り増しだったんじゃない?」


 さほど本気ではなかったのか、くすりと笑ったヒルダは、気遣わしげに眉を寄せて直希を見上げた。

 画面の向こうで見慣れた顔とはいえ、傷痕の無い状態はほとんど覚えが無い。

 その滑らかな肌と鮮やかな表情に、直希は不覚にもドキッとした。


「大丈夫。どこの骨も折れてないし、怪我もしてないし、心配かけたことも申し訳なく思ってる」

「そう……うん、本当に大丈夫そうだね。安心した」

「ヒルダにも、心配かけてごめん」

「ほんとにね。でも、ちゃんと帰ってきてくれてよかった」


 そう言って、ひまわりが咲くような、眩しい笑顔を見せるヒルダ。

 直希は不覚にも再度ドキッとしたが、仕方のない事だろう。

 双子の兄であるコナーは、アレックス・ワトソン似のイケメンだった。

 であれば、双子の妹であるヒルダも整った顔をしているのは当然だと言える。

 兄弟だからモデルにしたのだろうか、ヒルダはエマ・ワトソン似だ。エマを金髪緑眼にして、ちょっと垂れ眉にして、そばかすを散らした感じだ。あと笑窪。

 身長は直希より十五センチほど低く、ちょうどいい角度で見上げてくるから可愛さに拍車が掛かる。

 おまけに悪戯っ子で、イタズラがキマった時の小狡そうなドヤ顔もまた違った可愛さがあるから困る。


 なぜ困るのかと言うと、ヒルダは「RD史上最も『友達でいよう』と言いたい相手」を発売以来十年間ずっと独占しているからだ。


 思い出していただきたい。

 料理中にぼんやりしている幼馴染(男子)に何度も声を掛けました。しかし気付きません。貴女なら、どうやって彼を振り向かせますか?

 そう、なにも背後から胸肉を揉む必要など無いのだ。

 それはカップルもしくは新婚夫婦の男が女にするから良いのであって、性別が逆だとダメなのである。

 そしてこんなのは氷山の一角。

 ヒルダの残念なところは空気を読まない事である。

 先程の「背後から胸揉み」もゲーム中で何度かやっていたし、上どころか下も揉んだ事がある。幸い、直希がそれを見たのはゲーム中で、まだ実体験は無いので、できればこのまま実体験無しでいたいと思っている。ロマンもトキメキも有ったもんじゃない。

 ゲームを進めていくと「幼馴染連続クエスト」という、幼馴染と付き合って最終的に結婚できちゃうサブストーリーが出てくるのだが、案の定そこでもやらかした。

 先の拠点まで進んだ主人公がせっせと田舎に足を運び、こまめに顔を見せては友愛を育んでいるというのに、ヒルダは「あ、おかえり! 鼻毛出てるよ!」だとか「お疲れ様ぁ! ご飯にする? お風呂にする? それとも……パパ(※リーバー)にする?」だとか「私ね、理想のタイプは父さんみたいな人なの」だとか「主人公キミ、最近なんだか父さんに似てきたよね。ステキだな!」だとか「もし私が結婚するなら、父さんみたいな人とがいい」だとか言って心を抉り、それを乗り越えてプロポーズクエストまで持っていったプレイヤーには「俺と結婚してください」→「あ、うん、それより社会の窓開いてるよ」という手ひどい痛撃をかましたりする。

 ちなみに同じクエストを女性主人公とコナーで進めると、「私と結婚してください」→「僕から言おうと思ってたのに。でも、ありがとう。結婚しよう」となる。この温度差は何なのか。スタッフはヒルダに恨みでもあるのか。顔に傷を負ったヒルダは心を病んでしまったのですか、との問い合わせに「ヒルダが負った傷は肉体的なもののみです」と公式回答したスタッフは、ヒルダを憎んででもいるのだろうか。

 おかげで、人気タイトルの定番である二次創作でも、女性主人公とコナーのカップル絵はあるのに、男性主人公とヒルダのカップル絵は無い。それどころかヒルダのエロ絵自体が無い。飽くなき挑戦心を燃やす絵師の心をも、ヒルダはへし折ったのだろう。かろうじて「全員集合絵」とか「アズーリ幼馴染組」とかの集合写真系に入っているくらいである。嫌われているわけではないし、むしろ人気は有るのだが。


 閑話休題、ヒルダにはときめいたらときめいただけ深い絶望が待っている。直希はそれを思い出して、ちょっと切なくなった。


「ねえ、今日の凶狼サベッジウルフって、ナオキがやっつけたんだよね?」

「そうだよ」


 無事に出来上がった料理を盛り付けながら、ヒルダが問う。

 それに頷いて答えた直希は、残念美人ヒルダの残念っぷりを思い返すことを止めて、またストーリーのあれこれを考え始めていた。

 ストーリーに乗るべきか、ストーリーを無視すべきか。

 薄くて重いストーリーとはいえ、主人公が先々の諸々を乗り越えていく根幹となる部分だ。軽んじるべきではないだろうが、誰かが傷付くのは出来るだけ避けたい。

 むむむ、と考え込む直希に、ヒルダは何気なく言った。


「ナオキ、強いんだね。もういっそのこと戦士組合ギルドに登録とか、しちゃってもいいんじゃない?」



ちょっとヒルダに文章割きすぎました(・∀.)!

ファニーボーン:肘をぶつけると痺れるよね。


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