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俺と従魔とゲームの世界  作者: 陸戦型稲葉
第一章 異世界アウトランダー
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第十六話

 夕暮れ時のアズーリは、虹湖にじうみに映る夕陽で七色に煌めく。

 よく晴れた日にしか輝かない、この町の名物だ。


「昇級祝いかい、兄さん?」

「うん、まあそんなモンかな。このナイフ買うよ。シースはサービスしてくれない?」

「ははは、しょうがないな。祝いってんなら、鞘の分はまけておくよ。手入れの方法は分かるかい?」

「ああ、大丈夫。ありがとう、いい買い物した」


 虹色に染まった町の中央通り、石造りの堅牢な店から、ニコニコ顔のナオキがてくてくと出てきた。従魔のゼンも一緒だ。


「いやぁ、掘り出し物みつけちゃったな! な!」

「わふ」


 にっこにこのナオキはゼンに同意を求めるが、凶狼サベッジウルフにナイフの良し悪し問われても……とゼンは困惑気味である。


 ナオキが出てきたこの店は「アズーリ中央武具店」、つまり武器・防具屋だ。

 ナイフから強弓まで全十二種の武器を取り揃え、防具も軽装から重装まで揃えられる名店である。ラインナップも幅広く、お手軽プライスの初期装備から結構いいやつまで取り揃えている。

 ちなみに、目ン玉飛び出るような値段の「良武具」も在庫はあるが、値札の桁数を数えて目ン玉飛び出たナオキは素直に諦めた。

 アズーリで五十万ディナルなんて、何年掛ければ貯まるだろうか……ナオキの現在の貯金が二千ディナルちょっとなので、十年くらい頑張れば貯まるかもしれない。


 この日、ナオキが買ったのは100ディナルのナイフだ。

 前日にクラス5に昇級し、午前中に魔法使用講習を受けてきた、その帰りの買い物である。

 昇級祝いということでサービスしてもらって、鞘込み100ディナルだ。金額だけ見ればしょっぱい低レベル武器なのだが、これが「掘り出し物」だった。

 全長は約40センチ、刀身は約25センチと大型のナイフで、切っ先から5センチ程度が両刃になっているスピアポイントタイプだ。刃は厚めで、重心はハンドル側にある。

 ハンドル材は黒檀エボニー鹿角スタッグホーンで、柄頭は真鍮だ。装飾性は高くないが見た目もいい。


「パッと見は普通の、ちょっと良いナイフなんだけどさ。中古だし」


 中古の「ちょっと良いナイフ」をナオキが喜ぶ理由は、その素材にある。ハイス鋼だ。

 高速度工具鋼やHSSなどと呼ばれ、実際に使用されている高級刃物用鋼材である。硬度・対磨耗性が高いが錆に弱い、という特性がある。

 本来ならば安物にはならない素材なのだが、全体のバランスが崩れ気味で、ハンドルやタングも作り込みが甘いところを見るに、職人の徒弟が頑張って作ってみた二級品、といった品なのだろう。

 更に、前の使用者が手入れをサボったのか、ブレードに若干の錆が浮いている。


「でも、ちゃんと研げば全然問題ないんだよ。武器スレで『たまに出るレアもの』って言われてたけど、中古のことだったんだな」


 RDの武器は、クラス100までは全て店売りだ。

 RPGではないのでダンジョンの宝箱から入手することもないし、魔物エネミーがドロップすることもない。というか魔物は何もドロップしない。素材は解体して入手だ。

 クラス100という、わりとよく居るレベルの戦士ヴァリアントに「我が家に代々伝わる伝説のホニャララ」なんてものをくれる奇特な人もいない。

 その代わりに、低確率で「掘り出し物」が店頭に並ぶのだ。

 ナオキが今日手に入れたハイス鋼ナイフ(粗製)なら、アズーリでの出現確率はおおよそ30%程度。

 ダマスカス鋼ナイフ(銘有り一点物)とかだと1%に満たないらしいから、見つけられるかは本当に運次第だ。もちろんステータスのLUCではない。リアルラックである。


 RDの武器は非常に多い。それは、ゲームらしからぬ独自の分類で武器を設定しているからだ。

 ナイフで言えば、よくあるゲームだとダガー、○○ナイフ、ククリ、ソードブレイカー、マン・ゴーシュなど、世界各地の特徴的なナイフが引用されている。分かり易くてとても良い。

 一方のRDでは、ナイフの小分類は「形状」である。ダガー、ドロップポイント、スピアポイント、クリップポイント、ブッシュ、スキナー、ボウイと分かれ、一部のユニーク武器としてジャンビーヤやジャマダハル、クリスといった独特な形状のナイフがある。

 形状による分類の次に来るのが「素材」だ。すべての形状に対して素材は四種類。最も多いのが鋼で、ハイス鋼、ダマスカス鋼の順に希少品となる。魔物素材はモノによりけりだ。

 形状、素材で分けた後が「製作者」である。日本刀の「安綱」とか「兼定」「正宗」のように、武器製作の名工と呼ばれる職人たちが手がけたものは良品だ。名工がオーダーメイドで製作し銘を刻んだ「銘有り一点物」が最上級で、銘有り量産、銘無し一点物、銘無し量産、粗製と五等級である。

 これが全十二種の武器すべてにあるのだから、とんでもない数の武器が存在している。攻略ウィキには二千種近い武器データが記載されているが、ナオキも知るクラス903氏が「クラスアップしたら新しい武器のフラグ立った」とか爆弾を投下していたので、まだコンプリートには至っていないようである。


「ハイスの粗製なら、鋼の銘無し量産より性能いいから、しばらくこれで大丈夫だな」


 もちろん、錆に弱いハイス鋼は「クエスト後に手入れをしないと品質(および売価)が下がる」という特徴があるので、しっかりお手入れしてあげなければいけないのだが、それを補って十分な恩恵(攻撃力)がある。

 メンテナンス方法も、登録初日にマーシュから教わっているので、研ぎ油の補充をしておけばバッチリだ。

 戦闘方面には手を抜かないのが「首刈り」流である。


「最初は面倒臭いシステムだと思ったけど、運次第でイイ物ゲットできるから、やっぱ変態開発会社は変態だなぁ」


 変態は褒め言葉である。

 普通に数を増やせばいいものを、手入れの状態で攻撃力が変動するなんて面倒な仕組みにしたのは、開発会社が「物理ゲーに魔法は不要」と断じたからだ。

 ファンタスティック攻撃魔法でファナティック遠隔祭り、というのは、派手で賑やかでもちろん楽しいのだが、RDこのゲームのメインテーマは「物理で殴ってデカい敵を倒す」ことである。

 一説には、ガチゲーマーで真性の変態である社長が「か弱い人間が物理でモンスター倒すから面白いんだ。魔法も変身も、ついでに属性も要らん!」と企画会議で熱弁をふるったらしいが、真相は闇の中。ナオキたちプレイヤーが知るのは、その結果として出来上がった究極のマゾゲーは面白い、という事実だけである。

 というわけで、どんなに良い武器にも「属性」というものは無い。フランベルジュで斬っても燃えないが、蜻蛉切でトンボは斬れる。そういうゲームだ。



 閑話休題、ちょっといい武器を手に入れたナオキは、ルンルンとスキップをしながら帰宅した。ゼンは普通に歩いて帰った。


「おーい、コナー!」


 表の店舗は看板が出ていなかったので、今日はもう店じまいしたようだ。

 たしか今日の店番はコナーだったな、と思い出しつつ、ナオキはコナーを呼ぶ。

 ほどなく、保管庫から「なにー?」と返事があった。


「あれ、品出し?」

「うん、胃薬が結構減ってたから。あ、ちょっとナオキこれ持って。これとそれとあれも持って」

「オッス、オラ荷物持ち! もう持てないぞ!」

「筋肉が足りないんだよ。それ、店のカウンターに置いといてー」

「ど、どこへ行くんだコナー! 俺を置いて行くなー!」

「さよならナオキ、君の事は忘れない!」


 馬鹿だ。


 流れで商品の補充を手伝いながら、ナオキはコナーに明日の予定を尋ねる。


「明日? 殺鼠剤の材料が足りないから、薬師会事務局で探そうかな、って」

「じゃあ、俺と薬草採集行かないか? 今日、魔法講習受けてきたから、クエスト同行も問題ないし」


 クエストに組合員以外が同行するには、クラス5以上で魔法使用講習を受講済みであることが条件だ。


「おー、早いね! 父さんに相談してみるよ。ちょうど納品期限があるやつ頼まれててさ」

「今度は何を殺す薬だよ」

「え、普通に殺虫剤と駆虫薬だけど」

「無害そうなのにソッチ系が得意とか、おまえ実は怖いわ」

「そんなことないって。人が飲んでも即死はしないし」

「言い回しが嫌だ!」


 つまり遅効性だそうだ。

 薬と毒なら毒が得意なコナーである。

 見た目は長身痩せ型で金髪緑眼の無害そうなイケメンなのに、殺鼠剤を買いに来たお客さんと、

「この薬だと、少量摂取したら泡吹いてのた打ち回って十分くらいで死ぬから即効性がありますよ」

「もっと綺麗に殺せるのがいいわねぇ」

「それならこっちの、巣に戻る頃に痙攣し始めて身動き取れなくなって衰弱死するやつがオススメですね」

 なんて薄ら寒い会話を笑顔で交わしていたりする。

 見た目が怖い(※オブラート)リーバー父ちゃんなんて、五十人くらい埋めてそうな外見なのに生薬が得意で、用法用量に加えて食餌療法なんかも丁寧に分かりやすく説明しているのだから、薬師って見た目で分からない。リーバー父ちゃんが主婦に人気なのも分からない。買い物帰りの主婦が、

「リーバーさんって丁寧に教えてくれて、優しい良い男よねぇ」

「うちの旦那の腰痛も、リーバーさんに教わった薬と食事で良くなったのよ。あんな男前なのに気取らなくて、親切で素敵だわぁ」

 とか会話してるのも分からない。主婦フィルターか何かか。


「あ、夾竹桃ネリウムソフォラがあったんだけど、何かに使える?」

「おおー! いいね、僕大好きだよ夾竹桃!」

「有毒植物を大好きとか、おまえ本当残念だよなー」

「ん、何が?」

「なんでもない」


 コナーは、ちょっと変なスイッチがあるだけなのだ。

 まあ、ナオキが言うのも「お前が言うな」であるのだが。木材に大興奮する少年だって大概だ。


 その後、無事にリーバーから外出許可を貰ったコナーである。

 代わりに、期限が近い薬品(※殺ナントカ剤)を今夜のうちに仕込んでおけ、と調剤室に蹴り込まれていた。

 扱いは雑だが、これでもリーバー薬品店期待の新星であり、アズーリ一の腕前を持つリーバーの直弟子である。

 本当だよ!



「明日は、やっとコナーとクエストだ。どうなるかな」


 ゲーム内でも、NPCをクエストに連れて行くことは可能だった。

 NPCはほとんどの場合、攻撃能力を持たない一般人だ。ゆえに討伐系クエストではただの足手まといだが、採集系クエストでは自動で対象物を集めてくれるスグレモノである。

 ナオキがゲームで連れて行ったのは、その時自由に動けるコナーだった。ヒルダはオープニングでの怪我が治っておらず、絶対安静の時期だ。

 あの時は、まだ薬草の見分けがつかなかったナオキを尻目に、びっくりするほどの速度でとんでもない量を集めていた。ナオキがしたことと言えば、周囲を警戒してハグレ赤鹿レッドエルクを一頭狩ったくらいだ。

 男主人公時のコナーは、主人公に薬草・毒草の種類を教えてくれるNPCだった。ご丁寧に図鑑風の画面を出してくれて、ライブラリでも閲覧可能だったので、非常に覚えやすかった記憶がある。


 では、それが「ここ」でどういう扱いになるか。

 クエストの同行はイベントではない。ストーリーにも絡まないが、初回は薬草の説明があるため、チュートリアルの派生とも言える。

 しかし、この世界に紛れ込んで三週間程度、周囲の人々は「人間」だった。決まりきったセリフと行動に縛られたNPCではなかった。

 コナーもヒルダもリーバーも、組合ギルドのアデレイドやライリー、マーシュや、木工所の面々。

 彼らは紛れもなく()()で、彼らには彼らの性格や趣味嗜好や生活や人間関係があった。


(コナーはもう、俺が薬草の種類分かるって知ってる)


 ナオキは既に、一人で薬草採集ができる。レアリティの高い一部の薬草は、組合の冊子に挿絵つきで説明があるので、本職コナーよりは時間が掛かるが見分けは可能だ。

 であれば、薬草の種類を説明するコナーの役割は、もう必要が無い。

 その説明役コナーを連れて行くと、一体どうなるのか。初めてコナーを同行させると発生する「薬草の説明」は、果たして有るのか、無いのか。

 行動パターンから逸脱した幼馴染負傷イベント(オープニング)凶狼サベッジウルフのように、必要が無くても説明するのだろうか。

 本来は起こらないはずの「組合登録を勧めた」ヒルダのように、何らかの改変を受けて行動が変化するのだろうか。

 もっと言えば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



 考えても分からなかったのでナオキは寝た。



 シリアス展開あると思った? 残念! ナオキの脳味噌はシリアルで出来てるんだ!



あんまり後書きで遊んじゃいけないかなって思い始めた(゜∀。)


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