第一話
・チートはありませんが素の状態で既にチートくさい。というかむしろ周囲がチート級だらけ。
・深刻な女子不足。
・地の文がテンション高い。時々暴走する。
・基本的に主人公視点三人称。一人称になることは無いと思う。
・深く考えたら負け。
・木曽はよいとこ。
以上の要素で「おっけー大丈夫」という方はどうぞ。
無理そうなら無理しないでくださいね。特に三つ目。
※7/28 細部修正
遠藤直希は高校生である。
長野県木曾郡木曽町在住、木曾竜胆高等学校木工科二年C組に籍を置く、正真正銘、堂々たる高校二年男子(17歳)である。
生まれも育ちも木曾郡木曽町、じいちゃんばあちゃん父ちゃん母ちゃんと二人の姉ちゃんと七人で暮らす、戸籍上極めて平凡な青少年男子である。
じいちゃんばあちゃん父ちゃん母ちゃんがちょっとばかり武道の達人共であり、暇を持て余した戦神の余興とばかり頻繁に終末戦争が勃発しては一朝夕に和平条約が締結されてまた週末に戦争が始まって、と多少騒がしい家庭ではあるが、書類上この上なく普通の男の子である。
上の姉は超が付く酪農バカで、素で牛と会話出来たり「うちの牛は私の愛人!」と高らかに宣言しては木曾酪(木曾郡酪農業協同組合)の皆々様から暖かいご支援を頂いたりしているが、彼女も傍から見る分には普通である。
下の姉は超が付く剣道バカで、その筋では結構な有名人である剣道家のじいちゃん直伝の必殺技を主武器に三大大会制覇を狙う、玉竜旗に極めて近い高校生(※女子高生ではない)だが、彼女も他所から見る分には普通である。
直希自身はものづくりとゲームが好きなフツメン高校生であり、地元って田舎だよなぁ都会いいなぁなんて思いつつ就職するなら地元だよなぁなんて想像がするりと出てくる、とても一般的だろう高校生である。
そのはずである。
そのはずなのだが、しかし、直希は現在、全力で首を傾げている。
なぜなら、彼は今、金髪緑眼の少年(名前:コンラッド)に手を引かれ、木曽町が田舎なんて片腹痛い、本物の田舎とはこの場所の事を言うのだッ! とばかりにド田舎な集落(もしかしたら村、ひょっとしたら町かもしれない)から森へと伸びる無舗装の道を、どう見ても高校の制服でも私服でもない格好でテクテク歩いている(※歩かされている)ところだからだ。
(あれっ、俺ふつーに下校中だったよな? 学校から家に向かって国道歩いてたよな?)
それが何故どうして森の香も清々しい田舎道をアウトランダーしちゃっているのだろうか。
ってか赤いアウトランダーかっこよすぎる。直希的には赤いランエボとタメ張るくらいかっこよすぎる。赤は正義。
(……あれ、でもこれ、なんかどっかで見たような覚えが……)
まったく見知らぬ場所かと言われれば見知らぬ場所なのだが、直希はこの景色をどこかで見た事があった。
3Dでは初見だが、2Dでは知っている。
つまり平面で。画面の向こう側として。
(……RDの「森の街道」、だよな)
別名をAE街道、またはSDR。
ここはRDの初期フィールドによく似ている。
リアルダウティ、とは。
端的に言うなら、ゲームである。
一般的な大分類ではアクションゲーム、プレイヤーからの評価は「究極のマゾゲー」、モン○ンと双璧を成すサバイバル系ハンティング。
プラットフォームであるPS3-5のコントローラーを最初からガン無視して専用コントローラー同梱、それゆえにダウンロード版は無くパッケージ版のみという挑戦心溢れる売り方。
発売から十年が経過して続編は出ておらず、完成された舞台にDLCが少々スパイスを効かせる、ストイックかつ堂々たる内容。
中世以上近世未満という絶妙な世界観と、魅力溢れる魔物、そして殺る気と鬼畜度マシマシで勝てる気なんてしない、もちろん「勝たせてはくれない」歯ごたえバツグンのボスたち。
スタッフはドSに突き抜け、プレイヤーはドMかつドSでなければ先へ進めない、そんな難関ゲームがリアルダウティである。
(いやいやいや、え、有り得ないっしょ)
そう、この景色がどれほどRDの「森の街道」に似ていたとしても、RDはゲームなのだ。二次元であり、フィクションなのだ。
森の街道があるのはペルグランデ大陸北東部であって、日本列島ではないのだ。
けれど、そんな常識的な反論を許さないだけのリアルさがある。
説得力と言い換えてもいい。
それは例えば、路傍の木々の葉擦れの音だったり、あっちの方で脈絡無く揺れている下草の動きだったり、薄闇以上木漏れ日未満の森の明るさだったりするのだが、直希の目には「現実の、三次元の、本物の森(間伐は手抜き気味)」にしか見えない。
木曾檜、という言葉を聞いた事があるだろうか。その名の通り、木曾に産するヒノキである。
数百年前からずっと、木曾の山々には杣人がいた。山の木の人、すなわち樵、林業従事者だ。
直希の通う木曾竜胆高校は木曽町にある。杣人お膝元、木曾檜薫る緑の谷で、竜胆高校は「ある意味最強」だった。
学力ではない、進学率でも就職率でもない。もちろん全校生徒数や敷地面積でもない。
竜胆高校は「キングオブ杣」を目指し、ドキュメンタリーで60分枠の特集が組まれるレベルの杣=林業従事者を育てている、林業特化の高校なのだ。
普通科、理数科、木工科、建築科、環境科学科と五コースあり、ヒエラルキーは環境科>建築科≧木工科>理数科=普通科。判断基準は「学有林内での強さ」つまり林間パルクール熟練者と化した環境科(実地研修多め)が最強。「お前、ちょっと学有林来いや」は他校で言う「ちょっと体育館裏(倉庫裏)来いや」と同義である。
体育の授業で「マラソン」と言えば校庭や路上を走るものだが、竜胆高校にはマラソンの他に「パルクール」が有ったりするから恐ろしい。三年生にもなれば全員が立体機動を楽々こなすようになる。ジャージが和服だったら確実に「OH!! NINJA!! JAPANESE NINJA,YEAHHHHHH!!!」とかなっちゃってる授業風景である。
他にも様々にブッ飛んだ授業があるが、このようにして竜胆高校生は森の熟練者となるのだ。
無論、直希も熟練者の一人。
日々の授業と予習復習(≒自主トレーニング)と登下校により森林風景を目に焼き付けた彼にとって、森の状態と風景を識別するのは既に朝飯前である。下校中だったので夕飯前だけど。
「本物の森で、でも森の街道で……」
自慢ではないが、直希はさほど賢くない。
興味のある分野には詳しいが、そうでなければ赤点ギリギリだ。なので、論理的に筋道を立てて推測する、なんて離れ業は「目隠しして中国雑技団とパフォーマンスして」くらい難しい。
しかし、この意味分からない現状を把握するためには推測が必要であり、直希にも出来る簡単な方法(母ちゃん直伝)で思考を始めた。
(分かっている事だけを考えよう。まず、ここは本物の森で、道は使い込まれてるのに森の手入れはまちまち。あ、切り株あった……何あれ伐り方下手すぎ。周りの木が傷んでるし、あっちからこう倒したのか。いや逆だろ倒す方向、倒れたんじゃなくて倒すなら明らかに逆だろJK)
「ナオキ」
(あんな下手くそな伐り方してるし、植生も違うし、少なくともここは木曾じゃない。木曾じゃないどこかの森。比較しづらいけどAE街道の中間くらいかな、あの辺りに似てる。森が右だから、AE街道で言えば下り方面だな。気温はやや涼しい、服装を踏まえて18℃くらいかも。太陽は若干傾いている、けど時間が分からないな。午前なら温帯の春から初夏、午後なら晩秋くらいか。あとは……)
「おい、ナオキ。聞いてる?」
「……あ、うん、聞いてない」
あとは、この金髪緑眼の少年(名前:コンラッド、愛称:コナー)の事だ。
ばっちりしっかり上の空だった直希は、素直に聞いてなかったことを白状した。二人しかいないのだ、誤魔化せるとは思えない。
「はぁ、もう、しゃきっとしてくれよ。僕の護衛役はナオキだけなんだからさ」
「申し訳ない……」
へこへこと謝罪しつつ、直希は驚いていた。
周囲の環境から出来る考察は、あまり目覚しい成果を得られなかった。ぶっちゃけほとんどよく分からない。
なので、森や道と違って会話が出来るコンラッドから、何かヒントが得られればいいなあ、と思っていたのだ。
思っていたのだが。
(だからって、いきなりコレって核心じゃね?)
金髪緑眼のコンラッドを、こっそり観察してみる。主に顔立ちを。
つくりは欧米人っぽい。金髪はキラキラゴールドというよりかは鮮やかな枯れ草色。目は綺麗な緑だ。橄欖石というか、熟れた鬼木天蓼の実というか、新緑や黄緑といった色だ。
直希の母ちゃんのイケメンコレクション(ただし筆頭は父ちゃん)を参考にするならば、配色を変えたアレックス・ワトソンが似ているかもしれない。アレックス氏をもう少し田舎くさくした感じだ。
(……うん、似てる。似てるってか、そういえば見たことあるわ。ライブラリで)
直希は、コンラッドによく似た少女を知っているのだ。ヒルデガード、愛称ヒルダというその少女は金髪緑眼で、コンラッドとは双子の兄妹で、虹湖の町アズーリに住んでいる薬師の子供で、主人公と同じ17歳の幼馴染で。
『もぉ、しっかりしてよね。私の護衛役はキミだけなんだから』
直希は、さっきのコンラッドのセリフと全く同じ事を、RDのオープニングイベントで、ヒルダから言われたことがあった。
(主人公の性別は男女から選ぶ。オープニングの幼馴染は異性が自動で付いてくるから、俺だったらヒルダが出てくるはず)
RDはアクションゲームでマゾゲーでやり込みゲーであり、いっそ清々しいほどストーリーが無い。オープニングからチュートリアル終了まででストーリーも終了だ。
言っちゃえば『かくかくしかじかで戦士となった主人公の戦いはここからだ! 完!』である。打ち切りENDにしても早すぎる。
しかし、その薄すぎるストーリーは濃すぎる世界観で補いつつ、幼馴染をヒロインポジションに据えて、妄想という名の続編を各自で楽しむスタイルだ。
主人公が男性ならばヒルダを、女性ならばコナーを「幼馴染・親友以上・同い年・ライバル不在・いつでも帰りを待っている・顔面偏差値高めかつ高すぎない」という何とも美味しい相手にできるのである。
(……であるが、しかし、なんかこないだ、アプデ来てたよな)
RDはオンラインゲームではないが、バグ修正やダウンロードコンテンツ関連など、頻繁にアップデートが配信されている。
PS3-5というハードの特性(ネット常時接続可、処理能力高)を生かした、安心と信頼のサポート体制である。
そのアップデートが、つい先週辺りに来ていた覚えがあった。しかも見出しは赤字で。
直希はあまり興味を覚えなかった。関係なかったからだ。だが一応目は通した。RDの事だからだ。だから記憶の隅っこには引っ掛かっていた。
引っ張り出したその記憶によれば、アップデート内容は「幼馴染の性別選択が可能になりました」という、新規スタート勢にしか関係のない情報だ。
(…………ここまでくると、なんかなんとなく想像がついちゃってきたりするんだけど)
どう見ても現実だがRDと酷似した景色。
どう見ても三次元だがRDと同じ人物。
先週のアップデートで性別の矛盾も解消。
そしてオープニングイベントと同じセリフ。
九割九分、詰みである。
「なあ、コナー。ちょっと聞いていいか?」
「うん? 何だい?」
「これから行くのって、エイリノンなんだよな」
「そうだよ、何を今更。ついでに言えば、僕の父さんが作った薬を売りに行くんだよ。ナオキ、本当に大丈夫?」
「……あー、うん、大丈夫」
十割詰んだ。
アズーリからエイリノンへ、幼馴染と一緒に、森の街道を通って、幼馴染父謹製の薬を売りに行く。森を右手に、AE街道を下り方面へ。
直希は、アップデート後のリアルダウティをニューゲームでスタートした、新規プレイヤー(ただしRDの世界に紛れ込んでいる)になってしまっていたのだ。
木曽町は正しくは木曽郡木曽町です。木曽はよいとこ。
アウトランダー:「outland(遠隔の地、辺地)」+ 「er」。「遠く未知なる地へ向かう冒険者」の意味。
ランエボ:おれのあこがれ(・∀.)!