うそつき
私は嘘つきだから――
今日もきた、この病院に。
ふんわりと薫る四月の風に、病室のカーテンは大きく膨らんだ。輝く草木に空に雲。陽のあたり続けたベッドが、ほんのりと熱を持っている。
「やぁ」
今日もきた、この病室に。
人工呼吸器が音を立て、バイタルチェックの電子音が拍子うつ。黒い画面に緑の線。山を作り谷を作り、変わらぬテンポを刻み続ける。
「桜だよ」
今日もまた、花を添える。
伸びきった黒い髪に、しろい桜が添えられる。たった一輪だけのその花は、うずまるようにうずまった。
「ねぇ」
今日もまた、問いかける。
眠り続けるその顔に、そっと手を差し伸べる。柔らかな頬は、温かく私を迎え入れた。
「起きて」
今日も、願う。
布団の端から見える手を、そっと握りしめた。しろい手は、力なく握り返した。
「……」
今日も思う。
いつかまた、会話できることを。いつかまた笑いあうことを。
私は嘘つきだけど、はげますの。
「また、いっしょにおはなしできるよ」