1-1-5 二人の放課後(かいもの)
「んで? 何やってんだお前さんたち」
時雨はスーパーでせっせと買い物に励む、光輝と悠を見つめていた。
「いやぁ、ねーちゃんに買い物頼まれて……」
光輝は苦笑いしながら、ちょうど手に取ったスナック菓子を買い物かごの中に放り込んだ。
「ねーちゃん? お前さん、姉貴とかいたのかよ?」
「バイト先の何でも屋の店長のこと。……光輝、次はリットルサイズのお茶、五本。あとジュースもいくつか」
時雨にそう返しながらも、悠はケータイのメール画面から目を離さない。
「へいへい」
「ねーちゃんも人使い荒いよなぁ……」
飲料水コーナーで最も大きいサイズのペットボトルを抱えながらつぶやく。
「多少はお金も出るはずだから、文句は言わない方がいいと思うけど」
言いつつ、悠は大量のスナック菓子を二つ目のかごに詰め込んだ。
先ほど自分たちの上司から電話があった直後、『そうだ、ロビー用のお菓子のストックが無くなってきたので買ってきてねー以下欲しい物リストだよーん』というメールが悠のケータイに届いた。
そして今に至る、のだが。
「三万百十三円になります」
そうレジで言われ、いつも無愛想な悠の表情が凍りついた……ように光輝には見えた気がした。
「えーと、二人分合わせても……全然足りないな、これ」
「……時雨、お金持ってない?」
「わり、今日の昼飯分で全部使っちまった」
「……すんません、出直してきまーす」
ため息をつき、光輝は二つのかごを持ち直した。
「ちょっと待ってて。近くでお金下ろしてくる」
言うなり、悠は店外へ。
「……ふぅ」
レジから離れた場所で二つの買い物かごを床に置き、両手首を回す。
時計を見ると時刻は五時過ぎ。
「つかお前さんよ、こんなに何に使うんだ?」
かごから溢れんばかりの大量の菓子類と飲み物、そして使い捨て紙コップなどを時雨が指した。
「うちの何でも屋ってちょっと特殊でさ」
『協会』のシステムの説明を時雨に始める。
「普通の便利屋って、来た仕事を従業員に適当に割り振るじゃん? うちはやりたい奴がやればいい、って事で優先順。たくさん仕事をやった奴はその分給料も高くなる、って感じ」
以前「ねーちゃん」が説明していた事を思い出し、そのまま続ける。
「そういうわけで、仕事引き受け用の待合室みたいなのがあんの。これはそこに置くお茶アンド菓子だわな」
「ふーん」
続いて言おうとした「まあ、飲み食いしてるのはほとんどねーちゃんだけなんだけど」という言葉を飲み込み、
「ただしさ。俺とか悠とかはねーちゃんのお気に入りらしくて、直接仕事を言いつけられる事が多いんだよなぁ。こんな買い出しみたいに」
上司のにぱーとした笑顔を思い浮かべ、ため息をつく。
相手はシガレットチョコを咥え、腕を組んだまま話を聞いていたが。
「面白そうじゃねーか、それ」
「……え、マジで? 今の俺の話聞いてましたか時雨さん?」
「もちろん聞いてたぜ? 出来高制だったらたくさん稼げんじゃねーかって」
「……そうだといいんだけどなぁ」
そんな事を話していると、悠が戻ってきた。
「お金、下ろしてきた」
「お、サンキュー。じゃ、行きますか」
そして買い物を済ませ、店の外に出ると。
「……? あ、わり、電話だ」
ふと、隣を歩いていた時雨がケータイを取り出し、どこかと話し始めた。
「……あ? 千条が今日も休みで先輩たちがキレてる? ……りょーかい、今から戻っから待ってろ」
そして、通話を終了すると共に舌打ちする。
「ったくよー、どこほっつき歩いてんだアイツ」
「?」
「うちの部員でしばらく顔出してね―奴がいんだよ。ま、それの尻拭い行ってくっか」
言うなり、彼女はそこで立ち止まった。
「つーわけで、わりーけどオレここで学校戻るわ。じゃーなー、お前さんたち」
「さて、と」
時雨が去っていくと同時、光輝は大量の商品が詰められたレジ袋を持ち直した。
時刻は五時半。そろそろ陽が落ち、周囲が闇に包まれる時間帯だった。
「これねーちゃんに届けて、とっとと帰りますか」
言った直後、悠がケータイを取り出した。
「あ、またメール」
「……えー、まだ何かあんの?」
だが、彼女のだけではなく、光輝のケータイも同時に事なるメロディを不協和音のように流し続けていた。
新着メール一件あり。
件名『全員に告ぐ!』
本文『緊急だよーん、全員集合♪』