俺等と幽霊となんとか座流星群。
とんっと、躊躇いもなく、軽々と。
そんな風にフェンスを超えた泰名は、
ブレザーの襟を風に揺らしながら、
美しく、華麗に空を、
翔んだ。
「……なんっ……で……。」
地上にふわりと降り立った彼に問いかける。
当たり前の事のように。
「俺が幽霊だからだぁっちゃ。」
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「……人って、翔べるのね……。」
「いや、彼奴は幽霊なんだろ。」
藤谷さん、龍、Shuuta、天パ、俺。皆、泰名が空を翔ぶのを目撃していたが……信じられなかった。彼奴が幽霊だとしたらそりゃ翔べるのだろうけど、それも信じられないから困っている。
ただ一つわかる事。
泰名奏多という隣のクラスの少年が、空を翔んだ、という事。
くるりと空中で一回転して、ふわりふわりと空を翔ける様にゆっくりと下に降り、足を華麗に地につけた。Shuutaの落ち方とは、違う。怪我一つせず、教師に見つかる事なく……。
人間じゃない。
ただ、幽霊ってのも信じられない。
だったら、
「……やっぱ人間か。」
「じゃあ人間は翔べるって事ね。松坂君も本郷君も。」
「それはまた違うんだよ。」
「なんでよ。」
とりあえず藤谷さんはほっとく。
「……でもそうだよ。泰名が翔べるんなら俺等も翔べるよ。」Shuuta……。
お前、何度も落ちたよな?そして俺等を巻き込んで何度も指導食らったよな?それでもまだ翔ぶ気なの?
……やっぱ此奴、Ahoだよ。世界一の、史上最強のAhoだよ。
「美姫ー?」
同じクラスの女子の声がした。
「あ、今行くー!じゃあ、呼ばれちゃったからまたね!」
じゃあねー、と皆で手を振りかえす。
てか藤谷さんもすごいよな。俺等の中に藤谷さんに振られた人が二人。それでも普通に話せちゃうって。うん。
なんなんだろう、あの人。人間かな。それすら不思議だよ。あの可愛さはもう人間じゃないよね。あれ?なんの話してたんだっけ?
ま、いっか。
「……藤谷さんの手の振り方が可愛過ぎてまじやべぇーっ!」
「これぞ胸きゅん、だよな。」だよなってなんだよ。意味わかんねぇよ。いや、確かにきゅん、とはするけどさ。
「……あの子と付き合ったら、手ぇつないぢゃったり、とか…………き、キスしたり、と、とかっ!しちゃうんだろ!?」
「うわー、なんかもう藤谷さん好き過ぎてやばい。」きゃぴきゃぴしてるお前等が一番可愛いよ、童貞、と龍は溜息をつく。酷過ぎる。“お前等”の中に自分は入っていないけれど、それがさしているのはShuutaと天パだけど、それでも怖い。酷ぇ。
「いや、傑も入ってるよ?」
「え。」
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「星を見に行こうよ!」
そう言い出したのは、藤谷さんだった。
「何、どうしたの、いきなり。」
「明日はなんとか座流星群の日だよ!皆で屋上で見よう?」
「いや、なんとか座ってなんだよ、なんなんだよ。」
「中島とか水越とかと観れば?何時も一緒にいるんだし。」藤谷さんと仲が良い女子生徒の名前を幾つか龍がだしたが、「誘ったんだけどねー、星、興味無いって言われちゃって。」
「……じゃあ、行く?」
Shuutaがとてもとてもキラキラした目で問うた。行きたいんだろ、ほんと行きたそうな目をしやがって。素直に言えよ。寧ろ逝け。
「そうだね、星、興味有るし。」龍がイケメンオーラを出しながら笑顔で此方を向いた。
眩しい。眩しいです、朝霧龍さん。
「このメンバーで行くの?」
「このメンバーってどのメンバー?」
「俺、Shuuta、朝霧、藤谷?」
「天パ。何故俺を入れない?」
「あー、……えっと、傑。」そして何故俺の名前で悩んだ。
「うん!明日!明日行こうね!」……か、可愛い。
藤谷さん可愛い。
明日。
明日はペルセウス座流星群。
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「……朝霧ぃ。」
あ、お、と龍は後ろを振り返る。其処には、彼、通称幽霊がいた。
「どうした、えっと……」
「泰名だぁっちゃ。」
「あぁ、うん。泰名。どうした?」
彼は大きな目をくるん、と回す。「明日は流星群だねー。皆で行くんだ?」
「……な、なんで知ってるんだよ。」龍は引きつった笑顔を見せた。泰名。その男が読めなかった。
「朝霧ぃ。気をつけるんだよー?何が一番大切か、ね?」