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跳べるけど翔べなくて翔ぼうとしたら飛んだ

彼は叫んでいた。

「修太、じゃなかった、Shuuta!危ないって!」

ベランダの手すりの上に立ち、風に吹かれている一人の少年。

彼は叫んだ。

「俺はっ!鳥になったのだっっ!」

頭を抱える。

何故、こうなってしまったのか……。


##


やばい。

どうしよう。ヒットじゃん、これ。ヒット中のヒットじゃん。つーかホームランものじゃん。

一応付け加えておくが、彼は決して野球をしている訳ではない。

本郷傑(ほんごうすぐる)、高校一年生は入学して早々、一目惚れをした。同じクラスの藤谷美姫(ふじたにみき)に、だ。彼女は雪の様に白い肌で体は細く、さらりとした

「……長い焦げ茶の髪を持ち、大きな深い色の目で」

「うるせぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」

傑は隣で歩いている友の……否、友と思われる生命物体の頭をはたいた。彼の名は、Shuuta、又の名をAhoと言う。本人がローマ字じゃないと認めん、と断固として言い張るので、Shuutaだ。修太ではない。

「うっせーよ、傑。」

「なんで俺がそう言われてんだっ!」黙って耳を塞ぎ、とてもとても素晴らしい顔で睨んでくるのは朝霧龍(あさぎりりゅう)。リア充になろうと思えばすぐになれる男。だから傑は彼を好いていない。

「……。」

「冷たい目で俺を睨むなよっ!」

Shuuta、傑、龍。なんだかんだ言ってとても仲が良い三人組。


##


「なぁ、龍って翔べそうだよな。」

言い出したのは勿論Aho……じゃなかった、Shuuta。は?、と傑は呆れて笑う。

「お前、何言って」

「跳ぶことなら出来る。あ、跳馬の方の跳ぶな。」何真面目に答えてんだ、此奴。

「てかなんだよいきなり。」

「だって龍って翔ぶじゃん。」意味のわからない理由をつけられた。「確かに。」龍が答える。何納得してんだよ、てめぇ。

「でも、そう言うShuutaこそ翔びそうな名前じゃないか。ほら、風船みたいに。」

しゅうぅぅぅぅぅー……って、萎んでるぞ、おい。ta、で落下しそうな勢いだぞ。

「え、マジでー?」なんで嬉しそうなんだ。傑は頭を抱える。

すると、突然ぱたぱたと軽やかな足音が近づいて来た。

「なんの話してるの?」

女神っ!

藤谷さんっ!

なんでっ⁈

「おお藤谷さん。この三人で誰が一番空を翔べそうだと思う?」

何聞いてんだし此奴!藤谷さんに何言ってんだし此奴!そしてなんで俺も入ってんの⁈

「え?本郷君と松坂君と朝霧君の三人で?」こくこくと頷く。

即答。

「本郷君じゃないかなぁ。」

「え?」……いやいやいや。……え?なんで?

「だって、阿保な人って頭が軽くて翔びやすそうじゃない?」

いやいやいや!

阿保なのは修太、じゃなかった、Shuutaだよ!何をどう捻って俺になるんだよ!寧ろこの三人の中で一番まともだよ、俺は!

……多分!

「あ、でもそう考えると松坂君も翔べそう。」

そうそう。

「あ、マジで?じゃ、やってみようぜ、放課後!」

そうそ……っておいぃぃっ!


##


……そして、今に至る。三階のベランダの手すりの上でAhoはふんぞりかえっていた。

「松坂君いけいけぇーっ!」あれ?藤谷さんってそういうキャラだったっけ?あれ?想像と違うな。あれ?なんでだろ。前が霞んで見えないや。

「翔べー。別の意味でもいいから、地獄に向かってでもいいから。」

「死んでんじゃんかぁぁぁぁぁっ!」龍っ!

「じゃあ、日本の男中の男!」どこがだ。「Shuutaいっきまーすっ!」

「いや、マジで行くのかよ⁉」ちょ、おい、勘弁してくれよ。説教受けるのはお前だけじゃないんだぞ。セット扱いだからな。面倒臭い事に俺等も説教受けるんだからな。

「傑!説教がなんだってんだ!」なんだってんだってお前な。……。

確かに、たかが説教……。

俺っ!騙されるなっ!いや、たかが説教、されど説教……。あれ?意味がわからなくなってきたな。

そして、

本当に、

Shuutaは、

「ほらっ!俺は翔べ……」

翔んで落ちた。

「あれは翔んでないね、飛んでるね。」

もう意味がわからねぇよ。

「意外に汚い飛び方。」

藤谷さん。それも違うよ。

「あぁ……。さようなら、Shuuta……。」

「本郷君。それも違うと思うよ。」藤谷さんが無表情で突っ込んだ。


##


「いやぁ、マジで死ぬと思ったよー。」

「いっそ死んでくれれば良かったのに。」

「ん?龍、なんか言った?」

「Shuuta、幻聴だよ。やばいんじゃない?」

生活指導の教師に怒られながら、こそこそと声を交わす。

「だから止めようって言ったんだよ。」

「藤谷さん、寧ろ君はやれって言ってたと思うんだけど。」

「あーあ。入学したばっかなのにもう目ぇ付けられちゃったよ。修太のせいだ。」

「俺はShuutaだ。」それにしても、とShuutaは笑った。

「傑は良かったじゃん、藤谷さんと話せて。」え、何々?と龍が乗る。「傑、藤谷の事好きなの?」

「そーなんだよー」

なんでお前が返事してんだよー。なんでバラしてんだよー。

後でぶん殴る。

「あ、そうなの?じゃ、応援しとくよ、その叶わない恋。」

龍が笑顔で言う。……リア充め。

「俺も応援してっからな!」お前はもういい。

はぁ……。

傑は溜息をつく。

これから、どんな一年間になるんだろう。

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