第16話 いつの間にかアドバイザー
「きいてくれ、ルエン王子。今日はアリウェル様とお茶に誘われたのだ! やはり彼は博識だな、平民の暮らしについての考察をお聞きしたがとても勉強になった」
「ルエン王子、ここ数日アリウェル様にお会いしていのだが、お忙しいのだろうか? 何か問題があったのだろうか? それとも私が避けられている…とかではないと思うのだが…どう思われる?」
「アリウェル様に贈り物をしたいと思うのだが、…あの方はどんなものを好まれる? そういえば今日の予定はどうなっているだろうか?」
……私はいつから竜姫の相談アドバイザーになったのだろうか。
ルエンはぐったりと…心身ともに疲れ果てて、まだ昼間だというのにベットの上に転がっていた。いつもならこんなだらけた態度を取ろうものなら、ヒールリッドの小言が容赦なく雨、霰のように降ってくるのだが事情をしっている彼は心底同情して彼の世話を焼いていた。
「ルエン様。紅茶が入りました、温かいうちにお飲みください」
「……すまない」
よろよろと起き上がったルエンの顔色はひどいものだ。
もともと線が細いのもあって、健康的にはみえていなかったが、精神の疲労が影響しているのか今にも倒れそうな顔をしている。無意識に深い溜息をつきながら、紅茶を一口飲むと、そこから温かみが体の中に広がり、少しだけ…本当に少しだけ体力が戻ってきたような気がする。
「それにしても…アルゼール国の姫君には困りましたね」
「…困ったものじゃない。一体何がどうなって、私は毎日竜姫と顔を合わせなくてはならないのだ…」
あのお茶会から、正確に言えば皇女にアリウェルとのアドバイス?をしてから、フェリアーデは毎日ルエンのもとへ訪れるようになったのだ。しかも内容は、アリウェルとのお茶会の話、彼の好みの女性になるにはどうすればよいか、一日会わなければ彼が具合を悪くしたのではないか…と細かいところから、そんなの知らんわ!!と叫びたくなる内容まで、つらつら一時間はルエンを捕まえて話続ける。
正直、苦行の一言だ。
もともと会話が得意なわけではない。
まあ、それは優秀な兄の後ろに隠れて楽をとったルエンの自業自得でもあるのだが、相手が何を求めて話を振ってくるのか全くわからない。いや、フェリアーデの場合はわかるのだが…それは理解してはいけないものだ。自分の気持ちや思ったことを次々と話し続ける彼女の話を、どう止めたり区切ったりするのかわからず、ルエンは毎日彼女が満足するまで話を聞き続けるしかない。近衛隊長のザルバか侍女のメルが一人で飛び出したフェリアーデをみつけて、ルエンの前からつれて行ってくれるまでどうすることもできない。
「しかもだ、なぜ竜姫は私の場所がわかるんだ…!!」
もちろん、ルエンも対策をとっていないわけではない。
だが、フェリアーデはどういう方法をとっているのか、ルエンをどこにても見つけ出す。竜騎士ランバートと会った森にいっていても、自分の部屋にいても、王妃の庭に隠れていても見つけられてしまうのだ。…まるで見張られているようだが、ヒールリッドいわくそれはないらしい。
「……こんな言い方は不敬ですが…鼻が利くとしかいいようが……」
「恋愛話は、私には全くわからない! アリウェルへののろけ話なんて、実際の本人と明らかにかけ離れているのに訂正できないし、あいつの好みなんて知るか! というか、そんなことをもらせば兄上にどんな目に合うのか、毎朝毎朝、食事の席で昨日も皇女と会ったそうだな?なんて聞かれる私の身にもなってみろ!!!」
レイドリックからはあのお茶会のあと、しっかりと、ぎっちりと、アリウェルのことを何一つもらさぬよう釘をさされた身である。竜姫と会わなければ何も問題ないと考えていた自分の甘さが恨めしい…!
はぁーっと再びついたため息を紅茶を飲むとともに飲み込む。
その時、窓に向けた視線に黒い影が飛び込んでくる。
それはよく見れば、小さな鳥だった。
だが一瞬だけそれは竜の飛ぶ姿に見えて、無意識ながらも自分はどこまで竜を意識しまっているのかと呆れてしまう。だが…何故かその影から視線を外すことができなかった。
コンコン。
扉を叩く音に、ヒールリッドがそちらへと足を向ける。
開かれた扉には、ルエンも見知る侍女がヒールリッドへ何か言付けし、彼は顔をしかめながらも何かを受け取ったようだ。
「どうした…?」
「アルゼール国の姫君からお手紙です」
「…手紙?毎日会っているのに、今更?」
押しかけられてるのに?
という無言の声を二人は視線だけで交し合った。しかし、開けられた手紙に書かれていたのは意外なことで、ルエンを少し唸らせる。
良ければ明日、この国を少し見て回りたいため、案内していただけないだろうか。
アリウェルの相談はないことに、少しだけほっとした。