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第13話 竜姫からの招待状

 窓が開いていたのか、いつもより小鳥のさえずりの声がうるさくて目を覚ましてしまった。


(……もう、朝、か)


 どこか体が重く、気だるいような気がすると、しばらくの間ベットの中でごろごろしていたのだが、目覚めた意識はどんどん明確になっていき、再び眠ることができないと感じたルエンはあきらめて起き上がることにした。手早く着替えをすませ、まだ朝食までの時間があるのを確認した後、ヒールリッドが来るまでやることがないなぁとぼんやりしていたルエンだが、ふと机の上にあった本に目を止めた。それは、城の中にある図書館にいった際に、幼いころよく読んでいた絵物語の本。この国に昔住んでいたという精霊の物語。懐かしくて借りてきたくせに、一度も開かずそのままにしていたものだった。さっさと見て返しにいかないと、司書達が怒り出すかもなぁと、懐かしい鮮やかさで彩られている本をめくったものの、その絵は頭に入らず、思い出すのは昨日のことだった。


 結局、あの後は起きたことすべてヒールリッドに話すはめとなり、王族の心得の授業と称した説教を夜遅くまでこんこんと聞く羽目となってしまったのだった。彼の説教はいつにもましてしつこく、泣き出したくなるものではあったが、正直に言えば彼に話せない秘密がなくなったので心の中は軽くなっていた。しかし、アルゼール国の竜姫にかなりの恨みをもったように見受けられたが……まぁ、彼女と自分が合うことなど帰国するときまでないだろうとルエンは高をくくっていた。


「ルエン様、起きていらっしゃいますか」

「ああ、どうしたんだ、早いなヒールリッド」


 控えめなノックの後に、ルエンが起きていることを確認して入ってきたヒールリッドは、何とも複雑そうな迷惑そうな顔をしていた。


(珍しいな、ヒールリッドがここまで私のこと以外で不機嫌になっているなんて)


 心の中でつぶやいた言葉は突っ込むところが満載であったが、本人はそのことに全く気付かず、どうしたんだと問い返す。


「実は朝一番で、アルゼール国の竜姫からご挨拶がてらのお茶会に招待されました」

「……は?」


 お茶会?

 ご招待?

 ……それはなんぞや。


 まったく意味がわかっていないルエンに、ヒールリッドは深々とため息をついた。


「私がルエン様の今日一日の予定を確認しに行ったところ、姫君からのご招待をしたいというお手紙をいただいてまいりました。ルエン様とは最初にご挨拶した夜会以来お会いすることがなく、そのときもきちんとご挨拶ができなかったので、お茶会という場で改めてお話したいとのことです……が。明らかに昨日のことがランバート殿からお耳に入ったのでしょう。ちっ。ルエン様のことを知ったときのあの慌てよう。こちらが内密にといった言葉なんて聞いてはいなかったのでしょうね」



 (は? 王子?)


 ぽかんとした顔のまま、パートナーのサジュールが空気を読んで彼を後ろからつつかなければ、ランバートはいつまであのままでいたのだろう。

 実はルエンも、それはご無礼いたしましたとか、非礼をお詫びしますなど今までも似たようなことがあったとき、すぐ謝罪を受けることが多かったので彼の反応の薄さに新鮮な驚きをもってランバートを見ていたのだが、サジュールによって我に返ったランバートは子供が怯えるほどの驚きをみせてくれた。


(あ、ありえないっ!! そんなお約束のような話っ!! ま、まずい一大事だっ!!)


 そう叫んだあと、挨拶もそこそこにサジュールに乗ってぴゅーんと、もうまさにそんな表現しかしようもない素早さで彼と一匹は姿を消したのだった。きっとそのときにヒールリッドがルエンのことを言ったのだろうが、軽くパニックになっていたようなランバートには当然その言葉は届いていなかったのだろう。



「……ともかく、ラグレーン国に滞在してもう五日になるのにとか、王族を招待するなら、もっと早く招待するべきでしょうとか言いたいことはいろいろありますが、大方、今回のことの口止めで呼ばれたんでしょう」

「ああ……」


 ヒールリッドの視線がルエンの首元へ動く。無意識にそこに手をやったルエンだったが、詰襟がある服の中に隠れているので傷は見えていない。


「しかし、ルエン様。今回のことはどうするつもりです?」

「どうする? とは?」


 何もわかっていないルエンにヒールリッドはやれやれと肩をすくめた。


「確かにルエン様がアルゼール国の姫君の竜に近づいたのには咎はありますが、傷つけたわけではありません。なのに、姫君に殺されかかったなど、レイドリック様がお知りになりましたら、あの方はアルゼール国だろうが、なんだろうがきっとこの城から叩きだしますよ」

「……いや、それは無理では……」

「無理なものですか。あの姫君は我が国へご自分のご夫君を探させてもらいに来てるのです。あくまでもそれはこちら側の好意で受け入れているのであって、我が国の民を傷つける、ましてや王族に手を出したなど敵対行為以外何物でもないではありませんか」

「そ、そうなのか?」

「そうですよ! 第一、自分の竜がルエン様になびいたのは、きちんと竜のことを見ていなかったからではないですか。たった五日ばかりの滞在で、ルエン様に興味を示すなど、竜の生態などよくわからない私でもおかしいと思いますよ」


 ヒールリッドのいうことももっともだと思うが……ルエンは本当にそれだけで自分に興味をもったのかと少し疑問に思うところがあった。確かにメディサとお互いを認識するように出会ったのはあの森の中。しかし、アルゼール国の皇女が初めてこの城に来た時に、それを眺めて塔の中にいたルエンに気付き、あのころから興味を示していたのだと思う。


(私の何がそんなに気になったのだろうな)


 今ではもう二度とあんな風に会うことはできないだろうが、一度聞けるなら聞いてみたいものだとルエンは思う。


「それで、如何しますか? レイドリック様にご報告しますか?」


 レイドリックのところにはもうすでにこのことが耳に入っているだろう。

 優秀な兄のことだ、ルエンがどうして竜姫のところに招待されるのか、何を話して何を聞かれたのか、あとからしつこく聞きだされるに違いない。実を言えば、それは竜姫に殺されかけたときと同じぐらい、恐ろしいものだったりする。


「……いや、兄上にはまだ内密にしておいてくれ。もし、言うときがきたならば私が言う。今回のことは、私に非がなかったということは言えないと思っているし、そのお茶会とやらで事情なども聞くことができるだろう」

「……わかりました、それではご招待を受けることをお伝えしてまいります」


 頭を下げて部屋を出て行ったヒールリッドを見送り、ルエンは机の上におかれていた、アルゼール国の姫からの招待状を開ける。真っ白な封筒にアルゼール国の竜の紋章が薄く入っている中に入っていたのは、少し硬い二つに折られた一枚の紙。内容はヒールリッドが言ったことと同じであったが、最後の一文に少し驚く。


 わが守護獣である竜の話などもできれば、嬉しいと存じます。



 たったその一言で、ヒールリッドには絶対に言えないが少しお茶会が楽しみになったルエンだった。



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