第四話 ここは…
「連絡ありがとうございます」
数日後、卓也は真坂の連絡を受けてかおりを迎えに来た。
「私は約束は守りますよ。君が守ってくれたようにね」
真坂は言った。
「…直前になるまで忘れていましたが…」
そう、あの日樹によって忘れていた過去を思い出すまで忘れていたのだ。
ただ、強くなる。
そう思ったこと意外は。
「それでもだよ。私は過程も結果も大事にする。…かおりのことは、過程はどうであれ結果としては約束を守ってもらった。それだけでいいんだよ」
「はい」
「局員がここまでかおりを連れてきてくれるからね」
ここは、正面玄関。
送って来たときは中まで入れたが、今回はここで待つように言われた。
「はい。分かりました」
「…私は中に入ることは出来ないし、何も言えないが…」
前回、卓也がかおりを送ってきたときと同じ事を真坂が言った。
「はい」
それでも真坂は、自分が言えることを探すように思案するように目を伏せるとポツリと言った。
「恐らくかおりは…」
「はい…」
「とてもつらい目にあったと思うよ」
「・・・・・・」
「ここにいた時と、今とを比べる必要があるからね…」
「…そうですか…」
僅かな沈黙をはさみつつ会話は続いた。
「…表情が…」
「え?」
「表情が無かったそうだよ」
「…そうですか…」
卓也の声は沈んでいった。
「お出ましだね」
会話に多少の区切りがつくと、どちらとも無く黙り込んでしまった。
しかし、真坂が局員につれられてくるかおりを見つけた。
「かおり」
卓也は真坂の示したほうへ、視線をはしらせた。
「お待たせしました」
局員の背後に無言でかおりがついて来ていた。
「いいえ」
「では、引き渡します」
「…はい。行こう。かおり」
卓也の声に反応したのか、かおりは俯いた状態で足を進めた。
「・・・・・・」
「では」
反応の無いかおりの肩を抱き、卓也は歩き出した。
かおりはここに居るべきではない。
「次の検診の通知は後日に」
二人の後ろ姿を見送りつつ、局員が言った。
「・・・・・・」
卓也は立ち止まり、チラリと局員を振り返ると一言言って再び歩き出した。
「宮神様」
「…失礼します」
「あまり言うな」
二人の姿が見えなくなると、真坂が言った。
「ですが…」
「お前も研究者だな」
「・・・・・・」
「己自身もそうだがな…」
「かおり…」
車にかおりを乗せ、卓也自身も運転席に座った。
「…た…」
「うん」
「卓也…」
かおりの顔に表情が戻った。
「うん。お帰り。かおり」
卓也は嬉しそうに微笑み、かおりもそれを返した。
「ただいま。卓也」
「じゃあ。帰ろうか」
「うん」
車は走り去っていった。
とりあえずこれで終わりです。今度はもっと長い話を書きたいです…