第三話 離れて
そこには等身大の人形がいた。
いや…いるように見える。
人形のように、生気無く佇んでいるものは生きている。
人間かどうかは定かではないが、人型を持っている。
かおりだ。
卓也と別れた後、かおりは人形になってしまった。
かおり自身もなぜこうなるのか、分からない。
ただ卓也と別れた後、自然と卓也と会う前の状態に戻ってしまったのだ。
言われたことをただやる、人形に。
案内をしてきた局員は、最初、『科学者』が喜ぶだろうと思っていた。
感情豊なかおりをみて。
しかし、卓也と別れるとかおりは人形になってしまった。
扉を閉め、一歩前にいたかおりを覗き込んだ。
数秒だ。
かおりから目を離していたのは。
その数秒でかおりの心は凍ってしまった。
かつてここにいた時のように。
卓也によって解けていた心が、再び…。
かおりにもこの凍った心が元に、卓也と共にいた時のようになるのかどうかは分からない。
卓也の前に行けば自然と戻るのか、前回と同じように何かしらのきっかけが無いと戻らないのかは分からない。
しかし、今はこれでいい。
かおりは僅かに残る思考でそう思った。
ここで感情は必要ない、と…。