第9話 灰かぶり姫と赤頭巾ちゃんの華麗なるタッグ
川岸に建つ堅牢なレンガ屋敷。
その一室で、エロ狼は狼の毛皮を被り、布団の中で興奮を抑えきれずにいた。
「(ヒッヒッヒ、来たぞ。とびきり可愛い若い赤頭巾ちゃんが……!)」
扉を開けて入ってきたアシュリンは、ベッドの傍らに立ち、素の無表情で布団の盛り上がりを見下ろしていた。その手には、プロテイン(粉末)がぎっしり詰まった籠が握られている。
「お婆さん。お見舞いに来ましたですぅ。……でも、なんだか部屋の換気が悪くて二酸化炭素濃度が高そう」
エロ狼は、老婆を装った裏返った声で応えた。
「ああ……赤頭巾ちゃん、よく来てくれたねぇ。さあ、もっと近くへおいで……」
アシュリンが一歩踏み込むと、床のレンガにピシリと亀裂が入った。
「お婆さん。どうしてそんなに手が震えているのですぅ?」
「それはねぇ、お前の可愛い顔を早く撫でるためだよぉ……」
「いいえ、違うわ。それは極度の糖質不足による低血糖、あるいは前腕筋群のオーバーワークよ」
「えっ? い、いや、次は……耳だ。ほら、聞いておくれ」
エロ狼は強引に話を戻した。
「お婆さん、どうしてそんなにお耳が大きいのですぅ?」
「それはねぇ、お前の愛らしい声をよく聴くためだよぉ……」
「いいえ、違うわ。耳介筋を鍛えすぎだわ。でも残念、そこを鍛えても基礎代謝はそれほど上がらないわよ」
エロ狼は冷や汗を流した。話が噛み合わない。
だが、次がいよいよ本番だ。彼は布団を跳ね除ける準備をしながら、大きく口を開けた。
「お婆さん、どうしてそんなにお口が大きいのですぅ!?」
待ってましたとばかりに、エロ狼は狼の毛皮の被りのものを剥ぎ取り、本性を現して叫んだ!
「それはねぇ……お前をガブリと食べて(違う意味で)しまうためさぁぁぁ!!」
エロ狼がベッドから飛びかかった、その瞬間。アシュリンの目つきが筋肉モンスターのそれに変わった。
「……食べる? なるほど、でも、急激なカロリー摂取は内臓に負担をかけるわ。まずはその汚い咀嚼筋を解してあげますわ!(素)」
フンッ!!
空気を切り裂く鋭いアッパーカットが、エロ狼の顎を正確に撃ち抜いた。
「ガハッ!?」と脳を揺らされたエロ狼は、そのまま天井のレンガにめり込み、床に叩きつけられた。
「さあ、次は消化を助けるための腹部マッサージよ!」
アシュリンの容赦ないボディブローが連打で叩き込まれる。
エロ狼の肋骨が、プロテインのシェイカーを振るような小気味良い音を立てて悲鳴を上げた。
「仕上げは、全身の血行を促進させる壁へのパイルドライバー(投げ技)ですわ!」
アシュリンは痙攣するエロ狼の襟元を掴むと、そのまま部屋の隅にある重厚なクローゼットへと豪快に投げ飛ばした。
ドゴォォォォン!!
凄まじい衝撃音と共に、頑丈なクローゼットの扉がひしゃげ、中から一人の女性が静かに、しかし威風堂々と姿を現した。
かつて「赤頭巾ちゃん」と呼ばれていた、エプロンドレス姿の淑やかな熟年女性。
「……アンタ、いい『栄養』摂ってるわね。助かったわ」
元赤頭巾ちゃんは、ボコボコにされたエロ狼を冷ややかな目で見下ろした。
熟女にしては、その肌は艶やかで、姿勢は一分の隙もない。
彼女は「究極の健康オタク」だった。
「この男、『新しい赤頭巾に萌えたい』なんて言って、私をここに閉じ込めてたのよ。長年のパートナーにたいする仕打ちがこれ?!最近では私の作った無農薬・低GI・高発酵のこだわりメニューを『味が薄い』だの『肉を出せ』だの文句ばかり……」
元赤頭巾ちゃんは、のびているエロ狼の足首を掴むと、そのまま窓の外の川べりへとズルズル引きずっていった。
「ちょっと、そこのお嬢さん。手伝ってくれる? この『生活習慣の乱れた薄情で不届き者』を、川へ浄化に出したいの。冷たい水に揉まれれば、少しは根性も叩き直されるでしょう」
「ええ、喜んで、引き受けますですぅ」
二人は、エロ狼をレンガ屋敷の裏を流れる急流へと連れて行った。
元赤頭巾ちゃんが「さあ、出発よ」と合図を送る。
アシュリンは、力強い前蹴り(フロントキック)をエロ狼の尻に叩き込んだ。
「川の流れに身を任せ、強制有酸素運動に出発ですぅーー!!」
ドボォォォン!!
派手な水しぶきを上げ、エロ狼は川へとダイブした。
彼は必死に犬かきをしながら「ひ、ひぃぃぃ! 冷てぇぇ! 助けてくれぇぇ!」と叫びながら、濁流の彼方へと流されていった。
さて、エロ狼の安否を気遣う方の為に、彼のその後をお知らせです!
エロ狼は下流で親切(?)な漁師に拾われて『マグロ漁船員』になったので、安心してくださいね。
(全年齢に配慮した優しい世界)
「ふぅ。悪い気が抜けたわ。……お嬢さん、お礼に私が自作している『砂糖・小麦粉不使用、特製・薬膳プロテインバー』を食べていかない?」
「……! ぜひ、インナーケアのご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いしますですぅ!」
川岸のレンガ屋敷には、筋肉と健康で通じ合った童話のヒロインであるはずの二人の、非常に意識の高い笑い声だけが響いていた。




