第5話 灰かぶり姫は王子の愛の爆弾にうんざりする
「…けっ! なんだこれ」
翌朝、ルーカス伯爵邸の居間は、エドワード王子からの贈り物で占拠されていた。
家が建つほどの最高級香水や特大のダイヤモンドを手に、アシュリンは素の、死んだような目で毒を吐く。
「アシュリン! なんてこと言うの!!」
義母レティシアが震える中、アシュリンはダイヤモンドを指で弾いた。
「軽い。重りにもならない不燃ゴミだわ」
だが、使いの者が「殿下からの真心です!」と現れるや否や、彼女は秒速で『猫かぶり仮面』を装着する。
「……まぁ! 殿下からの贈り物ですぅ〜? 嬉しすぎて心臓がオーバーワークになっちゃいますぅ〜!」
にこやかに笑いながら、ダイヤの箱をバキッという音と共に受け取る。
この愛想笑いが、王子の狂気にガソリンを注いだ。
「そうか! 彼女は私の贈る輝きに、満面の笑みを! ならば、もっと私を感じられるものを贈らねば!」
ここから、事態は『エドワード王子のプレゼント攻撃テロ』へと発展した。
まずは、薔薇の窒息テロ。
そして、二つ並べると一つの巨大なハートになる執念のペア枕。
極めつけは、口に薔薇を咥え、胸元に手を添えたナルシストポーズ全開の等身大パネルである。
「こんな変態パネル、何の罰ゲームよ!?」
最初は忌々しく眺めていたアシュリンだったが、ふと名案を思いつく。
「(……待てよ。このパネル、ちょうどいい高さじゃない。中身を補強すれば、夜間のパンチング練習用サンドバッグとして使えるわ!)」
その夜から、アシュリンの部屋からは「ドスッ! バキィッ!」という快音が響き渡るようになった。
「死ね! 金髪粘着ナルシスト(素)」
アシュリンは日頃のストレスを全て王子のパネルに叩き込んだ。毎夜、パネルの顔面が歪むほどに連打を浴びせるアシュリン。
だが、この様子を密かに見守っていた王子の偵察部隊は、震えながら王子にこう報告した。
「で、殿下! アシュリン様は……夜な夜な、殿下のパネルを激しく抱き寄せ、汗だくになって『抱擁(格闘)』しておられます! 時折、殿下のお名前を叫びながら、その愛(拳)を叩きつけておられました!」
「なんと……! 私のパネルとそこまで抱擁を……! 彼女の愛は、もはや平面では受け止めきれぬというのか!」
王子は感動に打ち震え、ついに『究極の立体物』を贈る決意をした。
「平面の次は立体(3D)だ! 私の重みを、全身で感じてもらうしかない!」
こうして庭に運び込まれたのが、『純金製・実物大エドワード王子像(噴水機能付き)』であった。
アシュリンは素の表情で、窓から口から水を噴き出す黄金のナルシストを見つめた。
「…………(殺す。今度こそ、あの金髪ナルシスト野郎をプロテインの粉末にしてやる)」
だが、門の影に王子の偵察部隊が手ぐすね引いて待機していることに気づき、彼女は一瞬であざとい声に切り替える。
「まぁぁ〜〜! 殿下ぁ〜! 素敵すぎて、今すぐ『二人きりになれる場所へ連れて行きたく』なっちゃいますぅ〜〜!」
アシュリンは偵察部隊に向かって笑みを振りまきながら、300kgの黄金像をひょいと肩に担ぎ上げた。
「殿下の分身と二人っきりで、深い愛を語り合ってくる(物理的に埋める)んですぅ〜〜!」
そのままアシュリンは黄金像を担いだまま、屋敷を抜け出して森へと爆走。
自慢の怪力で穴を掘ると、大量の土を被せて完璧に隠滅(埋葬)した。
さて、この『黄金像テロ』を含む一連のプレゼント攻撃は、ついに、国王陛下の逆鱗に触れることとなった。
「エドワード! 一体、アシュリン嬢への贈り物にいくら使ったのだ!? 国家予算を湯水のごとく使いおって! 国庫は無限ではないのだぞ!!」
国王は眉間に深い皺を刻み、机を叩いて激怒した。
香水、ダイヤモンド、そして純金製の巨大噴水像。その総額は、一地方の年間予算に匹敵するレベルに達していたのだ。
しかし、糾弾されたエドワード王子は顔色一つ変えず、むしろ「父上は愛の深さがわかっていない」と言いたげな、勝利を確信したドヤ顔で言い放った。
「父上、落ち着いてください。これは必要な『先行投資』なのです。アシュリンのような至高のレディを射止めるためには、私の『無限の財力』を見せつけるしかないのです! 『愛は金で買えない』などというのは、金を持たぬ弱者の言い訳ですよ!」
「…………なんだと?」
絶句する国王を余所に、王子は自慢の細い足首を強調するポーズで力説を続ける。
「見てください、私のこの溢れんばかりの『金』の力を! 彼女は現に、私の分身(黄金像)を肩に担いで、誰にも邪魔されない森の奥へと消えていったほど、私の『金力の輝き』に酔いしれているのですよ! 彼女は今頃、黄金の私に抱かれて愛を囁いていることでしょう!」
王子は、アシュリンが黄金像を『重すぎる不燃ゴミ』として不法投棄しに行ったとは微塵も思っていない。
「エドワード……。お前は愛を語る前に、まずは算数と民衆の生活を学び直せ。そもそも、恋愛に国を傾けるほどの金を使うバカがどこにいる……っ!」
国王は頭を抱えて唸った。
目の前で、子鹿のような足を見せびらかしながら「愛=札束の量」だと信じ込んで、微笑む息子。
その瞳には、国民の生活も、国の未来も、一ミリも映っていない。
「(……このアホの子で、本当に大丈夫なのか。我が国の未来は、こんなナルシストで散財家な息子に託されてしまうのか……?)」
国王は、その場でこっそりと『王位継承権の順位変更』をメモに書き留めた。
エドワード王子の未来がわずかに、しかし致命的に傾き始めた事を彼は自覚すらしていなかった。




