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第15話灰かぶり姫の復興支援と黒タイツ王子の執着が生んだ終身刑

お茶を飲み終え、和やかな空気が流れる中で、ふと現実的な問題が浮上した。

「……ところで魔女さん。魔力の源だったその鏡、壊れたままで大丈夫なんですの?」


アシュリンがヒビの入った巨大鏡を指差すと、魔女は力なく肩を落とした。


「大丈夫なわけないだろう。これがないとあたしはただの『口の悪い婆さん』だ。……だがね、これを直せるのは森の奥深くに住む偏屈なドワーフの技師だけなんだよ。あいつを呼んで修理させるには、金貨が山ほど必要さ。家も壊れた今のあたしに、そんな金はあるわけないだろう……」

魔女の言葉に、部屋は再びお通夜のような沈黙に包まれた。


「私のせいですわ……」とアシュリンが再びチクリと胸を痛めた、その時。


「……そうだ。僕たちの主人、エドワード王子にお金を出させればいいんですよ!」

親衛隊の一人が、頭の上に電球が光ったような顔で「ピコーン!」と指を立てて言った。彼は更に続ける。

「王子は無駄に裕福です。アシュリンさんがお願いすれば、国庫の半分を差し出す勢いで金貨を積むはずです!」


他の親衛隊たちも「それだ!」「名案っす!」と激しく同意し、一斉にアシュリンを凝視した。

アシュリンは眉間に深い皺を刻み、露骨に嫌悪感を露わにした。


「嫌、無理です!どう考えても無理です!生理的に無理です!」

そうは言ったものの、寂しそうに鏡の破片をいじる魔女の姿が、再び彼女の良心を刺激した。


彼女は覚悟を決めて、一度息を吐いた。

「……分かりましたわ。魔女さんのためです。ひと肌脱げばよろしいのでしょう、ひと肌(広背筋)を」


その時である。

「アシュリィィィィィィン! 今戻ったよォォォォ!」


館の天井に空いた巨大な穴から、キラキラとした光と共に人影が降ってきた。

先ほどのアッパーカットで成層圏まで吹き飛んだはずのエドワード王子である。彼は大気圏突入の摩擦にも耐え、愛の力だけで自力で戻ってきたのだ。


しぶとい。あまりにもしぶとい。


アシュリンは、背後に迫る王子の気配に全身の毛穴が逆立つのを感じたが、即座に『猫被りの仮面』を装着した。筋肉の威圧感を消し、肩をすぼめ、潤んだ瞳で振り返る。

「……王子。お戻りを、ずっとお待ちしておりましたわ(※心の中では殺意の波動)」と心にもない言葉は棒読みだった。


「なっ、なんだって!? ああ、やはり私の帰還を待っていてくれたのか! 今の衝撃で愛が深まったようだね!」


「ええ……。実は、この親切な魔女様の鏡が、不慮の事故で壊れてしまいましたの。これを直して差し上げたいのですが、私には力がなくて……。王子、助けていただけませんか?」


アシュリンは小首を傾げ、あざとく、そして可憐に王子にお願いをした。王子の脳内では「アシュリンが僕を頼っている!」という快楽物質が異常分泌され、正常な判断能力を完全に消失した。


「任せたまえ! ドワーフでもドラゴンでも、金貨で動くならいくらでも呼ぼう! 支払いはすべて我が王室の経費だ! 領収書は『愛の修繕費』で切っておくよ!」


アシュリンへのプレゼント攻撃で散々経費を使い、国王に呼び出されたというのに、エドワード王子は救いようのないアホだった。


数時間後、森の奥から背丈は低いが肩幅は広い、頑固そうなドワーフの技師がやってきた。


「やれやれ、誰かと思えば、いばら姫の成れの果てじゃねえか。鏡を割るとは、相変わらずガサツな婆さんだ」

「うるさいよ、ヒゲだるま。あたしが割ったんじゃないよ。……まあ、不慮の事故だよ」


ドワーフは毒づきながらも、どこか楽しそうにリズムよくハンマーを振るい始めた。


数日間に及ぶ突貫工事とエドワード王子の湯水のような出資により、ついに「真実の巨大鏡」が輝きを取り戻した。


「ふぅ……。ようやく魔力が戻ってきたよ」


魔女が鏡に手をかざすと、表面が水面のように波打ち、真実の光景を映し出した。アシュリンは身を乗り出し、逃げた七人の媚人たちの居場所を問い詰める。


「鏡よ鏡、七人の媚人たちは、今どこで何をしているんだい?」


鏡の中に映し出されたのは、隣の国『エガオ王国』ののどかな牧場だった。

しかし、そこにいた媚人たちは全員が縞々の囚人服を着せられ、巨大な牛の足元で必死に乳搾りをさせられていた。


「……あ、あれは? あのような場所で、プロテイン用の生乳を精製しているのですか?」


「いや、違うね。鏡が語るには、こいつら隣国でも懲りもせず同じ事をしようとしてたみたいだね」


魔女の解説によれば、彼らは身寄りのない美少女を言葉巧みに連れ込んでは、媚びまくって太らせ、『わがままボディの美少女』として好事家の貴族たちに出荷しようとしていた。


だが、運が悪かった。その国の王子は『爆乳美少女』への執着が異常な、黒タイツを履いた筋金入りのフェチシスト万年王子だったのだ。


彼は激怒した。

「なぜ、そんな素晴らしい逸材を、私の知らないところで他の男に流通させるのか!」と。


身勝手な理由で、王子の独占欲が爆発した結果、媚人たちは『国家最重要資源の無断輸出』という歪んだ罪状で捕縛され、牛に罪を詫びる乳搾り係としての終身刑を言い渡されたのである。


「そんなぁ……。私の快適な筋肉生活が、永久に失われてしまいましたわ……」


アシュリンはガックリと膝をついた。快適な寄生生活の終焉。

絶望する彼女を見て、魔女は少しだけ同情したように目を細めた。


「……まぁ、そう気を落としなさんな。ついでに、あんたの『未来の結婚相手』でも占ってやろうか? 希望が見えれば、未練も断ち切れるだろう?」


魔女の提案に、エドワード王子が「ぜひ占ってくれ! 私の名前が出るはずだ!」と身を乗り出す。

だが、アシュリンはスッと手を挙げ、それをきっぱりと拒絶した。


「いいえ。未来を見る必要はありませんわ。未来を知ってしまえば、それがろくでもない未来なら絶望するだけですし、希望に溢れていても、それに胡坐をかいて努力を忘れてしまうでしょう? 未来は予言されるものではなく、自らの手でねじ伏せ、手繰り寄せるものですわ」


「……フン。あんたらしい答えだね。だが、嫌いじゃないよ、その自信は」


魔女は苦笑しながら、鏡にかけた手を下ろした。予言に頼らず、今日一瞬を信じる。それがアシュリンの生き様だった。


これ以上森に留まる理由はない。アシュリンは屋敷に戻ることを決意した。


「さて、王子も親衛隊の皆さんも、屋敷まで護衛していただきますわよ。……あら? 一人足りませんわね」


振り返ると、親衛隊の一人が元赤頭巾ちゃんの前に跪いていた。

「僕は……僕はここに残ります! あなたに一目惚れです。貴方のしもべとして一生お仕えします!」


「あら、嬉しいわね。ちょうど高い場所の掃除を手伝ってくれる相手を探していたのよ」


元赤頭巾ちゃんは満更でもない様子で、親衛隊の一人の手を取った。

まさかの「恋のバルクアップ」の成立だった。


「行きましょう、もう未練はありませんわ」

快適な生活は失われたが、彼女は何故だか清々しい気持ちで森を後にした。


さて、皆が出て行った静かな部屋で、魔女は再び鏡に向き合った。

「……あの子はああ言ったけれどね。やっぱり気になるじゃないか」


魔女は一人、こっそりとアシュリンの未来を覗き込んだ。

波打つ鏡の表面に、ぼんやりとある光景が浮かび上がる。

そこに映し出されたのは――。


「……へぇ。あの(可愛げのない筋肉娘の)アシュリンが、こんな屈託のない顔をして笑うのかい。それに、隣にいるその男は……ヒヒッ、なるほどね」


魔女は鏡に映った『意外な結末』に、ニヤリと意味深な笑みを浮かべた。


それがどのような未来なのか。

それは、のち(まだまだ先の最終回)のお楽しみである。

何部構成とかしてませんが、

一応第一部終了です。

次回からは第二部に入ります。

新しいキャラが登場しますので

お愉しみに!

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