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第13話 灰かぶり姫は魔女の精神攻撃に苦戦する

筋肉モンスターvs魔女…


ついに火蓋が切って落とされた。


「よくも……よくもあたしの家と、あたしの可愛いダーリンを!! ただで済むと思うなよ、この筋肉馬鹿令嬢がぁ!!」


魔女は逆立った髪を振り乱し、館の奥から黒い杖を取り出した。彼女の背後で禍々しい魔力の渦が巻き起こる。その中心にあるのは、魔女の力の源であり、この世のあらゆる真実を映し出すという「真実の巨大鏡」だ。


「消えちまいな! 跡形もなく、ドロドロのプロテインに変わるがいい! 暗黒転換魔法ダーク・バルク・チェンジ!!」


魔女が叫び、杖を振り下ろす。アシュリンは「ほう、未知の負荷トレーニングですわね」と平然と胸を張って受け止めようとした。


……だが。


「……? あれ、出ないね?」

魔女が杖を振るが、火花一つ出ない。


スカッ、スカッ、と空を切る音だけが虚しく響く。


「どうしたんだい!? 出ろ! 出なさいよ! あたしの必殺魔法!!」


魔女が慌てて背後の巨大鏡を振り返ると、そこには無惨な光景が広がっていた。

先ほどアシュリンが床をブチ抜き、建物の構造を無視して大暴れした衝撃で、巨大鏡のど真ん中に「メキメキッ」と巨大なヒビが入っていたのだ。


「あああああ!! あたしの魔力供給源がぁ! インフラが死んでいるぅぅ!!」


「あら。機材トラブルですか? メンテナンス不足は怪我の元ですわよ、魔女さん」


アシュリンが事も無げに言うと、魔女のプッツンと何かが切れる音がした。魔法が使えない。魔力がない。もはや彼女に残された武器は、百年以上生き恥を晒してきた中で磨き上げられた、「強靭な声帯」と「汚い言葉」だけだった。


「うるせえええ! この、歩く鶏ササミ! 血管浮き出すぎなんだよ、地図かよ! その太もも、丸太の代わりにされて出荷されちまえ!!」


「な……ッ!?」


アシュリンが初めて怯んだ。物理攻撃ではない。言葉による精神的メンタルな揺さぶりだ。


「何が健康だ、何が筋肉だ! 鏡を見な、あんたの顔は可愛いかもしれないが、やってることは更地さらち職人だよ! 誰がこんなガサツな女を嫁にもらうんだい! 王子?いや他の男もごめん被るだろうよ!」


正直なところ、空の彼方へ消えたエドワード王子がどう思おうが、アシュリンにとってはプロテインのダマほども価値のない問題だった。しかし、「他の男」という言葉は別だ。


彼女の脳裏には、唯一無二のターゲット――森の最強の狩人、シンシアスの姿が浮かんでいた。


彼を射止め、その屈強な腕で毎日新鮮な「イノブタラ」を仕留めて調理してもらい、自分はそれを食らう。そんな「永久イノブタラ供給生活」というささやかな、しかし食欲に満ちた夢を抱いている彼女にとって、「男に拒絶される」という呪詛は、夢の食卓がひっくり返されるに等しい絶望だった。


「(イノブタラのソテー……。イノブタラのプロテインサラダ……。シンシアス様に嫌われたら、私の理想の食生活が……ッ!!)」


アシュリンの美しい瞳に、かつてない動揺が走る。


「ひどい……。バルク(容積)のある暴言ですわ……。先生、この方の口、アンチエイジングが必要ですわ!」


「ええ、アシュリンさん。口内の細菌バランスが崩れている証拠ね。後で塩で清めないと。でも安心して、アシュリンさんの筋肉を理解できない男は、そもそもこちらからデトックス(排除)すべき対象よ」


元赤頭巾ちゃんのフォローを受け、アシュリンはなんとか精神を立て直した。


そこから数分間、魔女とアシュリン(語彙力)のぶつかり合いという名の、シュールな罵倒合戦が繰り広げられた。

魔女の「クソババア・パワー」は凄まじく、アシュリンのメンタルを容赦なくプロテインシェイカーのように揺さぶる。


だが、結局。

「……はぁ、はぁ……。もう、言葉が出てこないよ……」


喉を枯らした魔女を、アシュリンが壁際に追い詰めた。アシュリンの右拳が、魔女の鼻先一ミリで止まる。その風圧だけで魔女の顔が歪んだ。


「さて。占っていただきましょうか。脱走兵たちはどこへ逃げたのです?」


アシュリンが(物理的な圧を伴う)微笑みを向けると、魔女はボロボロになりながらも、ニヤリと不敵に笑った。


「ヒッ、ヒヒ……。ざまぁないね。さっき言っただろう? あの鏡にヒビが入ったんだ。鏡が壊れた今、あたしはただの『口の悪い婆さん』だよ。占う魔力なんて、一滴も残っちゃいないのさ!」


「……なんですって?」


「そうよ。あんたが壊したんだ。あんたのせいで、居場所は分からずじまいだ。……アハハ! いい気味だい!!」


アシュリンは立ち尽くした。


媚人たちを連れ戻すための唯一の手がかりを、自らの「調整不足(破壊衝動)」で握りつぶしてしまったのだ。

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