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第11話 灰かぶり姫は媚人たちに脱走される

エドワード王子とその親衛隊を魔女の元に送り込んだことで、媚人たちはついに魔女との約束から解き放たれた。


魔女は「上質な男がこんなに!」と大喜びで王子たちを檻に詰め込み、彼らの債務は完済されたのである。


「……今だ。アシュリン軍曹が、プロテインによる深い眠りについている今しかない!」


深夜、小屋の隅で息を潜めていた七人の媚人たちは、わずかな身の回りの品を詰んだリュックを背負うと抜き足差し足で小屋を抜け出した。


目指すは隣のエガオ王国。


そこには「上半身は常に裸、下半身は黒タイツ」という、別の意味でヤバい万年王子がいるという噂の国だ。


だが、今の彼らにとって、その国は希望の楽園に見えていた。


「あそこまで逃げれば、流石にあの筋肉モンスターや健康オタク教祖に遭遇することはないだろう……!」


暗い森の道。街灯も何もない不気味な夜道だが、彼らの心は晴れやかだった。自由への喜びが爆発し、彼らはいつしか、どこかで聞いたことのあるようなメロディに乗せて合唱を始めた。


「♪オラ、こんな森嫌だ、こんな森嫌だ~、隣の王国行くだ~!」

「♪王国に着いたら、美少女拾って~」

「♪王国で『わがままボディ』育てるだ~!」


彼らは懲りることなく「次のターゲット」を夢見て、スキップ混じりで国境を目指して歩いて行った。彼らにとって『わがままボディの美少女』を育ててドナドナするという執着だけは、筋肉よりも強固なものだったのである。


翌朝。

鳥のさえずりだけが聞こえる静かな室内で、アシュリンはゆっくりと目を開けた。


「……おかしいわ。いつもなら五時の時点で、皆さんの『スクワットによる膝のきしみ』が聞こえてくるはずなのに」

アシュリンは寝床から起き上がると、小屋の中を見渡した。


静まり返ったリビング。いつもなら彼女の朝食の準備(あるいは逃亡の相談)で騒がしいはずの七人の媚人たちの姿が、どこにもない。


「皆さん? 朝のプロテイン・タイムですわよ? 遅刻はペナルティ1000回ですわよ?」

返事はない。アシュリンは不思議に思い、重厚な足取りで小屋の扉を開けた。


すると、扉の外側に一枚の汚い紙切れが貼り付けられているのが目に入った。


そこには、震える筆跡でこう記されていた。

―七人の媚人は引っ越しました、探さないでください。―


数秒の沈黙。

森の空気が、アシュリンから放たれる圧倒的な熱量(バルクアップされた覇気)によって、みるみるうちに加熱されていく。


「……引っ越した?」

アシュリンはその太い指で、張り紙をゆっくりと、しかし確実に「引きちぎった」。


紙が破れる音ではない。それは、何かが「断裂」したような鈍い音だった。


「私の許可なく、部隊を離脱(脱走)するなんて……。これはもはや、トレーニングの範疇を超えた『反逆』ですわ。私が追いかけていって強制的にパンプアップさせてあげなくては……!」


アシュリンの手の中で、引きちぎられた張り紙は握りつぶされ、一瞬で紙屑(プロテイン粉末のような微塵)へと化した。

その瞳の奥には、逃げた媚人たちへの「熱い指導」という名の執念が燃え盛っている。


しかし、広大な森の中。

闇雲に突き進んでも、逃げ足だけはプロ級の媚人たちを捕まえるのは効率が悪い。


「さて、どうやって居場所を特定しましょうか……」


アシュリンが筋肉をピクピクとさせながら索敵スキャンを開始しようとしたその時、背後から

「あら、おはよう。今日も良いツヤしてるわね」と涼やかな声がした。


川岸のレンガ屋敷からやってきた、健康オタクの元赤頭巾ちゃんだ。


「赤頭巾先生。おはようございます。実は、媚人たちが勝手に配置転換(夜逃げ)をしまして。追跡しようにも、この広い森では少々効率が悪いですわ」


アシュリンの事情を聞いた元赤頭巾ちゃんは、顎に手を当てて優雅に微笑んだ。


「あら、それなら話は早いわ。森のことなら、あの『魔女』に占わせるのが一番よ。あそこは呪いだけでなく、透視や探知魔法の専門家だもの。行くのなら私が道案内をしてあげるわ」


「魔女に占わせる……。なるほど、科学的(魔法的)なアプローチですね。素晴らしい提案ですわ、先生! さっそく参りましょう!」


アシュリンは元赤頭巾ちゃんの助言を素直に受け入れ、意気揚々と歩き出した。

二人は迷いのない足取りで、森の最奥にあるという魔女の館へと向かった。


まさかその場所で、自分を探しに来た王子一行が檻に詰め込まれているとは、アシュリンは露ほども思っていなかった。

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