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第10話 灰かぶり姫追い出し作戦失敗でピンチの媚人たちは売られる寸前!起死回生はあのナルシスト

媚人たちの計算では、今頃アシュリンはエロ狼の館で「赤頭巾ちゃんごっこ」の犠牲となり、自分たちは又『わがままボディ』の美少女を育ててドナドナする商売でひと稼ぎする生活に戻っているはずだった。


だが、現実は非情である。


「おっはよーございまーす! 皆さん、今日も細胞が喜んでますかぁ!?」

朝の五時。アシュリンの野太い気合の声に加え、もう一つ、鈴を転がすような、しかし一切の拒絶を許さない澄んだ声が小屋に響き渡る。


川岸のレンガ屋敷から「出張指導」にやってきた元赤頭巾ちゃんである。


二人はすっかり意気投合していた。

アシュリンが提唱する「破壊と再生の筋肉理論バルクアップ」に、元赤頭巾ちゃんの「内側からのデトックス理論インナーケア」が融合。


それは、媚人たちにとって『逃げ場のない完全なる地獄』の完成を意味していた。


「さあ、お前たち! 今日の朝食は、赤頭巾先生が考案した『特製・生もずくと鳥ささみのスムージー、プロテイン粉末を添えて』よ! 全部飲み干すまで逃さないですぅ!」


「ひっ、ひぃぃ……! 味が……味が全くしません……!」


「当たり前よ。塩分は敵、調味料は細胞の悲鳴! 舌で味わうのではなく、血管で味わいなさい!」


元赤頭巾ちゃんの「健康オタク」ぶりは、アシュリンの筋肉暴力とはまた質の違う恐怖だった。


しかも彼女は、媚人たちがエロ狼から「アシュリンの引取料」としてせしめた、床下の隠し財産を見つけると、女神のような微笑みを浮かべてこう言い放った。


「あら。こんな不衛生な金属の塊を溜め込んで。重金属ストレスは美容の大敵よ。……ちょうどいいわ、この汚れたお金で、最高級の無農薬薬膳食材を大量買いしておきなさい」


「……あ、あああ……俺たちの……俺たちの虎の子の報酬が……!」


エロ狼にアシュリンを売り飛ばし、これでようやくこの筋肉地獄からおさらばできると確信していた『命の次に大事な金』は、すべて元赤頭巾ちゃんの意識高い系食材へと変換されてしまったのである。


「……なぁ。もう、限界だと思わないか?」

一人が、プロテインで白く汚れた手を震わせながら呟いた。


「毒リンゴはアレルギーでかわされ、エロ狼は川に流された。あいつを売った金まで消えて、今やモンスターが二人だ。このままじゃ、俺たちの精神が浄化デトックスされて消えてなくなるぞ」


幸いなことに、健康オタクの元赤頭巾ちゃんは、夕食の「根菜の泥付きボイル(味付けなし)」を媚人たちに完食させた後、川岸のレンガ屋敷へと帰っていった。アシュリンもまた、筋肉を修復するための深い眠り(という名の地響き)についている。


今こそ、脱走の密談の時だ。


「逃げるぞ。この国にいたら、いつかあの二人に見つかって、一生薬膳とスクワットの刑だ」


「どこへ行くんだ!?」


「隣の王国だ。あそこには『上半身裸で黒タイツ』の変な万年王子がいるらしいが、ここよりはマシだろう。あの長寿な国王が治める『エガオ王国』へトンズラするんだ!」


彼らは自分たちの身の回りのわずかな品を小さなリュックに隠し、次の晩に夜逃げする計画を固めた。


だが、運命はどこまでも彼らを逃がさない。


翌朝。アシュリンが朝の素振りを始める直前、小屋の扉を叩く音がした。

現れたのは、可愛らしいウサギのコスプレをした配達員である。


「お届け物でーす。……あ、これ、絶対に開けてくださいね。じゃないと僕の命に関わるんで(真顔)」


震える手で受け取ったその封筒。中身は、一目見て彼らを凍りつかせる「督促状」だった。


送り主は、森の魔女。

―約束の「若くてハンサムな男」はどうした? 期限を過ぎているようだが。約束を違えたらどうなるか、わかっているよね? 速やかに支払え。さもなくば、お前たちをまとめて売り飛ばしてやる。あ…遅れた分の利子もあるからな』


「ひっ、ひぃぃぃぃ!!」


夜逃げ計画は一瞬で崩れ去った。


『わがままボディ』の美少女を散々売り飛ばしていたが、今度は自分達が商品として売り飛ばされる恐怖に直面したのだ。


絶望に打ちひしがれ、朝からトボトボと森へ狩り(という名の現実逃避)に出かけた媚人たち。


重い足取りで歩く彼らの耳に、森の静寂を切り裂くような、聞き覚えのない不快な高音が響いた。


「アシュリィィィン! 私のハニー! どこへ行ったんだい!?」


森の奥から、キラキラとした(しかし、どこか薄気味悪い)オーラを纏った一団がやってくるのが見えた。


エドワード王子である。

彼は黄金像を抱えて森に入ったまま帰って来ないアシュリンを探しにやって来たのだ。


しかも、一人ではない。

「王子、あまり飛ばさないでください!」

「我ら親衛隊がついております!」


背後には、彼に心酔している(あるいは職務に忠実すぎる)親衛隊の男たちが3名、付き従っていた。


媚人たちは、顔を見合わせた。

絶望に染まっていた彼らの瞳に、邪悪な、しかし必死な光が宿る。


「……きた。とんで火に入る夏の虫だ」

「王子だけでなく、あの親衛隊もまとめて差し出せば、魔女も納得するはずだ!」

「遅れた利子としての貢ぎ物だ! 」


数刻後。

媚人たちから「アシュリンは魔女の館でエステを受けている」とデタラメを吹き込まれた王子一行は、鼻歌まじりに魔女の館へ。


そこで彼らを待ち受けていたのは、獲物を前に舌なめずりをする魔女であった。

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