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パーティを追放されけれど、助けた聖女と共に冒険者として生きていくことにした  作者: 巴 雪夜
第六章:雪狼は小栗鼠に恋をする

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第30話:ウォーターリーパーと雄叫びと


 馬車に揺られること数刻、ぽつりぽつりと家が見えてきた。麦畑に囲まれた集落はとても小さく、太陽の光に煌めく青々とした稲が風に靡いている。


 何処かの家で飼っているだろう鶏がコッコッと鳴きながら歩き回っていた。


 馬車から降りたクラウスたちは農作業をしている集落の住人に話しかけた。少し腰を曲げた老女が「あー、あの魔物ね」と言って指をさす。



「依頼を出したんはあっちの家の旦那なんよ。集落の代表的な家でね、詳しくは旦那に聞いておくれ」


「わかった」



 クラウスたちが案内された家を訪れると一人の若い男が出てきた。色黒で体格の良い男はギルドからやってきたと聞いて「助かるよ」と安堵した様子を見せる。



「あの魔物には困っていたんだ」


「この近くに沼があるのか?」


「あぁ、この先の森に大きな沼があるんだ。排水なんかを捨ててる場所なんだけど、魔物が増えちまって」



 迂闊に近寄れば襲われるので困っていたのだと男はクラウスに説明する。


 森のどの辺りかと問えば、一本道になっているからすぐ分かるだろうと返された。入り組んだ場所にあるわけではないようだ。


 数は数えていないらしく、一匹や二匹ではないことぐらいしか分からないとのこと。あまりに多いと対処が困るのだが、見てみないことには分からない。


 クラウスは「俺たちが見てこよう」と男に言うと、「お願いするよ」と頭を下げられた。



「あっちの森、立て看板がある道を真っ直ぐ行けばすぐだから」


「わかった、行ってこよう」



 男と話を終えてクラウスがフィリベルトに数は分からないことを伝える。それに「あまり多ければ一旦、引くことも考えるか」と彼は返した。


 いくら下級とはいえ、数で押されることがないわけではない。弱い敵だとしても油断してはいけないので、状況によって作戦を変えることも視野に入れておく。



「まずは見てみないことには分からんな」


「俺が先行しよう」


「クラウスの兄さんにしかできねぇもんな」



 偵察は音を、気配を消すことに長けたクラウスの得意なことだ。フィリベルトも異論はないようで、「気を付けてくれ」と言っている。



「あたしは、あたしは!」


「ルールーちゃんはお兄ちゃんと後方支援だぜー」


「アロイお兄ちゃんと一緒ね!」



 ルールエのきらきらとした瞳にはやる気が満ちている。冒険者として活動できることが嬉しいようで、アロイは「まぶしっ」と疲れた目元を擦った。


 こんな純粋な子が冒険者でいいのかと少しばかり思いながら。



「ヒルデも後方で支援を頼む。二人に何かあれば防御魔法を展開してくれ」


「わかりました、クラウスさん!」



 自分の得意分野でもある補助魔法なのでブリュンヒルトは「問題ないです!」とロッドを握り締める。



「では、行こうか」


「あぁ」



 フィリベルトの声にクラウスが返事を返し、すっと気配を消した。


 立て看板がある道までたどり着き、森へと入るとクラウスは音もなく走っていく。


 山ほど生い茂っていない森の中は陽の光が程よく入ってくるので視界は悪くなかった。獣道と違って人が作った道というのもあり、足場も悪くない。


 駆け飛ぶようにクラウスは走っているとじっとりと湿った匂いが鼻孔をくすぐった。汚水特有の不愉快な臭さに少しばかり顔を顰めてしまう。


 沼が見えてきてクラウスはそっと茂みに入ると木の上に登った。


 静かに音を立てず沼を確認すると、それはいた。白くでっぷりと太った蛙の胴体が顔を覗かせている。


 ちゃぷんちゃぷんと魚の尾を水面に叩きつけながら転がっては泥を身体につけてを繰り返す。


(数は……今見える範囲で六体か……)


 ウォーターリーパーの数は六体、少し多いが今の戦力ならば戦えなくはない。クラウスはそっと木から飛び降りて来た道を戻った。


 少し先で待機していたフィリベルトたちと合流し、ウォーターリーパーの数を伝える。沼中に潜んでいる可能性もあるが、戦うこと自体に支障はないだろうと。



「なら、私とクラウスでウォーターリーパーを陸へ誘導するか」


「じゃあ、オレとルールーちゃんは隠れて援護な」


「了解!」


「あ、私は防御魔法を展開しておきます」



 ブリュンヒルトは今回、守りに徹してもらうことにしてクラウスたちは沼へと向かう。アロイとルールエは沼が見える茂みに隠れ、その傍でブリュンヒルトがロッドを構える。


 小声で詠唱するとロッドの紫の魔法石が淡く光った。薄いベールが三人の前に守るように現れる。


 フィリベルトが大楯を構えれば、それに気づいたウォーターリーパーたちがぎゃっぎゃと鳴き喚き始めた。


 一体のウォーターリーパーが飛び跳ねてフィリベルトへと向かってきた。大楯で防いで後ろへと下がり、相手を陸へと誘導する。


 一匹、また一匹と陸へと上がってくるのを見て、クラウスは二刀の短刀を握る手に力を籠めた。


 たっと地面を蹴って短刀を振るう。ウォーターリーパーの柔らかい肉を切り裂いて薙ぎ払っていく。深くえぐられ飛ばされたウォーターリーパーは鳴き声を上げながら地面に落ちる。


 仲間の鳴き声に反応してウォーターリーパーはクラウスたちに飛び掛かった。


 短刀で弾き返しながら後ろへ飛んで回避するも、脇から襲い来た。さっと大楯がそれを受け止めて剣が突き刺される。


 フィリベルトが大楯を構えて前に立つ、彼の守りに助けられたクラウスは姿勢を低くすると狙いを定めて駆けだす。


 ウォーターリーパーは切り裂かれ呻き、一匹が倒れる。沼へと逃げようとするのをぬいぐるみが阻止した。


ウサギ、猫、犬、熊、さまざまなぬいぐるみたちが斧やナイフを持って沼へと逃げ帰ろうとするウォーターリーパーを止める。


 それでもその羽根で飛んで沼へと入ろうとすれば、魔力の矢が腹を貫いた。茂みから放たれる矢がウォーターリーパーたちを襲う。


 一本、一本確実に狙い撃っていく矢に逃げ場を失ったウォーターリーパーがぬいぐるみに襲われ、短刀に斬りつけられる。


 反撃を試みるものは大楯によって弾き返されて剣の餌食となった。一匹、倒れ、短刀を振るいウォーターリーパーの腹へと突き刺す。


 クロスボウから放たれた矢を受けて転がってきた奴にすかさず短刀を向けた。



「一匹、倒した!」



 ぬいぐるみたちが一匹のウォーターリーパーを倒す。負傷したウォーターリーパーが逃げ場を失い右往左往している残りの数にクラウスは一気に決めにかかった。



「フィリベルト、右を頼む」


「了解した」



 クラウスは駆け飛ぶと二体のウォーターリーパーとの距離を詰めた。イメージするは風、吹き抜ける刃のような――指輪にはめられた深紅の魔法石が鈍く光る。


 しゅんっと刃のような風がウォーターリーパーを襲った。駆け巡る刃に血が花弁のように散っていく中、クラウスは二刀の短刀で二体の腹を抉った。


 ぐしゃりと音を立てて死体が転がる。クラウスが短刀を下ろせば、フィリベルトも最後の一匹を切り捨てたところだった。



「これで全部か」


「私が見る限りではな」


「ぬいぐるみを沼の上に持っていって確認してみたけど大丈夫そうだよー」



 茂みからぬっと顔を出したルールエが報告する。クラウスも沼に近づいて目を凝らして見るが、何かが潜んでいる気配はなかった。


 今ので最後だったようで、アロイも「狙いやすい敵だったな」と出てくる。



「この死体どうするんですか?」


「ウォーターリーパーは素材にならないからこのままだな」


「皮も剥げそうにないもんねー」



 ぬいぐるみの素材欲しかったなとルールエはつまらそうにウォーターリーパーの死体を突いていた。それをフィリベルトが「やめさない」と止める。


 沼に異常がないのを確認して依頼はこれで完遂したことになる。あとは依頼主に報告するだけだとクラウスが皆に戻ろうかと声をかけようとした時だ。



「ブォォォォォォっ!」



 大きな雄たけびが響いた。


 あまりの声にルールエはリスの尻尾をぶわりと膨らませてフィリベルトに抱き着く。クラウスは周囲を見渡して鳴き声が何処から聴こえてきたのか耳を澄ます。


 もう一度、大きな雄叫びが聞こえてそれは森の奥であることを把握する。短刀を握る力を強めたのをアロイも見てか、クロスボウに矢を装填した。



「森の奥だが近い」


「あの先はヴァムフ山の裏山道へ通じているはずだ」



 ヴァムフ山へと通じる道は何本かあり、この集落の傍の森にもあった。山の裏側へと通じている道からではあるが、集落からそう遠くはない。



「どうする、クラウス」


「少し、様子を見てこよう。魔物が山から下りてきた可能性がある」



 魔物が山から下りて人里を襲うというのはよくあることだ。牛の魔物、イナンバのような存在もいなくはない。


 ヴァムフ山に住まう魔物の中には中級も存在するので放置しておくことはできなかった。


 フィリベルトも無視することができないようで「サポートしよう」と大楯を構え直す。アロイも準備ができているようで「いつでもいいぜ」と返事をした。



「ルールエ、こういった状況になることもある。ヒルデと共に後方に下がっていてくれ」


「わ、わかった」



 クラウスの指示にルールエは頷くとブリュンヒルトの後ろに隠れた。



 ばさばさと鳥たちが一斉に飛び立っていく、それは何かが暴れているのを知らせるようだった。


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