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パーティを追放されけれど、助けた聖女と共に冒険者として生きていくことにした  作者: 巴 雪夜
第一章:聖女の護衛

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第3話:一つ片づけて、また一つ増える

 森を抜けて草原を馬車が駆けていく。晴れわたった空に風が吹き抜けて、クラウスの長い黒髪を攫った。


 護衛依頼をしてきたブリュンヒルトは簡潔に依頼の内容を話してくれた。


 呪物による呪いは聖職者でしか解くことができない。それも強いものであれば、聖女のような力ではないと難しいのだという。


 聖女として一応は神託を受けた彼女はその浄化の任を受けて此処までやってきた。護衛とは名ばかりの二人の修道女を連れて。


 ブリュンヒルトはどうやら、聖女ではあるけれど落ちこぼれのような立ち位置らしい。都にはもう一人、聖女がいるのだと。彼女こそが真の聖女であり、自分はおまけだと彼女は寂しげに言っていた。


 クラウスには詳しいことは分からないが、彼女の立場があまり良くはないというのは理解できた。それは護衛のいないことで表されている、死んでもいい存在として。


 草原を駆けながら数刻、ぽつりぽつりと家が見えてきた。カンタレは長閑な村というのが最初の印象だった。


 小さな家が並び、家畜の鶏やヤギが歩き、村人が畑を耕している。ただ、見かける人の顔色は悪くて何処か不安そうだった。


 近くにいた村人にブリュンヒルトが話しかけると、やっときてくれたと喜び縋るように案内をしてくれた。村長の家で出迎えてくれた初老の男が、ブリュンヒルトの姿を見るや否や祈るように手を合わせる。



「わざわざご足労いただき有難うございます。聖女様に浄化していただけるとは……」


「いえ、気にしないでください。それで、呪物と呪われた方たちは?」


「あぁ、こちらです」



 村長は家を出て歩き出す、そこは村から少し外れた場所だ。お世辞にも綺麗とは言えない小屋がひっそりと佇んでいる。


 小屋に近寄ると腐ったような、生臭さが纏わりついていた。鼻につく臭いにクラウスは顔を顰めてしまうが、それはブリュンヒルトも二人の修道女も同じだ。


 村長が扉をゆっくりと開けると一気に悪臭が襲ってきた。室内を覗いて見るが不衛生というわけではなく何もない、そう何もない部屋だ。


 小屋の中は何もない空っぽに近く、床に二人の男が転がっているだけだ。彼らの目は焦点が合っておらず、ただ呻いているだけの生き物になっている。


 村長は「あれです」と部屋の奥を指す先にテーブルが一つあり、その上には奇妙な箱が置かれていた。


 小さな両手サイズの銀の装飾が施された箱だ。女性のアクセサリー入れのようなものから臭いがしているようだった。


 ブリュンヒルトはクラウスたちに終わるまで此処で待っているように言って箱へと近づいていく。手が触れるか触れないかの距離まで近づき、ロッドを向けた。



「月よ、聖なる光を――」



 詠唱が室内に響き、ロッドに装飾された紫の魔法石が淡く光を放った。



「――――っ!」



 それは悲鳴だった。耳をつんざくような叫び声が箱から上がってクラウスは思わず耳を塞いだ。


 光が強まっていくにつれて声が弱くなっていき、最後には嗚咽と共に静まる。すると箱がパンっと開き、どす黒いオーラを吐き出した。途端にあれだけ鼻についた異臭がなくなる。



「呪物の浄化は終わりました。あとは影響を受けてしまった人を……」



 ブリュンヒルトは寝転がりながら呻いている二人の男の元へと近寄り、ロッドを翳して再び詠唱をする。ゆっくりとゆっくりと男たちの瞳に光が宿っていくのが見えた。



「あ、あぁ……」



 男たちは意識を取り戻したのか、瞬きをして起き上がった。村長はそんな二人に駆け寄ってよかったと声をかけるが、彼らには何が起こっていたのか分かっていないようだ。


 ブリュンヒルトは箱の元へと戻ってそれを手にする。



「村長さん、これは教会のほうでお預かりします。まだ危険はありますので」


「はい、よろしくお願いします」



 ブリュンヒルトは箱を大事そうに持ってクラウスたちのほうへとやってくる。修道女たちは呪物が気になるようで「なんでしたか?」と小声で聞いていた。


 ブリュンヒルトは「これには恨みが籠められている」と話す。人から溢れた恨みが詰め込まれ、一つのアクセサリーとなった。誰かを呪い、殺し、それを繰り返して力を強めたものだという。



「この呪物は力が強すぎて影響力を低くするのがやっとです。周囲で見る分には問題ないですが、触れたり身に付けたりしたらどうなるかわからない。なので、決して触らないでください」



 そう言われてクラウスは頷きながらちらりと箱を覗く。箱の中には指輪が一つ収まっており、深紅の宝石がぎらりと鈍く光っていた。


 ブリュンヒルトは箱の蓋を閉じて、自身の肩掛けカバンに仕舞う。これで依頼は終わりのようで、村長も二人の村人を連れてきたのでクラウスたちは小屋を出た。


 この村にもう用はない。クラウスはなら自分は此処で離脱しようとブリュンヒルトに話しかけた。



「俺は此処で……」


「聖女様っ!」



 そんなクラウスの言葉を遮るように大声がしてブリュンヒルトに女が一人、縋るように抱き着いた。まだ若く見える村人は涙を溜めた瞳を向ける。



「聖女様、お助けください。私の、私の妹がゴブリンに……」


「こらっ! やめぬか!」



 縋る彼女を村長が止めに入る。それでも離れようとしないので、ブリュンヒルトは「何があったのですか?」と問う。すると、村長は言いにくそうに口を開いた。


 数日前のことだ、村はゴブリンの被害にあった。畑で手伝いをしていた少女を攫っていったのだという。



「ギルドへはお願いをして、すでに三人の冒険者が……」


「でも、あの冒険者は明らかに初心者だったわ! それに二日も経つのに戻ってこないじゃないの!」



 攫われた少女の姉は叫ぶ。二日経っても戻ってこないということは既にやられたか、逃げ出したかの二択だなとクラウスは思った。


 落ち着いてくださいとブリュンヒルトは言うものの、彼女は暴れるように叫びながら「お願いします」と地面に額を擦り付ける。


 ブリュンヒルトは困ったように眉を下げてクラウスを見た。真っ青な瞳が子犬のように潤んでいる様子にやめてくれとクラウスは思う、そんな眼で見るなと。


 泣き叫ぶ姿にブリュンヒルトは「あのですね」と声をかける。



「こちらの方、Bランク冒険者なんですよ!」


「おい」



 Bランク冒険者と聞き、顔を上げて攫われた少女の姉はクラウスのロングコートを掴む。またこの状態かとクラウスは額に手を当てる。この光景はブリュンヒルトに護衛を頼まれた状況と似ていた。


 ブリュンヒルトは「大丈夫ですから」と彼女を安心させるように言う。



「私もいますし、大丈夫です!」


「待て、まだ受けるとは言っていない」



 勝手に引き受けようとするブリュンヒルトを止めるようにクラウスが割って入ると、「何故ですか!」と彼女は声を上げて見てくる。



「まず、情報だ。ゴブリンでも何パターンかある」



 群れを形成しているタイプ、数匹で行動しているタイプ、リーダーが存在し巨大化しているタイプとパターンは多い。


 その情報によっては自分一人では無理だとクラウスははっきりと告げる。



「俺にも戦える限度がある」


「妹を攫ったのは二体のゴブリンです……」



 少女を攫ったのは小柄なゴブリン二体。様子を確認しに行った村人の話では洞窟のほうへと走っていったらしい。


 洞窟はゴブリンの住処でよくある場所だ。複数体で村を襲わなかったということは数がまだ増えていないのかもしれない。クラウスは考えるように顎に手を当てる。


 クラウスが「洞窟がどんな形状か分かるか」と問うと、「それほど大きくはなかったはずです」と村長が答えた。魔物が住み着く前まではクラガリダケというキノコを採取していたので長さは知っていると。


 入口から少し先に行くと二手に分かれており、真っ直ぐ進むと行き止まりで曲がると少し広くなった空間に出るのだと教えてくれた。


(曲がった先だな)


 住処としてならばその広い空間が最適だろう。そして、罠を仕掛けるならば二手に分かれたているところだ。


 空間の広さを聞き、まだ数が揃っていないだろうという想定でクラウスは話す。



「確認をしに行くのはいい。ただ、ゴブリンの数が想定よりも多い場合、撤退する。ギルドに早めの要請を俺からする。それでいいのならば、見に行こう」



 さらに「もし、ゴブリンを退治できたとしても妹の無事は期待するな」とクラウスは忠告する。



「無傷は期待するな。数日経っているのならば、尚更だ。ゴブリンは女子供を弄ぶ。死んでなければ良い方だと思え」



 その言葉に少女の姉は声を上げて涙を流した。ブリュンヒルトが驚いたふうの瞳を向けてくるが、クラウスは「隠してどうする」と返す。



「隠すだけ無駄だ。助けた時に分かるからな。それに覚悟は必要だ」


「そ、それはそうかもしれないですけど……」



 そんなきっぱりとブリュンヒルトが呟く。そんな彼女を無視して、どうするのだとクラウスは問う。



「……お願いします」



 悲痛な声だった。クラウスははぁと溜息をついて「分かった」と返事をすると、村長に場所を聞いて歩き出す。



「ま、待ってくださいよ!」


「なんだ」


「私も行きます!」



 ブリュンヒルトの言葉に「はぁ?」とクラウスは返す。彼女は「私が最初に言い出したことですし」と言った。



「私、一応は聖女ですから、役に立ちます!」


「お待ちください、聖女様!」



 リジュが止めに入る、話を聞いていたのですかと。


 ゴブリンは人間の女子供を弄ぶのだ、「そんな魔物の元に行くなど危険です」とファルも言う。クラウスも二人の意見に頷いたけれど、ブリュンヒルトは引かない。



「何かあった時の連絡役がいないのは良くないです!」


「むしろ、偵察なら一人のほうがいいのだが……」



 じっと見つめる真っ青な瞳を見て、置いていってもついてくる気がした。クラウスは何度目かの溜息を吐いて「前には絶対に出るな」と同行の条件を出した。



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