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第六章 王都カリュードの召命

【第六章 王都カリュードの召命】ーーーーーーーー


 黒竜アガートが退き、神殿に再び静寂が戻った。だが、その余韻はあまりに重かった。

 リュシアンの胸には“十三番目の王”という烙印のような言葉が突き刺さったまま抜けない。


 アシュレイは静かに口を開いた。

「……ここで立ち止まるわけにはいかん。次に向かうべきは、王都カリュードだ。玉座は未だ空席のまま、王統の血脈を呼び寄せている。お前の記憶の欠片も、そこにあるはずだ」


 イェルファも頷いた。

「王都には“灰の書庫”があります。すべての王が記した記録と、失われた時代の継承が眠る場所。……あなたの真実を知るには、そこしかありません」


 リュシアンは拳を握った。

「行こう。俺が何者であろうと……確かめなければならない」





 王都は、かつて七つの王統が集った都。白亜の石で築かれた高壁は、遠目には堅牢に見えたが、近づけば崩落の跡が痛々しく残っている。

 広場には人々の姿があった。だが誰もが怯え、兵士でさえ槍を持つ手が震えている。


「……竜の咆哮はここまで届いたか」アシュレイが眉をひそめた。


 リュシアンは民の視線を感じた。彼らの目には、期待と恐怖が入り混じっていた。まるで、彼が来ることをすでに“知っていた”かのように。


 やがて一行を出迎えたのは、白衣の老導師だった。

「――やはり来られましたか、“灰の王”よ」


「俺は……王じゃない」リュシアンは反射的に言い返す。

 だが老導師は首を振った。

「血と記憶がそう呼んでいる。すでに玉座は、あなたを召命した。拒むことはできぬ」


 玉座――その言葉に、胸の奥が熱を帯びる。






 王城の最奥にある“灰の書庫”は、光を拒むかのように冷たく暗い場所だった。

 石壁の中に浮かぶ数え切れぬ魔法書。どの頁にも、王統の血が刻んだ記録が眠っている。


 イェルファが一冊の古い巻物を取り出した。

「これが……“裏切りの王”の記録」


 リュシアンは震える指で頁をめくる。


 そこには――灰色の王が十三人目として現れ、盟約を破り、竜を解き放ったと記されていた。

 しかしその行の横に、消されたような文字が残っていた。


 “――王は裏切ったのではない。王は、盟を護るために十三番目を演じたのだ”


 リュシアンの心臓が強く跳ねた。

「……俺は……“演じていた”……?」






 そのとき、書庫全体に冷たい気配が走った。

 壁に映る影が揺らぎ、人の形を取り始める。


「また……来やがったか」アシュレイが剣を抜く。


 影の中から現れたのは、冥殿の従者たち。

 仮面の首領が声を響かせた。

「王都に集うとは好都合。ここでお前を“影写し”に沈め、完全なる模写を得る!」


 次々に影兵が現れる。その中には――“影のリュシアン”もいた。


 だが、今度は違った。

 影はかすかに笑い、囁いた。


「ようやく近づいてきたな。お前の“真実”に」


 剣を構えるリュシアンの背後で、王城の玉座が微かに光を放つ。

 まるで彼を呼ぶように――。





#ファンタジー小説



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