Monochrome
薄暗い診察室に、僕たちが二人
鏡写しの様に向かい合って座りながら、どちらも裸の肩にシャツを浅く羽織っている
服のボタンを外していく様に、或いはネクタイを外す様に、僕は君の左腕の包帯をゆっくりと解いた
うっすらとした血の匂いが淫靡に香る
包帯が外れてひらひらと床に落ちた
君は手を握ったり開いたりした後、僕を視て口元で嗤う
「先生の躰が、また一つボクのものになって」
「ボクの躰が、また一つ先生のものになったんですね」
言い終えると視線を僕に向けたまま、君は左手の指を静かに一つずつ舐めていく
昨日まで、僕のものだった指を
「あっ、そうだ」
君は何かを思い付き、指を舐めるのを止める
「次は舌を取り替えてみませんか?」
「先生の舌がいつでも口の中にあったらボク、どうなっちゃうんだろう…」
自分の躰を君のそれと見比べる
二人とも「継ぎ目」を表す抜糸痕だらけだ
僕は自分の腕の包帯を外しながら、それは少し難しいかも知れないと答えた
出血が激しくなり過ぎるため、舌の交換は技術的に困難だ
そもそも神経の数が多い
眼や舌を交換する事も理論上は可能なのかも知れないが、一人でそれを行える自信は無かった
「じゃあ」
「こういうのはどうですか?」
君がメスで自分の躰を胸から下腹部にかけてなぞっていく
すぐに血の線が滲み、皮膚が切り開かれて鮮やかな色の肉が露わになった
咄嗟に止めようとしたが、君は指揮棒でも動かす様な優美な動きでメスを振り、僕の躰にも同じ様に線を引いた
二人の躰に血が滲み、解剖された腹膜から臓物が零れるかに思えた時、君は僕を乱暴に抱き寄せた
互いの皮膚すら纏わない肉同士が深く口付け合い、血液が元に戻れない程に熱く交わった
メスが床に落ちる音が響く
僕たちは、相手の背に両手を回してきつく抱き締め合っていた
失血に目眩がする
臓物こそ零れる事は無かったが、診察室の床は一つの例外も無く、僕たちの粘着く血液に塗り潰されていた
「先生の肉、あたたかいですね…」
繫がり合った傷口をぐちゃぐちゃと擦り合わせながら、君は時折悦びに声を上げた
「ボク、このまま先生と一つになりたいです」
君が合わさった傷口に針を差し込む
僕たちは縫い合わされ、結ばれて一つのものになった