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ショタパンコラボ 500話お祝い 甘い贈り物 前編

「えっと、こっちがトリュフで、こっちが生チョコレート、それからこれがブラウニーになります」

「ほえ~。チョコレートがこんなに色々になるんじゃのお~」

「小さいのに大したものだ。それにこのチョコレート、随分と工夫され、美味しくなっているね」

「美味しい、ですか? ホントに?」

「うん。チョコレートもホワイトチョコレートも、そして、それを使った、お菓子もとっても美味しい」

「料理上手じゃのお。ハルトは。

 流石、なのじゃ!」


 華やかな外見の兄妹に手放しで褒められて、照れくさそうに銀髪の少年は微笑む。

 海と空を混ぜて溶かしたようなサファイアの瞳を輝かせ。

 緊張と生真面目さに今まで隠していた、8歳の、子どもらしい笑顔で。



 この世界に、レオンハルトと名乗る少年が現れた、領主家子息との面会を望んでいる。という連絡が領主代理であるアダマスの所に届いたのは、少年が訪れてそれほど時間が経っていない時だと思われる。

 何でも、その少年は、大きな荷物を持って、領都の中心市街地に、突然現れたという。

 そして周囲を見回したかと思うと、近くの大人を捕まえ


「ちょっとお伺いしますが、アダマス・フォン・ラッキーダスト、という方をご存じだったりしませんか?」


 と問いかけてきたという。

 勿論、声をかけられた大人は、少年が告げた名前がこの領地の次期当主の名前である事を知っている。だから、幼いながらも品のよい顔をして、整った身なりをした子どもを領主一族の関係者か? と思い手を尽くして連絡をとってくれたのだった。

 幸い、出歩くことも多いという少年は在宅中で、面会要請に首を捻りながら応じてくれ、


「ああ、もしかして君はフェイの息子かい?」


 気丈に、顔を上げていた少年に、望む声、願う言葉をかけてくれたのだった。




 アースガイアと呼ばれる少年の住む世界と、『アダマス・フォン・ラッキーダスト少年がいる世界』はまったくの異世界である。

 けれど、時々、何故か少年の世界と近づくことがあり、アースガイアの人間が迷い込んだり、向こうの世界の人間がアースガイアに迷い込んだりするという話を、彼は父や敬愛する女性からよく聞いていた。


「アダマスさんの世界は、私達の世界と色々と法則が違うの。一番の違いは精霊がいない事。だからアースガイアの魔術はほぼ使う事ができないわ」


 父が主君以上の存在と仰ぐ麗しの貴婦人は、よくかの地での楽しかった思い出を自分や、幼馴染である彼女の娘に話してくれていた。少年は歳の割には頭が良く、記憶力も優れていると周囲から言われていた。自分でもそう思っている。


 だから、注文してたものをゲシュマック商会から受け取り、街を歩いていたら突如空間が歪み、訳の分からぬまま知らない間に違う世界に移動していた。と、気付いて直ぐに手を打つことができた。

 自分は異世界に迷い込んだトタン戸惑い、泣きだしたという幼馴染みとは違うのだ。

 と、自分を鼓舞している様子は、まだまだ子どもだな。とアダマス少年は感じていたかもしれないけれど。


「できるなら、両親やマリカ様達の手を煩わせること無く帰りたいのです。父上や、マリカ様、クレア達はアダマス様なら、送り帰すことが可能であると言っていました。

 どうか、お願いできますでしょうか? 僕の手持ちのものであれば、何でも交通費代わりにお渡しします」

「いや、別にそんなのは気にしなくてもいいけど……ってシャル?」

「くんくん。なんだか。あま~~~い匂いがするのじゃ」

「わっ!」


 跪き、上位者への礼を取っていた少年は、突然真横に聞こえて来たソプラノに慄いたように後ずさった。

 気付いてみれば、金髪、ツインテールの美少女が、自分が横に置いていた鞄に向けて鼻を動かしている。


「こら、シャル。お行儀が良くないよ。でも、本当に強い香りだね」

「僕、変な匂いですか?」

「違う違う。シャルも言ったけれど、甘くていい匂いだ。

 鮮烈と言うか、鮮やかというか……これ、チョコレート?」

「あ、はい。そうです。板チョコレート。

 異国の名産品なんですけれど、母上と父上の結婚記念日が近いので、お菓子を作ってあげたくて、頼んで取り寄せて貰ってたんです」

「チョコ? これがチョコレートなのじゃ?」

「はい」


 そう言って、少年は手提げかばんの中から、木箱を取り出して見せる。

 薄い木箱に入れられ、つるんと薄い蝋引きをかけられた紙に包まれたそれは、キレイに板状に伸ばされた確かにチョコレートだった。


「へえ、面白い形をしているね。板?」

「はい。保存性と、持ち運びに適しているので基本形状はこの形に、ってマリカ様が決めたそうです」

「なんか、線がひいてあるのじゃ。何か意味があるのかや?」

「この線に沿って割ると細かい欠片に分けられるので。味見してみますか?」


 少年は、直接チョコレートに触れないように注意しながらチョコレートの一つを注意深く小さめの四角に割って二人に差し出す。


「失礼します」


 先に一つ自分で食べて見せたのは、おそらく毒見の為だろう。貴族相手の気遣いがしっかり叩き込まれているのだな、とアダマスは頷きながら


「じゃあ、僕も一つ貰おうかな?」

「妾も頂くのじゃ。マリカのところのチョコレート、興味ありありなのじゃ!」


 妹と一緒にチョコレートのピースを口に運ぶ。


「へえ、これはこれは」

「甘いし! 柔らかいのじゃ! 口の中でふわっと、溶けて行く感じで」

「『味は日々進化しているわね。元の世界のレベルまであともうすこしかなあ~』とマリカ様がおっしゃっていました。僕には生まれた時からこの味なので、よく解らないですけど」


 砂糖にミルクがかなり入っているように思う。でも固さはそこまでではなく、むしろ心地よい歯ごたえで、歯で砕き割ると口の中で蕩けて行く。チョコレートの香りやコクは失われていない。マリカが最初にこの世界に来た時はチョコレートを食べたことがない風だったのに、十数年で随分と進化させたものだと、少し感心する。


「こっちは最近、開発された『ホワイトチョコレート』です。カカオバターで作られていると聞きました」

「うわ~、チョコレートが白いのじゃ!」

「これもチョコレート?」

「カカオマスという粉が入っていないのだそうです。

 その分、苦みが無くって違う風味が楽しめるとか」

「こっちも食べてみていいかや?」

「どうぞ」

「……ホントに、全然、苦くないのじゃ。今までのチョコレートと全然違う感じ。おいしいのじゃ」

「面白いねえ」

「こういうチョコレートだったら、妾もチョコレートが怖くなかったのに」


 長方形の一列分を味見で食べ切ってしまったが、シャルロットは、まだ物足りなさそうな様子だ。うっとりと夢見るような表情で、口の中に残る風味を反芻している。


「ふうむ……。ねえ、君。さっき『お菓子を作ってあげたくて』って言ってたけど、君が作るの? お菓子」

「あ、はい。趣味なので」


 アダマスの問いにはいと頷く八歳。大人だ。


「父上、甘いものが好きなんです。だから、マリカ様と魔王城のジョイ兄様に頼んで色々と教えて貰ってて……」

「良い趣味してるね。う~ん。じゃあ、そのチョコレート、これ以上分けてっていうのも申し訳ない? 両親へのプレゼントならお小遣いで買ったんでしょ?」

「別にいいですよ。戻ったら買い直します。それより国に帰れる方が重要なので」

「じゃあさ、そのチョコレートで君がマリカから教わったっていうお菓子を作ってくれないかな? 帰還は請け負うし、レシピ代とチョコレート代として代金もお土産代込みで弾む」

「解りました。僕も、本番前に、練習をしたかったしその方向で。台所をお借りできますか?」

「いいよ。こっちだ」


 立ち上がった少年達の後を、少女はウキウキの笑顔でついていく。

 金のツインテールは、喜びに心踊らせる子犬のそれのように、嬉し気に弾んで揺れていた。


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